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36.僕たちは、燃え盛る、怒りの中で出逢い…
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無理矢理片手でドアをこじ開けたらしいノレンの、もう片方の手に握られているスマホから微かに漏れるコール音。それに呼応して鳴る城之内先輩のスマホ。
「着信音がでかくて助かった。全能の俺でも音だけを頼りに探すには限界があるからな」
そう言ったノレンがやっと通話終了のボタンを押す。途端に静けさを取り戻したエレベーター内。
この分厚い壁に覆われた庫内から漏れ聞こえる着信音を探し当てるとか、充分に超人的な能力だと思いますが!? と怯えている俺に、ノレンが手を差し伸べた。
エレベーターはフロアとフロアの中間で停止していたらしく、ドアが開いても下半分は壁に塞がれていて俺の目線の位置にノレンのつま先が見える。その新品のように輝く靴先の前に片膝をついたノレンは、どうやら俺を引き上げてくれるつもりらしい。
ビリビリと鳥肌が立つような殺気が溢れているノレンではあるが、その矛先は俺へは向いていないようなのでありがたく手を伸ばすと、横から遮られた。城之内先輩が俺を背にして立ち塞がったのだ。
「邪魔しないでほしいんだけど」
言葉こそ柔らかいが城之内先輩の声は凍るほどに鋭く冷たい。聞いたことのない声音にぎょっとして目線を上げるが、先輩の表情は見えない。その代わりに正面のノレンが瞬間的に眉間に深い皺を刻んだのが見えた。高い位置からこちらを見下ろすノレンの殺気が凄まじく膨れ上がった気がする。これこそ殺気、殺す気持ちと書いて殺気。
以前篁先輩と繰り広げた壮絶な舌戦を思い出して胃を縮こませた俺だが、予想に反してノレンはしばらく睨みつけた後に目を閉じた。それからゆっくりと息を吐き出し
「なに焦ってんだ綾人」
と静かに言った。眉間の皺は相変わらずだが、口調に棘はなく諭すように静かだった。
「これがお前のやり方か? 俺が見込んだ綾人とは別人みたいにお粗末なもんだな?」
城之内先輩が言い返さないでいると、ノレンは身を乗り出してまた俺に手を伸ばした。俺がそれを掴むより早く一方的に腕を掴まれ、一気に引きずり上げられる。
痛い! 雑! 扱いが雑なんですけど!?
フロアに上がる際にぶつけた膝やら肘やらを押さえていると、ノレンは城之内先輩を感情の読めない目で見下ろして
「少しそこで頭冷やしてろ」
と言って、また俺の腕を掴み歩き出してしまった。
ノレンの歩幅に合わせるのに必死で振り向くこともできなかったから、結局城之内先輩がどんな顔をしていたのかはわからない。だがなんとなく、その方がよかったんだろうなと思う。もしかしたらノレンは、城之内先輩のプライドを守るために俺を急いであの場から立ち退かせ、遠ざけようとしたのかもしれない。そう思わないと納得できないくらいの雑さだった。いくらモブとはいえ痛いものは痛いんだからな。
そして今も俺を荷物かなにかと思ってるのかというほどぞんざいな扱いで引っ張られている。どちらかといえば引きずられている、に近い。相手は生徒会長ではあるが一応クラスメイトなわけだし、他の先輩方よりは強気になってしまった俺は、掴まれたままの腕が痛いと訴えようと声を掛け、すぐに後悔した。
「あのさ、ノレン……」
「あ゛ぁ゛?」
すいませんすいません、モブが調子に乗ってほんとすいません。俺の腕なんか粉砕骨折しようがどうでもいいですよね、すみません。謝るからその殺気をお鎮めくだされ!
城之内先輩と別れてから収まったはずのノレンの殺気がまた復活している、どころかむしろ辺り一面殺気だらけの荒野だ。やっぱりノレンの怒りは俺へ向けたものだったということなのか。
考えてみれば俺のせいで生徒会どころか風紀や親衛隊、ひいては学園全体までかき乱してしまった現状、生徒会長であるノレンが俺へのヘイトを蓄積させていてもおかしくはない。その挙句に会議前に役員の一人である城之内先輩と個室に篭り連絡も取れなくなって、とうとう怒りが爆発してしまったのかもしれない。さっきは城之内先輩がいた手前なんとか押さえたが、二人きりになった今、堪えていたものが噴出してしまったということだろうか。
それを証明するように、ノレンの歩調はずんずんと乱暴に進み、階段を使って俺の部屋の前まで引きずって来ると、開けろと目線だけで命令された。その今にも「モブのくせに生意気だ」と言わんばかりの高圧的なジャイアニズムに満ち満ちた視線に抗う術もなく、俺は自室のドアの鍵を開けた。すると俺より先にドアノブを握ったノレンが俺を突き飛ばすように部屋へ押し込めて、続いて入ってすぐにドアを閉めた。
やっぱり怒ってらっしゃる! 相当怒ってらっしゃる……! これはノレン的に表現すれば、邪気眼が開いて暗黒闘気が立ち昇りエターナルフォースブリザードで終末聖戦が始まるレベルの怒りかもしれない。知らんけど。
さすがに生徒会長という立場上、暴力を振るわれることはないと思うが、会長権限で退学とかはありうる。
俺は真っ青になってノレンを振り返り、身の潔白を主張しようとした。生徒会役員の人たちに邪な気持ちは持っていないし、副会長になるつもりもないと伝えようと口を開いた矢先、
「副会長になれ、朝比奈蛍」
と先に語気鋭く言われ、否定しなければと焦ったあまり、勢いよく
「ならない!」
と大声で断固拒否してしまった。
なんとか穏便にとここまで身を削る思いでやってきたのに、一言で全てを無駄にしてしまった。目の前が真っ暗になったが、出てしまった言葉は戻らない。せめてノレンが実はさっぱりとしたいいやつで、本音を聞けてよかったと爽やかに笑う性格でありますようにと願ったが、当然そんなはずはない。うん知ってる。
どこかの死亡フラグのように「副会長にならないなら(社会的に)殺す」という絶望エンドだけはなんとしても回避したいところだが、俺の返事を受けてノレンの眉間の皺は一層深くなり、目つきはもはや脳内で俺を幾通りもの方法で殺害し終えたかのようだ。背筋に冷たいものが流れた時、
「ならないなら犯す」
違う方向で最悪の返答がきた……。
「着信音がでかくて助かった。全能の俺でも音だけを頼りに探すには限界があるからな」
そう言ったノレンがやっと通話終了のボタンを押す。途端に静けさを取り戻したエレベーター内。
この分厚い壁に覆われた庫内から漏れ聞こえる着信音を探し当てるとか、充分に超人的な能力だと思いますが!? と怯えている俺に、ノレンが手を差し伸べた。
エレベーターはフロアとフロアの中間で停止していたらしく、ドアが開いても下半分は壁に塞がれていて俺の目線の位置にノレンのつま先が見える。その新品のように輝く靴先の前に片膝をついたノレンは、どうやら俺を引き上げてくれるつもりらしい。
ビリビリと鳥肌が立つような殺気が溢れているノレンではあるが、その矛先は俺へは向いていないようなのでありがたく手を伸ばすと、横から遮られた。城之内先輩が俺を背にして立ち塞がったのだ。
「邪魔しないでほしいんだけど」
言葉こそ柔らかいが城之内先輩の声は凍るほどに鋭く冷たい。聞いたことのない声音にぎょっとして目線を上げるが、先輩の表情は見えない。その代わりに正面のノレンが瞬間的に眉間に深い皺を刻んだのが見えた。高い位置からこちらを見下ろすノレンの殺気が凄まじく膨れ上がった気がする。これこそ殺気、殺す気持ちと書いて殺気。
以前篁先輩と繰り広げた壮絶な舌戦を思い出して胃を縮こませた俺だが、予想に反してノレンはしばらく睨みつけた後に目を閉じた。それからゆっくりと息を吐き出し
「なに焦ってんだ綾人」
と静かに言った。眉間の皺は相変わらずだが、口調に棘はなく諭すように静かだった。
「これがお前のやり方か? 俺が見込んだ綾人とは別人みたいにお粗末なもんだな?」
城之内先輩が言い返さないでいると、ノレンは身を乗り出してまた俺に手を伸ばした。俺がそれを掴むより早く一方的に腕を掴まれ、一気に引きずり上げられる。
痛い! 雑! 扱いが雑なんですけど!?
フロアに上がる際にぶつけた膝やら肘やらを押さえていると、ノレンは城之内先輩を感情の読めない目で見下ろして
「少しそこで頭冷やしてろ」
と言って、また俺の腕を掴み歩き出してしまった。
ノレンの歩幅に合わせるのに必死で振り向くこともできなかったから、結局城之内先輩がどんな顔をしていたのかはわからない。だがなんとなく、その方がよかったんだろうなと思う。もしかしたらノレンは、城之内先輩のプライドを守るために俺を急いであの場から立ち退かせ、遠ざけようとしたのかもしれない。そう思わないと納得できないくらいの雑さだった。いくらモブとはいえ痛いものは痛いんだからな。
そして今も俺を荷物かなにかと思ってるのかというほどぞんざいな扱いで引っ張られている。どちらかといえば引きずられている、に近い。相手は生徒会長ではあるが一応クラスメイトなわけだし、他の先輩方よりは強気になってしまった俺は、掴まれたままの腕が痛いと訴えようと声を掛け、すぐに後悔した。
「あのさ、ノレン……」
「あ゛ぁ゛?」
すいませんすいません、モブが調子に乗ってほんとすいません。俺の腕なんか粉砕骨折しようがどうでもいいですよね、すみません。謝るからその殺気をお鎮めくだされ!
城之内先輩と別れてから収まったはずのノレンの殺気がまた復活している、どころかむしろ辺り一面殺気だらけの荒野だ。やっぱりノレンの怒りは俺へ向けたものだったということなのか。
考えてみれば俺のせいで生徒会どころか風紀や親衛隊、ひいては学園全体までかき乱してしまった現状、生徒会長であるノレンが俺へのヘイトを蓄積させていてもおかしくはない。その挙句に会議前に役員の一人である城之内先輩と個室に篭り連絡も取れなくなって、とうとう怒りが爆発してしまったのかもしれない。さっきは城之内先輩がいた手前なんとか押さえたが、二人きりになった今、堪えていたものが噴出してしまったということだろうか。
それを証明するように、ノレンの歩調はずんずんと乱暴に進み、階段を使って俺の部屋の前まで引きずって来ると、開けろと目線だけで命令された。その今にも「モブのくせに生意気だ」と言わんばかりの高圧的なジャイアニズムに満ち満ちた視線に抗う術もなく、俺は自室のドアの鍵を開けた。すると俺より先にドアノブを握ったノレンが俺を突き飛ばすように部屋へ押し込めて、続いて入ってすぐにドアを閉めた。
やっぱり怒ってらっしゃる! 相当怒ってらっしゃる……! これはノレン的に表現すれば、邪気眼が開いて暗黒闘気が立ち昇りエターナルフォースブリザードで終末聖戦が始まるレベルの怒りかもしれない。知らんけど。
さすがに生徒会長という立場上、暴力を振るわれることはないと思うが、会長権限で退学とかはありうる。
俺は真っ青になってノレンを振り返り、身の潔白を主張しようとした。生徒会役員の人たちに邪な気持ちは持っていないし、副会長になるつもりもないと伝えようと口を開いた矢先、
「副会長になれ、朝比奈蛍」
と先に語気鋭く言われ、否定しなければと焦ったあまり、勢いよく
「ならない!」
と大声で断固拒否してしまった。
なんとか穏便にとここまで身を削る思いでやってきたのに、一言で全てを無駄にしてしまった。目の前が真っ暗になったが、出てしまった言葉は戻らない。せめてノレンが実はさっぱりとしたいいやつで、本音を聞けてよかったと爽やかに笑う性格でありますようにと願ったが、当然そんなはずはない。うん知ってる。
どこかの死亡フラグのように「副会長にならないなら(社会的に)殺す」という絶望エンドだけはなんとしても回避したいところだが、俺の返事を受けてノレンの眉間の皺は一層深くなり、目つきはもはや脳内で俺を幾通りもの方法で殺害し終えたかのようだ。背筋に冷たいものが流れた時、
「ならないなら犯す」
違う方向で最悪の返答がきた……。
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