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しおりを挟む聞かされたのは、
王都の上流貴族たちは小さな頃からあらかじめ婚約者を複数人決められているということ。
将来的にはその婚約者達のなかから一人を選び、婚姻に至るということ。
「…ハーレムだろ、それ……」
「俺には今婚約者が5人ほどいる」
「この浮気者!!!」
「……顔も知らないと言ってるだろう。いいから話を聞け」
俺が思っていた婚約者10人20人はあながち間違いでもなかったらしい。
尊い身分であればあるほど縁談の話が舞い込み、それは男女関係なく結ばれる。
ということは逆パターンもあるということか…!逆ハーはレベル高いな…。
俺は地方の出だから全く知らなかったけど、王都では男性同士の結婚も認められている上に、稀ではないとアスラルは言った。
都会って恐ろしい。
こんなにもギャップがあるだなんて…。
きっと俺の地元で男同士ことに及べばどこからともなく噂が広まりあっという間に村八分だ。
「俺も将来的にはその5人のなかの誰かと婚姻を進めることになっていた。
……ただ……」
ただ?
次は何を言うのかと黙っていると、俺の頭に埋められたアスラルの鼻がスゥーっと深く息を吸い込み出してギョッとする。
「おい゙!!頭を嗅ぐなっ…!」
「…減るわけじゃないんだからいいだろう……、はぁ……。いい匂いがする。………好きだシュリ。愛してる…」
「はっ…、なにっ、急に……?!」
抱きしめる力が強まり、より一層アスラルの肌に密着する。
ドクドクと早鐘を打つアスラルの心臓の音を聞きながら突然の告白に顔を赤らめていると、段々とアスラルの呼吸がおかしくなっていることに気がついた。
ギチギチと強まる力にも、抱きしめられているというより囚われている気分になってくる。
「お、おい、アスラル……?」
「………れの、ものに……」
「なに…?」
「…………シュリを、確実に俺のものにしたい…」
「……は…」
「孕ませれば、確実に囲えると思った」
「…………はっ?!!」
なんてことを言い出すんだと体を離そうとするが、ものすごい力で押さえ込まれているのに加えてこちらは昨夜のアスラルの猛攻により満身創痍だ。
より一層強まった力に成すすべなくさらにアスラルの方へ引き寄せられてめり込みそうな勢いだった。
「お、い…ぐるじい……」
「…決められた婚約者以外と婚姻関係を結ぶことは普通に行われてることだ。
でもそれには相手の合意と当主同士の許可がいる。
………………特例で、子供ができた場合は必ずその相手を婚約者に据えて結婚できる」
「なんだその暴力的な制度…!!」
「……シュリと無条件で一緒にいられるのは、士官学校での残り一年だ。………完全に離れてしまう前に、…早く俺のものにしたかった」
最後には泣き出しそうな小さな声でそう言ったアスラルは、少しの隙間も許さないとばかりに俺の頭を掻き抱くと、はぁと小さくため息を吐いた。
孕ませて相手を囲おうだなんて、完全に犯罪者の供述だが、先程の様子や昨夜の行為から、アスラルは本気でそうしようと思っていたらしいというのはなんとなく察する。
…そんなに好かれるようなことしたっけ俺……。
というか、
「……俺の合意と親同士の許可があれば結婚できるんだろ…?なんでそっちを考えないんだよ…」
「確実な方法が他にあるならそっちをとるのが普通だろう」
「男同士では子供はできないけどな」
「………」
「………お前ってちょっと馬鹿…?」
黙りこくったアスラルに、さらに畳み掛けるようにして口を開く。
「まず、子供を何かの道具にするみたいな考え方嫌い」
「……きら…」
「今回みたいに全然人の話聞かないとこも嫌い」
「………シュリ…」
「あと人のことものみたいに言うのもやだ」
「…………」
頭上からは酷く重苦しい雰囲気を感じ取ったがやめてやらない。
だって俺はこいつの暴走で散々な目にあったんだからこれくらいの仕返しなんてかわいいもんだろ!
………しかし、俺が嫌いだと言うたびに首に回された腕がギリギリ力を増しているので俺の命のために今日はこれくらいで勘弁してやることにする…!
「ぐぅっ……」
「………それ以上嫌いだと言われてしまうと、また酷いことをしてしまいそうになるから、やめてくれ」
「わかっだから゙、も゙う言わないから…くび、ゆるめ゙で…」
「………シュリが好きだ。ずっと俺だけがそばにいたい。
…嫌われるくらいなら、死んだほうがましだ」
「………死ぬなよ…」
軽口を叩きながらも普段のアスラルらしからぬ小声で呟かれた言葉にぎゅうっと胸が締め付けられた。
きっと、俺がアスラルのことを好きだと思っているのと同じように、もしかしたらそれ以上にアスラルは俺のことを好いてくれてるのかもしれない。
正直アスラルのやり方はかなり歪んでるとは思うけど、それでもやっぱりそれほどに求められていることが嬉しい。
子供のようにいじけている目の前の男がどうしようもなく可愛く思えて、そう思ってしまう自分に少し呆れながらも俺はアスラルの背に腕を回した。
「俺も、アスラルのこと好きだよ。
……でも、今回みたいなやり方は常識的にやっちゃダメだ。
ちゃんと一緒になれて誰にも文句を言われない方法があるのなら俺はその正しいやり方でアスラルのそばにいたい」
「シュリ…」
腕のなかでもぞもぞと動いて顔だけ上に向けると、情けない顔をしたアスラルがこちらを見ていて、思わずブッと笑ってしまった。
「…っふ、…く、なんちゅー顔してるんだよお前……」
「……なんで笑ってる」
「ふふっ、いや…アスラル、よく表情が変わるようになったよな。前までずーっとムスッとしてるだけだったのに」
「…馬鹿にしてるのか?」
「ううん、してないよ。好きな人の色んな顔が見れて嬉しいんだ。…それに、そういう顔は俺しか見れないんだって思うと、もっと嬉しい」
少しだけ怒ったような顔になったアスラルにへらっと笑ってそう言うと、俺の額に張り付いていた髪をアスラルの指が払ってまじまじと顔を見られる。
なんだろう、とじっとしていると、アスラルは何やらすっきりとした表情で口を開いた。
「週末にシュリの実家に挨拶に行く」
「え」
「婚約の許可が降りるまで何度でも行く」
「え、ちょっ………早い、早いって!もうちょっと考えてから……!」
「早くシュリと一緒になりたい。シュリの言う通り、誰にも何も言われない、正しい方法で」
至極真面目な顔でそう言ったアスラルにじわじわとした恥ずかしさで身悶えていると額にちゅっと柔らかい感触が落ちて、次の瞬間俺は目を見開いた。
英雄譲りの黒の瞳を優しげに細めながら、慣れない様子でいつも真一文字に引き結んでいる口元を緩めてこちらを見つめるアスラルにぼぼぼぼっと火が出そうなくらい一気に顔が赤らむ。
…………アスラルが、笑った。
それは昨夜見た凶暴な笑顔とは違う、本当に愛しいものを見るような表情で、それが今自分に向けられていることが舞い上がりたくなるほど嬉しかった。
……どうしよう。
これは、やばい。
重症だ。
アスラルのことをとやかく言えないくらい、俺は本格的に、不器用で重すぎる愛をぶつけてくるこの英雄の息子のことが心底好きになってしまっているらしい。
「…シュリ?」
「……………なあアスラル………俺、お前の父さんに、なんて言って挨拶したらいいと思う…?ドラゴン倒したらお前との結婚認めてくれるかなぁ……?」
腕のなかで震えながら情けない声でそう言った俺に、アスラルは「これから一緒に考えよう」と言って小さく笑った。
………ーーーごめんなさい英雄様、俺、あなたの息子大好きになっちゃいました。
ワイバーンでもドラゴンでも、死にものぐるいでどうにか倒して見せるので、どうか、どうか潰さないで貰えると嬉しいです。
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