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28.予想外の来客

ナルミの19歳バースデー祝い

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季節は9月。とある事件について語ります。サーコのモノローグ。
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思い出したよ。リャオさんが噴火する話ばかりしてたらフェアじゃないから、ジングの噴火話にも触れておく。
彼はとにかく聖書にまつわる話には敏感です。まず進化論はアウトでしょ、あたし高校時代に生物を教えてもらおうと思ったら逆に「創世記」一時間説教されたことがある。勉強時間がすっ飛んだ。
他宗教の話とかも出しにくいし、日本の民俗行事とかも神観念絡んだら厄介だな。各地で開かれる旧盆行事の綱引きですらいい顔しないんだよ。キジムナーの話なんて絶対できない。ウタキの話とか鰯の頭を拝むとか、もう論外だ。絶対長々とお説教されるに決まってる、おお、怖。
そう考えたら、抱え込んでる地雷はリャオさんよりジングの方が多い気がする。
そういうあたしも、どこかで地雷を抱えているかもしれない。パパの話とかはそうかも。他にもありそう。
素敵な社会人を目指すなら、自分がどんな地雷を抱えているか、もう少しきちんと把握しなきゃね。

9月20日
今日はナルミの19歳バースデーのお祝いをしました。やれやれ、7月、8月、9月とバースデーの方々が多いこと。
なんとナルミ、彼氏がいるそうです。すでに付き合って半年って全然知らなかったけど、おめでたい限りです。彼女、公務員受験に定評のある専門学校に通ってまして、彼氏さんはそこの先輩なんだとか。
「彼氏さー、いま西町の貿易商社に勤めてるんだけど」
あたしは軽く聞き流した。貿易商社、どこかで聴いたことのある単語です。……え、貿易商社? 西町?
「なんか会社が那覇市のLGBT政策に協賛しているんだって。そこの上司も変わった人でさー、男なんだけど時々スカート履くんだって」
ぎくっ。ま、まさか。
あたしの脇腹を冷や汗が流れる。ナルミは彼氏の話に夢中で目が宙に浮いたまま、こちらにはお構いなしだ。
「でね、その上司、オカマだろうって社内では噂してたみたいなの。そしたらさ、ゴールデンウィークに彼女と韓国行ってたらしいの! やっぱり男だったんだー、超意外って感じ!」
うわっ、ちょっと、待ってよ。そもそも、なんでプライベートな情報が会社に流れてるの?
「彼氏が写真くれたんだー。見てよこれ。ほら、この人。氷川きよしに似てるよね。これなら女装してもイケそうじゃん」
写真、ですと? あたしはナルミのスマートフォンに食い入るように見入った。
げげっ! これ、行きの飛行機の中でリャオさんが撮って社長さんに送信したやつだ! 飛行機が急降下したから思わず抱きついてしまったんだった。あたしの顔は写ってないけど、リャオさんの顔はしっかり入ってる。
これはまずいよ。かなり、まずい。だって、あたしナルミに、牧志のリャオさんの事務所に高校三年間ずっと出入りしてたことも、ジングと付き合っていることも全部、黙っていたのだ。そりゃ、毎日お弁当は見せてたけどさ。それだけじゃない。彼女には、今回韓国行ったなんて話も全然出していない。その上、韓国でジングと、トモ……元家庭教師さんとラブホテル行ったなんてバレたら、うわー、激ヤバ!

ナルミにはこちらの様子は全然蚊帳の外のようです。一人でずっとしゃべってる。
「いいなー、彼氏と二人で海外! あたしもあこがれちゃうなー! 公務員になったらバリバリ稼いで、彼氏とどっか行こうかなー」
はいはい、どこへでも行ってください。行くなら‘彼氏と’がいいですよ。

という顛末を、翌日夕刻、牧志の事務所でリャオさんに話しました。彼は、彼女は、しばらく固まっていた。
「……あの人はこれだから」
右手でこめかみに手をやり、彼は、彼女は、ため息をついた。
もともと、今回の旅行についてはリャオさんなりに考え抜いた挙げ句、前もって社長にお話しして出かけた経緯がある。
万一、会社の名前を背負う副社長ともあろう人物が女性と二人きりで海外旅行した、なんて事実が外に漏れたら、この狭い沖縄だ。ほぼ100パーセント尾ひれがつくだろう。そうなるよりは、父親に事前に話をつけておこう。そうリャオさんは判断した。
幸い、金城社長はあたしに好感を持って下さっている。16歳のとき初めてご挨拶してから、なんだかんだで今年の父の日にもリャオさんと二人でお花を差し上げた。
そうなると、あたしとリャオさんの仲を勘違いするなと言う方が無理かも、いや、勘違いしてくださってるからこそ旅行できた側面は否定できない。今回の韓国旅行のお土産も手渡ししたわけだし。

とはいえ、だ。副社長のプライベートな写真を社員に公開するのは、ちょっと行き過ぎよね。

「ところで、漏洩元の社員の名前ってわかる?」
「えっと、お名前は聞いてないけど、あの公務員受験で有名な専門学校出身なんだって」
それで犯人がわかったようです。
「あー、ガジャ君だー」
リャオさんは机上に崩れ落ちた。
「またしても、やりおったわ。これじゃ‘ほうれんそう’とか情報リテラシーの教育、一からやり直しだな」

突然、ドアをコツコツ叩く音がする。あたし達二人は顔を見合わせた。郵便? 宅配便?
リャオさんはドアスコープを覗くと、急いでこちらへやってきて告げた。
「ヤバい! サーコ、隠れて! ガジャ君だ!」
え? ええ? 隠れるってどこに?
「事務所じゃない、物置! ドア閉めて静かに!」
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