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26話 港へ
しおりを挟むタングル・ライバーの店からの帰り道、折角だから港に釣りに行こうか、とスワリナと歩いているとシステムメッセージが流れてたのに気が付いた。…僕がログアウトしている時にも随分と流れていた様だけど、大きな点は二つ。誰が何をとかいうのは特に見ても仕方ないからね。
*
・オルタネイティヴ・システムが追加されました。
他のプレイヤーと足並みを揃えてプレイが出来ない、という意見が多数寄せられましたので、運用テストも兼ねてオルタネイティヴ・システムが追加されました。キャラクターのステータスウインドウの経験値欄の横にUIが追加され、オルタネイティヴ・ポイントに経験値を割り当てられる様になりました。オルタネイティヴ・ポイントは現段階ではSPと等価交換する事が可能です。
・サーバーメンテナンスのお知らせ
アルファテスト終了に伴い、サーバーメンテナンス及びデータのリセットが行われます。アルファテストの終了予定はベータテスト開始の現実時間での三日前となります。ダウン時間は現実時間で三日となります。
*
おお、SPでの差はぐんぐん離れる一方だけど、レベルが離れて冒険者ギルドでの依頼が一緒に受けられない、って事はこれで緩和出来るかな。今迄のMMOでも後発で入ってきた友人とどう遊ぶのか、というのはかなりの問題になっていたからね。
しかし、これでデータリセットは確定。興醒めも良いところだよな。何せ、NPCの記憶はリセットされてもプレイヤーの記憶はリセットされないからね。うーん、開発会社にしてはロールバックなんて珍しい。何か問題があっても大抵やったもん勝ちの事が多かったからね。まぁ、パッチのプレテストなんかはデータコピーされた別サーバーでやってたりしたから、そこのデータはしょっちゅうすっ飛ばしてたけれど。
僕は軽く溜め息を吐くと、スワリナを一度抱き締めた。少し嬉しそうな、そして不思議そうな顔をしているスワリナの頭をぽんぽんと撫で、バーニィが追い付くまでは、とオルタネイティヴ・ポイントに全振り設定。まぁ、レベルアップの経験値だけだからスキルはバンバン上がるし、そこの差が広がるのはもうどうしようもないんだけどね。スワリナは…一応対象っぽいから、バーニィが戻って来るまではこっちも全振りかな。
「主…海って臭うさね。」
「お、おう。潮の香りがするからな。スワリナは海は初めてか。」
「そうさね。ずっとあの穴倉にいたさね。」
「そうか。それはつまらないね。」
「そうさね、特にやれる事もなく、あそこに居ただけさね。退屈さね。」
僕らは埠頭の先頭にある、キノコの様な形をした大きな舫杭に二人で腰を掛け、違う方向へと釣り糸を垂れた。いつもの池とは違い、港では確かドラコルムキャトルフィッシュ…要するにイカ、が釣れたはず。後はブルーパーチという直訳すると青スズキ、それに加えてどちらかと言うと潜水していると襲ってくるサメ。他にも雑魚というか、料理のスキルが低くても素材になる魚が数種類釣れたような気もしたけれど、NPCに売り払っても銅貨数枚にしかならないとかなのでいつもインベントリが一杯になっては捨ててたかなぁ。まぁ、今ならタングル・ライバーの店にある程度卸せるから、捨てなくても大丈夫。
埠頭に押し寄せる波の音を聞きながらのんびりと釣り上げては盥に投入していると、不意に頭の中に声が響き、視界の片隅にログが表示された。
『やー、ココットちゃーん!』
誰だ、と思ってログの発言者欄を確認すると、メールで参戦予告をしていたラザロだと分かった。
しかし、声からしてラザロも今回は女性でプレイするんだな。…ラザロは僕より十歳くらいは年下だっただろうか。幼馴染と物凄く若い頃に結婚したらしく、子供ももう独立してて小さい孫もいるんだとか言っていたような気がする。
ラザロはTA時代、男性キャラでプレイしていたんだよね。それは僕がどうせずっと見てるなら女性キャラの背中と尻を見てたほうがいいと思っていたのと同じで、どうせなら男の背中と尻をみてセクシーとか言ってたいという理由だったらしく、それで盛り上がって仲良くなってたりした。下ネタも全然オッケーで、男連中が盛り上がってる中に彼女がログインしてもこっちが気を使って話を止めるどころか、話に乗ってきて赤裸々な告白をしてくる事もしょっちゅうだった。バーニィはどちらかというと初心で、下ネタはダメだったからね。そういった意味では男女の垣根なく色んな話をしてただけに、異性という感じもしない仲のいい友達だったのだ。
『やっほう。ラザロはいつから参戦したの?』
『そうね、ゲーム内で一週間前くらいかしら。で、今何処よ。合流しようよ。』
『ドラコルムの、エルフ埠頭でサーバントと一緒に釣りしてるけど。』
『サーバントって何よ、召喚魔法で出したペット?』
『いや、レイドターゲットっぽいのをバーニィと倒した時に出たスクロールで覚えた、コントラクトサーバント、っていう召喚魔法の一つでNPCと契約したんだよ。ゴブリンだけど。』
『レイドターゲットをもう倒したの、ってゴブリン。なんでゴブリンなのよ。まぁいいか、船が着くから。また後程。』
『ほいほい。』
僕は大きなサメを釣り上げていたスワリナから獲物を受け取り、アイテムボックスへと入れる。…流石にいつものように盥に入れると他の魚を食べそうな気がするしね。そして、また釣り糸を垂れる。
すぐにアタリがあり、竿をぐいっと引き上げると同時に急に目の前に船が滑り込んでくる。
今回、VRになっても大陸間の船旅は一部のストーリーに関わっていた部分を除いて、ある海域からとある海域がワープするように繋がっている、というのだろうか、何週間も何ヶ月も掛けて航海せずとも数分で到着するという事になっていた。大陸の端から端まで最速のフライングマウントで飛ぶよりも、何倍も遠いはずの大陸を跨る航路の方が短いというのはアレだけれども、プレイアビリティを考えれば仕方ない事なんだろう。そもそも、VRになってからはまだその場所に辿り着けていないけれど、すべての種族の首都へのポータル…転送装置がある所もTAにはある訳で。TAの晩年には、アイテムで特定の場所に飛べる物なんかを収集してたりして、僕はかなり行ける場所が増えていたりもしたけれど、初期はやはり船を使ったり走って行くのがメインだったからね。それもまた楽しみの一つだしね。
釣り上げた魚をぶら下げたまま、入って来た船に目を向けると、予想通り女性がこちらに手を振りながら船から飛び降りて来ていた。
「ヘーイ。」
「おー。」
「本当に男だ。」
「そりゃまあ。写真を見せた事もあったよね?」
「ああ、そういやそうだった。結構前の事だったから忘れてたよ。」
「あ、この子が僕のサーバントのスワリナ。ゴブリンクイーンだよ。」
僕は一度釣竿と魚をしまい、こちらを伺っていたスワリナを引き寄せた。ラザロはジロジロと遠慮なく上から下までスワリナを見やり、ニッコリと笑顔になった次の瞬間、僕の肩をグーパンでど突いた。
「痛っ!?」
「このエロジジイ。」
「いや、否定はしないけど。」
「や、スワリナちゃんは可愛い。けど、絶対おっぱい目的で契約したよね?」
「バーニィには言えないが、そんな事は少しある。」
「…もうしたんでしょ?」
ニヤニヤと今度は肘でグリグリしてくるラザロに、僕は頷く。スワリナはイマイチ流れについて行けていないようだけれど、自分の事が話題になっていたり、僕がちゃんとそのことを評価しているのを耳にして、少し嬉しそうである。
「…なんだ、スワリナちゃんも満更じゃないんだ。もー、ギルマスと合わせてもう二人も女がいるの? あたしも混ぜてよ。」
「混ぜ、っておい。」
「良いじゃない。種族だって他の子たちと違うし。前にも言ったけど、リアルでももうハズとはとっくに死に別れてるのよ? ハーレム嬉しいでしょ?」
ラザロがエルフで始めたらしいのは、その尖った耳を見ればよく分かる。背丈は少々小柄だけれど、それでも百六十は超えてそうで、スタイルもローブで隠れている筈なのに、胸元はグンと押し上がってるし、尻もプリッと出ているようで少ない情報から判断するだけでも抜群である。
「で、ギルマスは?」
「親父さんに捕まったって。もう何日かはインしてくるには掛かるんじゃない?何せ、十分で一日過ぎちゃうし。」
「ふーん、で、レベル幾つまで上がった?」
「僕は三十七。バーニィは二十八とか九とかその辺りじゃ無かったかな?」
「ああ、あたしも三十ちょっとだから、オルタネイティヴに振ろうかしらね。」
「おや、僕らと入れ違い位に始めたのに早いね?」
「そりゃあ三倍よ、三倍。」
「そういや、息子さんは?」
「オープンベータからで良いって。どうせカンストしてもずっと遊ぶだろうし、リセット有りなのにスタートダッシュしても仕方ないとか言ってたわ。お金なら出してあげるのに。」
僕は苦笑しつつも、何と無く分かる気もする、と思った。身内に甘くなってしまう(息子さん相手なら尚更だろうし)のもそうだし、ゲームにそれだけのお金を、しかも自分のお金じゃないのに掛けてもらうのには気が引けるのも分かる。要するに、真っ当に働いて、お金の価値を感じている人間程払ってもらうのは気にするとは思う。払ってあげたいのはそれとはまた別だしね。一応バーニィも気にはしていたけど、そこは僕が押し切ったから仕方ない。
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