サザン・ホスピタル 短編集

くるみあるく

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上間勉についての一考察

2.島袋(しまぶくろ)桂(けい)、修学旅行前の騒動を語る

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 At Nishihara Town, Okinawa; September, 1987.
 The narrator of this story is Kei Shimabukuro.

中二に上がった時、またしても俺と上間は同じクラスだった。
そういえば二年三組では東風平こちんだ多恵子も一緒だった。背は低かったが、いやー、あの女のウーマクぶりはすごかった。女子の着替えを冗談半分で覗こうとしたクラスの男子を、片っ端から叩いて放り投げてたもんな。
水泳部だったから、夏場なんか全身真っ黒コゲになってた。水着を着てても胸が全然なくって、女って感じがしなかった。
そうそう、英語の時間に寝ぼけて「かっぱっぱー」と発言してから、多恵子のあだ名は「かっぱっぱー」になった。水泳女子自由形一五〇〇メートルの選手、つまり、河童。そのまんまだ。

上間が二学期の委員長になったのは当然の成り行きだと思う。ほぼ全員、上間に投票してた。奴の人柄をみんなが判っていたからだ。奴は照れくさそうに、あの笑顔で就任の挨拶をした。人前で目立つのは相変わらず嫌がったが、人の上に立つ自信はついたようだ。よく笑うようになっていた。

ある日、妙な噂が立った。上間が修学旅行に参加できないというのだ。この中学校では、二年次の十月に九州方面への修学旅行がある。費用は七万円。俺たちは一年次からずっと積み立て貯金をしてきた。普通の家庭なら十分支払える金額だが、母子家庭の上間だけが、まだ完納してないらしい。
気がつくと、九月最後の短縮授業を終えた放課後、二年三組の教室に、上間以外のクラス全員が集結していた。俺たちは担任の国吉先生を職員室から呼び出した。
「上間が修学旅行に参加できないって本当ですか?」
「まだ決まったわけじゃない。しかし」
国吉先生は口ごもった。
「未払い分がまだ三万円あることは、間違いないんだ」
クラス全員が騒ぎ始めた。
「先生、どうにかならないの?」
「後払いってわけにはいかないんですか?」
「なんなら、俺たちカンパしますよ。な、みんな?」
そう。全員、委員長の上間が参加できないなんて、考えたくもなかったのだ。俺たちはその場で、一人五〇〇円持ち寄ることを決めた。クラスは四〇名、だから二万円だ。すると国吉先生が、自前で一万出すと言い出した。これで決まり! 俺たちは万歳をして解散した。

ところが翌日、上間が国吉先生へ三万円持ってきたという噂が流れた。
上間は何食わぬ顔で机に座っている。もちろん、誰も彼に金のことなんて聞けない。だって、カンパの話は内緒だったんだから。俺たちが集まってひそひそ話をしているのを不思議に思ったのだろう。
「どうしたの、みんな? 暗い顔しちゃって」
上間はいつもの笑顔で尋ねてきた。俺たちは苦笑いしてごまかした。後で本人から聞いたが、新聞配達のアルバイトをして、自前で稼いだそうだ。
こいつは本当に、とんでもない奴だ。俺は心の中で舌を巻いた。
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