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22.Merry Christmas from South Korea

リャオ、ジング氏からクリスマスカードを受け取る

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帰化中国人副社長のリャオ(本名:金城明生=“あけみさん”)が、韓国人宣教師トモ(本名:キム・ジング)との思い出を語ります。今回サーコはお休みなんですファンの皆さんごめんなさい。<m(__)m>
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今年もトモからクリスマスカードが届いた。いつも牧志の事務所には2通来る。なぜって、サーコの家に届けるとさつきさんの目があるから。
コーヒーメーカーに粉をセットしてスイッチをオン。席につきカードをしげしげと眺める。
ふうむ。今回のはちょっと色合いがどことなく韓国チックなカードですね。軍のクリスマス休暇で外出して買ったんだろうか。ひいらぎでできたリースのかたわらにプレゼントが置かれた図柄に聖句が添えられている。今回は旧約聖書の詩篇第121篇1-2節。日本語でご紹介します。

わたしは山にむかって目をあげる。わが助けは、どこから来るであろうか。わが助けは、天と地を造られた主から来る。 

私はノンクリスチャンなのでそんなに詳しくないですが、ユダヤ人のエルサレム巡礼の歌だそうです。ウィキペディアで検索するとパソコンデスクトップ用の写真が出てきます。クリエイティブコモンズですから誰でも使えますよ。
そうそう、私こと金城明生宛ては英語の聖句だけどサーコにはハングルで来てる。たぶん内容は一緒。サーコは今日から冬休みだ。高校生活最後だからお友達と毎晩ホームパーティー三昧なんだって。

戸棚からマグカップを取り出しながら思い出にふけってみる。そういえばトモと頻繁にやりとりし始めたのは、えーっと、4年前か。

2019年、日本語学校の事務職だった時、学生だったトモと初夏に一回飲んでる。その時、男だってバレたけど、トモは周囲には黙ってくれた。
ここ牧志の事務所を会社のテレワーク拠点に立ち上げる計画があって、私、8月いっぱいきっちり事務をこなして退職したのよ。日本語学校を退職することは学生達には内緒だったから、トモによると秋講習が始まった時、ちょっとした騒ぎになってたんだって。
10月後半だったかな。日本語教師の宜野座あけみさんがご結婚で退職されると連絡が入った。同じ「あけみ」だからロッカールームでよくおしゃべりしたっけ。送別会やるってことで事務から連絡が来て、私は黒のワンピースにライトブルーのスカーフ、同色のパンプスを引っ掛けて一銀通りにある居酒屋へ駆けつけた。
私は学生にも同僚のみなさんにも男性であることは隠してた、一度飲みに行って私の裸を見てしまったキム君を除いて。だから長居はすまいと心に決めていた。ビール1杯だけおつきあいして、幹事さんに会費と、餞別がわりにロクシタンのハンドクリームを託してさっさと引き上げた、んだけど。

居酒屋から徒歩で牧志へ帰ろうとしたら、日本語学校の学生につかまった。
「あけみさーん」
ぎくっ。ほろ酔いだった私はとっさに持っていたハンドバッグを抱きかかえた。
「どうして学校やめたんですか? ずっとあなたを探していました」
新入生のフランス人学生・セルジュ。金髪で気取った奴。何度となく学校で花束を渡されたものだ。
「あ、あら、セルジュ君。久しぶり。日本語少しは上手になったみたいね?」
「あけみさん、わたしは、ずっと、ずっと、さがしていたんです。とても、とてもさみしいです!」
大声で叫んでる。だいぶアルコールが入っているらしい。ヤバい。

私は逃げ口上を探す。
「あの、セルジュ君、悪いけど用事があって急いでるの。お勉強頑張ってね」
じゃあ、と言って走ろうとしたら、セルジュはハンドバッグの紐をつかんで私をたぐり寄せ、素早く背後から抱きついた。ぎゃー! 背中がゾワッとして吹き出物が一気に表へ出て来るようだ。
パニックを起こしている私の耳元でセルジュはささやく。
「あけみさん、あなたは、美しい。一人でいるのは、よくないです。悪い男に連行されます」

私は目が点になった。あんた、どこでその日本語覚えた? 「連れて行かれる」と「連行される」は、ちょっと意味合いが違うよ?

「あけみさん、わたしは、ずっと、あなたのそばにいたいです」
えーっと、ああ、どうしよう。セルジュの顔が移動して正面にきた。待てよこいつキスするつもりかよ! 私、自分の素性をバラさなくちゃダメかしら? でも、もう悩んでいるヒマはない。私は両手を胸の前に持ってきて拒絶のポーズを取った。
「あの、セルジュ君、じ、実は、私ね、えっと」

言いかけたときだ。私は視界の端っこに青いバイクを捉えた。こっちに来る。
「セルジュ!」
路肩に駐めたバイクから降りた男性が駆け寄り、二人の間に入った。ヘルメットを取った。キム君だ。
「セルジュ、ダメだ。あけみさんに近づくな」
「トモ、邪魔するな!」
私はこの時初めて、キム君がトモと呼ばれていることを知った。
「あけみさんは事情がある、行こう」
トモはそうやってセルジュを引き止めた。しかしセルジュは私の髪を引っ張った。スポッとウィッグが外れた。
想定外の事態が飲み込めず一瞬狼狽したセルジュのみぞおちに、トモはいきなりひじ鉄を食らわせた。セルジュはウッとうめいてその場で気を失い、膝を崩して倒れた。
「大丈夫ですか?」
トモが私の顔を覗き込む。私は身体を反らせる。
「キム君ごめん、ちょっと離れてもらえる? 私、人が近づくのダメで東京では電車にも乗れなかったの」
「そうなんですか?」
トモは私から少し離れた。セルジュは起きてこない。私はウィッグをかぶり直した。
「彼、どうしよう?」
「放っておきましょう。あけみさん、帰るなら送りますよ」
「いいの、ここからすぐよ。それよりキム君、時間ある? 助けてくれたお礼にコーヒーでも」
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