サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく

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Part2 Rasidensy Days of the Southern Hospital

Chapter_01.へっぽこ研修医と観客たち(3)上間勉、「さいんする節」を弾く~医師と看護師

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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; from 12:50 to 13:00 JST April 27, 1998.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.

僕は再びサンシンを持ち直し「さいんするせんする節」を演奏することにした。この曲が「高平良萬歳たかでーらまんざい」のフィナーレを飾る。こんな歌詞だ。

京の小太郎ちょーぬこたろちくたんばい/尻ほげふぎ破れ手篭やりてぃる緒挿げてをぅーしぎてぃ板切り目貫いたちりみーぬき乗り来るぬいちちゃる/みいはあはあと/しいちゃうんちゃうん/行脚講主ややんざいごーしゃー馬舞者ぅんまめーさー猊子げーじうた/獅子うた/斯に有るかねるむぬ御目掛けうみかきたみ/可笑をぅかしやばかり/したりがちゃうんちゃうん/やあちゃうんちゃうん

これまた難解な歌詞が並んでいる。
京の小太郎という人が作ったのです。けったいな乗り物に乗って来た遊芸師ですよ。馬も扱えば、猊子げいす(怪しげな人形)も獅子も扱いますよ。このようなものをお目にかけましたけど、おもしろかったでしょ? なんてこと言いながら、兄弟は見事に親の仇を討って意気揚々と引き揚げるのでした。ちゃんちゃん。……って感じでしょうか。
何はともあれ、僕は「高平良萬歳たかでーらまんざい」を全曲無事に弾き終えたわけだ。患者さんたちは拍手喝さい。指笛まで鳴り響いた。
「したいひゃー、上間先生しんしー!」
この掛け声、結構、うれしかったりして。だからサンシン弾ちゃーはやめられない。
「にふぇーでーびる」
僕は立ち上がって観客の皆様にお辞儀をした。
「あんしぇー、わんねーミーティングぬ有いびーぐとぅ、御無礼ぐぶりーさびら」

僕はマギーと連れ立ってリハビリルームを後にした。

“Don’t you think I did a goo job?”
(私が仕事をしたとお考えになりませんか?)

“I guess you’re a pretty good Sanshin player.”
(あなたはなかなかよいサンシン演奏者ですね)

“Thank you!”
(どうもありがとう)

僕は笑ってお礼を言った。

“But, Dr. Uema, I really can’t follow the lyrics.”
(ですが上間先生、私にはおっしゃる意味がよくわからない)

「Let me see……ぬーんち言れーむがや?」

僕は立ち止まってつぶやいた。おじぃおばぁと話をした直後だったから、僕は沖縄語から抜けきっていなかった。少し考え、僕ははたと膝を打った。そうだ、こういえばきっと判ってくれる。

“I want to have a good relationship with the patients. In this hospital, only a few people can speak the Okinawan language. You well know want to talk with someone in your own language when you’re in bad shape.”
(私は患者さん達とよい関係を築きたいのです。この病院では、沖縄語を話せるスタッフはごくわずかです。身体の具合が悪いときは、自分の国の言葉で話したい。そういうものでしょう?)

カッコよく言えば、患者さんの自国語 (ならびに固有の娯楽文化)を、治療に用いる重要性を僕は説いたわけだ。マギーはパチンと指を鳴らした。

“I get it! You did do a great job!”
(そうよ! 先生は本当にいい仕事をしたわ!)

“I’m glad you agree!”
(ご賛同いただけてうれしいです!)

いやー、正直、ほっとした。マギーが僕と同意見でよかった。

“Dr. Uema, do you mind if I ask you a favor?”
(上間先生、お願いしてもよろしいかしら)

“Not at all. What is it?”
(構いませんよ。何でしょう?)

“Please let me know when you hear patients’ complaints about us. I also want to have a good relationship with them. I try, but I still can’t speak Japanese naturally.”
(もし患者さん達からご意見があったらお知らせいただきたいの。私も患者さん達とよい関係を築きたいから。いつもそう考えているけど、私は未だに自然な日本語を話せないし)

なるほどね。マギーも患者さんとのコミュニケーション作りに苦労しているのか。

“Sure! I’ll help you!”
(わかりました、お助けしましょう!)

そう答えると、マギーは僕の顔を覗き込んで、たどたどしく話し始めた。

「よろしくおねがいします。and, can I say “貴方うんじゅ情けなさきどぅたぬまりる”?」
僕は吹き出した。どこでそんな言葉仕入れてきたんだ? うわー、そりゃちょっとキツイわー!

“……Maggie, This expression only can use between lovers !”
(マギー、その言い回しは恋人同士で使うものですよ)

“Lovers ? Really ?”
(恋人同士ですって?)

マギーはとても驚いていた。だって、彼女は僕より十六歳年上、ほとんど親子だ。「貴方任せの人生なのよ」的な恋の表現は、いかにもこっけいだ。
「ごめんなさい。どーりん、くねーてぃくぃみしぇーびり」
大きな体つきのマギーがにっこりわらってお辞儀をし、奇妙なイントネーションで沖縄語を話している! このアンバランスな光景に、僕はついに堪えきれず大笑いした。
「あはは、だ、誰か助けてー! お、おかしすぎる!」
僕は立ち止まり、壁にもたれ、お腹を押さえたまま、ずっと笑い続けたのだった。それ以来、僕はすごくマギーと仲良しになった。

次章へTo be continued.
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