サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく

文字の大きさ
121 / 152
Part4 Starting Over

Chapter_01.Air Mail(6)3枚目の便箋

しおりを挟む
At Nishihara Town, Okinawa; 3:50PM JST January 24, 2001.
The narrator of this story is Taeko Kochinda.
勉君からの手紙を読み終え、多恵子はある決意をします。

そして、あたしは三枚目の便箋をめくった。

I'm sorry but I have to tell you some bad news:
(とても言いづらいけど、いくつか悪いニュースがあるんだ)

my right leg won't recover in the shape as it used to be.
(僕の右足はもう元にはもどらない)


……え? どういうこと?


I know this for certain because I'm professional in these filed.
(僕はこの分野のプロフェッショナルだ。だから、とてもよくわかる)

I have a heavy compound fracture below my right knee:
(僕は右膝から下にひどい複雑骨折を抱えている)

It could escape amputation miraculously.
(なんとか切断だけは奇跡的に免れたけど)

My right knee joint barely can move, but it won't stretch and bent be completely, and will remain that way. 
(僕の右膝は、かろうじて動くことは動く。でも、この先治療を続けたところで、きちんと曲げ伸ばしすることはほとんど困難だろう)

Taeko, you are a nurse.
(多恵子、君は看護師だ)

You can easily image I won't be able to walk without crutches in the future.
(僕がこの先ずっと松葉杖なしには歩けないってことくらい、容易に想像できるだろ?)


思わず、あたしは口元を両手で押さえた。震えが、止まらなかった。
目線はなおも手紙の文章を追いかけている。


I've lost my confidence in being a doctor: It's really tough.
(僕は医者でいつづける自信がない。本当にしんどい仕事だから)

Do you think our hospital will still hire me?
(第一、サザンがこんな状態の僕をずっと雇ってくれると思うかい?)

You know there are so many things I can't do!
(僕にはできないことが多すぎる。わかるよね?)

I can't carry heavy things, I can't stand all the way, and I can't do any operations that take a long time.
(重い荷物は持てないし、立ち続けることも無理だし、長時間のオペにも携われない)


目の前が、ぼおっと霞んで、熱いものが頬を流れ落ちた。
あたしは、よく知っている。自分がオペ看だったから。勉がどんなにオペ好きで、だけど、それがどれだけ精神的にも体力的にも厳しさを要求される仕事かを。まして、松葉杖をつく人間がメスを握った話など、それまで一度も聞いたことがなかった。


But, I wish I could tell my experiences to our staff.
(だけど、僕はこの経験をスタッフのみんなと分かち合いたいと思ってるんだ)

It'll contribute toward overcoming difficulties, and this will benefit both of us.
(それは、押し寄せるさまざまな困難に対する提言になりうるし、僕にとってもスタッフにとっても、きっといい財産になる)

Now I really understand what our patients want to do and what they hope for us.
(僕には今、患者さんたちが何を思い何を望んでいるかが、本当に良くわかる)

I really want to be someone who can foster a mutual understanding between patients and the medical staff.
(だから僕は、患者さんたちと医療スタッフとの相互理解をはぐくむ立場の人間になりたい)


Whether I'll be a doctor or not, would you marry me?
(たとえ医者であり続けても、そうでなくても、僕と結婚してくれる?)

I'll never change my mind forever. Trust me!
(僕の気持ちは永遠に変わらない。信じて!)

Full of love from the bottom of my heart,
(心の底からありったけの愛を込めて)

Tsutomu Uema
(上間 勉)

P.S. Please say hello to your family.
(追伸、君のご家族によろしく)


あたしは、泣いた。泣かずにはいられなかった。声を張り上げて、何度も彼の名を叫んだ。
遠いアメリカで、たった一人で、動かない右足と闘いながらリハビリをしているであろう勉の姿を思い描くと、胸が押しつぶされそうだった。

どれくらい、時が経っただろう?
気かつくと、早い冬の夕暮れが訪れていた。
不意に、あたしは自分のお腹に手を当てた。
まだ確信が持てるわけではない。だが、年が明けてからというもの、あたしは食事をあまり取れなくなっていたし、胸が張るような感覚が続いている。

ひょっとすると、子供が、いるのかもしれない。
ありえない話ではない。ロサンゼルス最後の日、あたしは勉にこう言われたではないか。
「まさか、とは思うんだけど。もし、もしも、多恵子が妊娠とかした場合は、俺、きちんと責任とるから。何かあったら一人で悩まないで必ず連絡して。わかった?」

だけど、心の中に、もう一人の冷静なあたしがいた。
勉は現在、一種のうつ状態だ。今、このことを彼に話すと、逆に彼を追い込みかねない。

あたしは、決意した。
あたしが勉を支えよう。勉の分まで働こう。
勤務医にはとてもかなわないけど、看護師の給料でも、夜勤を増やせばなんとか二人で暮らせる。
子供の件は、彼には黙っていよう。いや、周りにも。誰かに話したら、噂は広まってアメリカの勉の耳に入ってしまう。今は彼に、リハビリに打ち込んでもらいたい。
全てが明らかになって、もしも、もしも反対されたら、そのときは、一人で育てよう。
あたしも、闘おう!

あたしは階段を駆け降りた。
「どうだったね、あれ、多恵子?」
「病院へ行ってきます!」
お母の声を振り切り、不思議そうにこちらを向くゴンゾーを無視して、あたしは車に乗り込んだ。勉から譲ってもらったミラパルコだ。
ふと、勉があたしに笑いかけてくれている気がした。あたしはエンジンを掛け、一目散にサザンへと走らせた。
次章へTo be continued.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...