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Part2 Rasidensy Days of the Southern Hospital
Chapter_01.へっぽこ研修医と観客たち(2)マギー師長と患者さん達
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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; 12:47PM JST April 27, 1998.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
僕がちょうどこの歌を弾いていると、看護師のマギーが驚いてやってきた。マギー、本名はMargaret Smithといい、少々太りぎみで目と口が大きいアフリカ系アメリカ人女性。映画スターで言うなら、ウーピー・ゴールドバークにどこか似た感じだった。
MaggieはMargaretの愛称なのだけど、沖縄方言で「大きい」という形容詞を「マギー」というものだから、彼女はずっとスタッフ一同から「マギー」と言われ続けている。大きくて迫力があるから最初は話しかけるのが怖かったが、いつもニコニコしてとても愛想のいいナースだった。きっと今に至るまで相当苦労を重ねてきたであろうことが、その人柄から感じられた。その彼女がやってきたのだ。僕はサンシンを弾く手を止めた。
“Dr. Uema, what are you doing ?”
(上間先生、何してるの?)
僕のサンシンに聴き入っていた患者さんのおじぃおばぁ達 (なんと二十人近くいた!)が、さっそくブーイングを始めた。彼らにしてみれば、「高平良萬歳」という大人気舞踊の地謡に聴き入って三曲目。ちょうどクライマックスで腰を折られたようなものだ。怒り出すのも無理はなかろう。
「えー、マギークルーさんよ、邪魔すなけーひゃー」
「今、いっぺー、いい按配どぅやたるむんぬ」
マギーはよく患者さんたちから、マギークルーさんと呼ばれていた。大きくて黒いから。かなり差別用語チックだけど、マギーはいつもニコニコして応えていた。彼女は常日頃、患者さんが自分を受け入れてくれればそれでいい、みたいなことを漏らしていた。僕みたいなガキの使いとは違って、懐の大きな人なのだ。僕は患者さんたちをなだめた。
「まあまあ。御衆様、騒じみそーんなけー」
そして、マギーに向かってこう言い添えた。
“I’m playing Sanshin. See?”
(サンシン弾いてるんです、見えるでしょ?)
マギーは呆れていた。
“I can see that. Why aren’t you doing your job?”
(見えますが、お仕事はどうしたの?)
僕はにっこり笑って胸を張った。
“This is my job.”
(これが私の仕事です)
“What? You must be joking.”
(ええっ? ご冗談でしょ)
“I’m serious, Mrs. Smith. It’s something I can do for them.”
(真剣ですよ、スミス師長。私が彼らにできることですから)
マギーには、僕の言う意味がわからなかったらしい。彼女は首を傾げた。
“So, what are you doing now?”
(で、どのような業務を?)
“Well, I’m providing entertainment. ”
(エンターテイメントを提供しています)
僕の回答に、患者さんたちがどっと笑った。
「エンターテイメント! 良ー言ちぇーさやー」
「やさやさ。うりん、貴方なーぬ仕事ぬ内やいびーさ。上間先生、なー一回のー、弾ち取らせー」
とにかく、患者さんたちは続きを聴きたいのだ。僕はオーバーなお辞儀をしつつ応えた。
「拝どーいびーん」(かしこまりました)
サンシンを軽く調弦しながら、僕はマギーに説明した。
“They’re just asked me to sing another song.”
(皆さんが他の曲を弾いてくれって)
“Unbelievable !”
(信じられない!)
マギーは呆れていた。彼女が接してきた中で、僕がかなり変わり者の研修医であることは間違いなかったようだ。((3)へつづく)
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
僕がちょうどこの歌を弾いていると、看護師のマギーが驚いてやってきた。マギー、本名はMargaret Smithといい、少々太りぎみで目と口が大きいアフリカ系アメリカ人女性。映画スターで言うなら、ウーピー・ゴールドバークにどこか似た感じだった。
MaggieはMargaretの愛称なのだけど、沖縄方言で「大きい」という形容詞を「マギー」というものだから、彼女はずっとスタッフ一同から「マギー」と言われ続けている。大きくて迫力があるから最初は話しかけるのが怖かったが、いつもニコニコしてとても愛想のいいナースだった。きっと今に至るまで相当苦労を重ねてきたであろうことが、その人柄から感じられた。その彼女がやってきたのだ。僕はサンシンを弾く手を止めた。
“Dr. Uema, what are you doing ?”
(上間先生、何してるの?)
僕のサンシンに聴き入っていた患者さんのおじぃおばぁ達 (なんと二十人近くいた!)が、さっそくブーイングを始めた。彼らにしてみれば、「高平良萬歳」という大人気舞踊の地謡に聴き入って三曲目。ちょうどクライマックスで腰を折られたようなものだ。怒り出すのも無理はなかろう。
「えー、マギークルーさんよ、邪魔すなけーひゃー」
「今、いっぺー、いい按配どぅやたるむんぬ」
マギーはよく患者さんたちから、マギークルーさんと呼ばれていた。大きくて黒いから。かなり差別用語チックだけど、マギーはいつもニコニコして応えていた。彼女は常日頃、患者さんが自分を受け入れてくれればそれでいい、みたいなことを漏らしていた。僕みたいなガキの使いとは違って、懐の大きな人なのだ。僕は患者さんたちをなだめた。
「まあまあ。御衆様、騒じみそーんなけー」
そして、マギーに向かってこう言い添えた。
“I’m playing Sanshin. See?”
(サンシン弾いてるんです、見えるでしょ?)
マギーは呆れていた。
“I can see that. Why aren’t you doing your job?”
(見えますが、お仕事はどうしたの?)
僕はにっこり笑って胸を張った。
“This is my job.”
(これが私の仕事です)
“What? You must be joking.”
(ええっ? ご冗談でしょ)
“I’m serious, Mrs. Smith. It’s something I can do for them.”
(真剣ですよ、スミス師長。私が彼らにできることですから)
マギーには、僕の言う意味がわからなかったらしい。彼女は首を傾げた。
“So, what are you doing now?”
(で、どのような業務を?)
“Well, I’m providing entertainment. ”
(エンターテイメントを提供しています)
僕の回答に、患者さんたちがどっと笑った。
「エンターテイメント! 良ー言ちぇーさやー」
「やさやさ。うりん、貴方なーぬ仕事ぬ内やいびーさ。上間先生、なー一回のー、弾ち取らせー」
とにかく、患者さんたちは続きを聴きたいのだ。僕はオーバーなお辞儀をしつつ応えた。
「拝どーいびーん」(かしこまりました)
サンシンを軽く調弦しながら、僕はマギーに説明した。
“They’re just asked me to sing another song.”
(皆さんが他の曲を弾いてくれって)
“Unbelievable !”
(信じられない!)
マギーは呆れていた。彼女が接してきた中で、僕がかなり変わり者の研修医であることは間違いなかったようだ。((3)へつづく)
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