モカセドラの空の下で〜VRMMO生活記〜

五九七郎

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23話 王城隣の池

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 隣を駆け抜けて行く子供達の歓声を聴きながら、僕らは旧市街区を抜けて隣接している街区との間にある小道を歩いていく。この先に王城へと至る巨大な門があり、その隣にある小さな門から池のある果樹園と言ったらいいのだろうか、目的地へと行くことが出来るのである。果樹園といっても、真ん中に大きめの池があり、その周りに芝生とリンゴの林があっただけだった様な、とドラコルムの釣りデイリーも後半しなくなっていた僕は記憶を引っ張り出そうとし、そんな事をしなくても目の前のものを見ればいいかと守衛さんに手を挙げて挨拶して門をくぐった。


「特に人も居ないねっ。」
「そうだね。」
「主、リンゴ落ちてるさね。」
「そうだね。TAの時はクエストを受けている時だけ拾えたけど…。」


 と、僕は落ちているリンゴを拾い上げた。勝手に持って帰って罪に問われても嫌だから、と一応守衛さんにリンゴの扱いを聞いてみたのだけれど、大量に捥いでいって商売をするとかじゃなければ好きにしていい事になっているという事を聴き、安心して幾つか貰う事にした。現実では落ちている時点で落下時のダメージがあったり、熟れ過ぎていたりする訳だけれど、さすがゲームと言うべきなのだろうか、キラキラと輝くエフェクトまでついていたりする。

 入り口から遠い、池の反対側の広めの芝生を確保すると、僕は木工スキルで作った簀の子を置き、さらにその上に座っても痛く無い様に布を敷く。結構大きめのものにしたのだけれど、地面が凸凹でも一応ガタつきなしで問題なく座れるようだ。この辺は細かすぎないように作ってあるのかなぁ。
 バーニィとスワリナの二人は早速、林の方で短槍を構えて振り回している。見ているのも楽しいのかもしれないのだけれど、僕は池の淵まで行き、のんびりと釣り糸を垂らす事にした。激しい訓練よりは経験値も溜まりづらいだろうし。

 TAの時には釣りに餌は必須ではなかった。他のゲームでは餌が必要だったりしたものだけれど、TAでは特殊な魚を釣るクエストに餌を必要とするものがあって、それを入手するにはまたこう長大なクエストが発生したりしていた。まぁ、浮きとかルアーの類はあったけれど、それはどちらかというと釣りスキルの値にプラス補正されるもので、やはり必須なものでは無かった。VRになってからも、チュートリアルで餌の必要性は語られなかったし、同じ仕組みなのだろうと勝手に判断している。

 バーニィの『ぐわーっ』とかいう声をBGMに、ひゅいっ、と釣竿を振って潮目を狙う。釣りスキルの補正情報で、その潮目がドラコルム・エアートラウトが釣れやすいポイントである事が分かっている。…塩焼きがいいな。

 ゆらゆら。

 湖面は穏やかで、何もなければ揺れないはずの浮きが揺れる。魚が突っついたのだろうと身構えると、グンッ、と浮きが沈み込む。引っ張られる釣竿に負けじと引っ張ると、僕のそこまで高くないSTRでも問題なく魚が釣りあがった。…一本釣り? と思うようなレベルで釣りあがった魚から針を外し、この為に準備した深めの盥に投げ込む。アイテムボックスに突っ込むのは簡単だけど、なんかこう、釣った魚がバケツに泳いでるのが見えると、釣りしてるなぁ、って思うんだよな。
 一人でウンウン頷きながらまた釣竿を振り、を繰り返す。途中で立っているのも疲れる気がして、アイテムボックスから椅子を取り出して座りながら釣る。潮目を狙って投げるといってもリールを使っているようなレベルではないし、ほんの少し先に投げるだけ。…釣竿が壊れない設定だからいいけど、糸も切れるようになるんだろうなぁ、と思うと正式サービス後はこんな一本釣りみたいな事をしてたらすぐ竿も糸も駄目になりそうだなぁと思う。

 気がつけば三十~四十センチクラスのトラウト十数匹が盥で泳いでいる状態になっていたのだけれど、二人はまだ槍を振り回していた。あちこち擦り傷切り傷が出来てる様子に、回復魔法を使ってあげたい気になるのだけれど、放っておけば直ぐに治るのも知ってるからそのままにしておく。何せ、満身創痍になっても、オフコンバットになってから長くても数分で全快するのだから。ただ、今回VRになってからは流石に部位欠損とかになったらどうするんだろうという不安はあるんだけれど、この間のゴブリンキング戦ではそうなる前にバーニィは光の粒になっちゃったからね。試すのも…何か嫌だなぁ。

 一生懸命釣ってるとのんびりする意味も無くなってしまうな、と僕は釣りを切り上げて先程確保したスペースでごろりと転がった。


「…空が、高いな。雲も流れてる。」


 TAでは、一応天候の変化はあったものの、昼夜と雨が降るか降らないか、程度の差分しかなかった。それでもそれくらいのバリエーションがあれば、クエストで夜間しかNPCがいないとか、雨の晩に、とかそういったシチュエーションを利用することでクエストの奥行きと言ったらいいのだろうか、雰囲気が出たりしたのは確かだった。ただ、シーズンイベントの為に暦こそあったものの、季節によって風景が変わるといった事はなく、雪が降らない地域ではずっと雪は降らなかったし、当然といっては何だけれど季節によって暑いとか寒いとかそういった事は全く関係が無かった。今回、VRになって世界を作った事で、どうやら惑星シミュレータのような物を開発して天候をコントロールしているという話を公式BBSでチラリと見たような気がした。どんだけ本気なんだと思ったけれど、集めたお金で気象予報関係の会社を買い取ったりしていたようだから一から作った訳じゃないようだしね。

 視界の端をグリフォンが飛んでいく。腹帯が見えるし、王城の警備のグリフォンライダーなんだろうな、と少し視線で追いかけて行くと、にゅ、とバーニィの顔が大写しになった。


「休憩っ。隣は俺ねっ。」


 バーニィはそう言いながら僕にくっつき、ぐりぐりと頭を擦り付けて来た。


「特に汗とかでびっしょりにならないのはいいねっ。」
「魚が顔に当たると濡れるけどね。」
「…徹底はしてないけど、充分便利だから気にしないよっ。」
「スワリナはどう?」
「同じくあたいも汗は掻くけどねぇ、服に影響が出るほどじゃあないさね。」


 そう言いながら、スワリナは僕の隣に座る。地味にお尻をくっつけて来ている所が可愛いトコロかな。その大きなお尻を撫で回したい、と思いながらも知らんぷりするのが男の子、とか思いながらそのまま二人とのんびりと駄弁った。
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