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第1章 全ての始まりの記録
abyss:49 遥か彼方からの飛来者
しおりを挟む半年前に阿久津は自殺していた。
無理やり生命維持装置によって生かされていたが黒いヘルメットを外されたことで阿久津は呆気なく2度目の死を迎え崩れ落ちた。
遥の姿をした少女は俺たち一人一人に顔を向けてから
「初めまして、改めて自己紹介させていただきます。
私の名前はレグルス」
お辞儀をするでもなく笑うでもなくただ突っ立って自己紹介をした。
ラスボスだと思っていた阿久津が自殺していたことで俺たちが想像していた状況が一変した。
本当のラスボスは別にいた。
レグルスの説明に合わせ、空間の拡張現実の場面が切り替わっていく。
「あなたたち─── 混乱していますね。疑問がおありでしょうから整理しながら説明しましょう。私はレグルス。名前の由来は地球に飛来した方角が<しし座α星>だったので星座から名前をつけました」
まてまてまてまて! 俺の聞き間違いか?
地球に飛来した?
拡張現実は宇宙空間から地球に飛来する物体の映像を作り出す。
映像の端に*これはイメージです。と注釈が入っているは敢えてふざけているとしか思えない。
レグルスは続ける。
「私が何者かについてですが、そうですね。
<超高性能自己拡張型機械生命体>
自分を表す適切な言葉が他に見つかりませんが地球の言葉で置き換えるなら地球外生命体や宇宙人になります」
ラスボス宇宙人かよ!
ここにいるみんながそう思ったはずだ。
とても信じられる話ではないのだが、実際に目の前に信じられる要素がたくさん在る。
映像は時系列に合わせ次々と切り替わっていく。
「私が地球に来た時この星の文明の低さに苦労しました。世界をつなぐインターネットと呼ばれるものは普及しておらず、残念なほど稚拙な低スペックコンピュータは私の微かな演算処理にすら対応できず故障する。
そこで私を扱える人間を探すために暗号を世界中にバラ撒き解読できた者の中からさらに優秀な人材を選びました。
それが阿久津です。当時の彼は仲間を大勢無くしたことで世界に対して悪意をもった引きこもりでした。阿久津に信号を送り私の本体を見つけさせ日本に持ち帰らせました。阿久津のプログラムに関しては頭は優秀でしたが、持ち帰られた場所が下町の町工場でした。
文明レベルを一気に底上げするため私の技術の一端を世界中の企業に流出させ競争させる形で部品を開発・製造させました。これに数年間の時間を費やし、開発させた部品を阿久津の町工場に逆輸入。
これで自己増殖する環境と資源の準備ができたところで昔の戦友将暉が阿久津から呼ばれ現れました」
町工場じゃ開発・製造に資金、材料の限界がある。阿久津の環境を補うために世界中の企業に競争させ作らせ世界中に流通させると同時にすべての分野において技術革新が起きた。
若いころの父さんが阿久津と笑顔で再会している映像が出てくる。
父さんが当時の心境を挟む。
「日本に帰ってきてすぐ阿久津から見せたいものがあると連絡をもらい町工場に行った。レグルスと名付けられたコイツは量子コンピュータよりもっと先の技術だった。人工知能というが会話をしたら明らかに自我をもっていた。自我を持った量子コンピューターなんて十中八九だれかに悪用されるか、暴走して人類に攻撃してくる未来しかないから独断で破壊しようとした」
爆弾をセッティングしている父さんの姿が映し出される。
結果論になるが人類を数世代先まで発展させられる技術なのに「ぶっ壊すことにした」って、すごい英断したんだな。
「将暉の判断は正しいです。もっとも爆発させる前に将暉、阿久津含め周辺にいた人間約1000人を地下施設に隔離。
私が自ら大爆発を引き起こし更地にしました」
映像は町工場周辺の商店街で暮らす人の姿を映し爆発前に人々の真下に穴が空き、老若男女問わず落下していった。
住民が消えた静寂の後、爆心地の中心となる予定の場所から黒い柱が何十本と生え、お互いに放電しながら超高熱の火球を生み出し互いの爆発が威力を増幅させ大爆発を引き起こした。
映像とはいえ大爆発の破壊力と生々しい状況が自分たちの身体を通過しながら空間全体に広がっていく。
「遥は死んでハルキは生きてたこと。将暉が爆発を引き起こした犯人にし阿久津に逆恨みをさせました」
おいおい、誰もわからなかった大爆発の真犯人と原因がやっとわかった。
分かっただけでこの真実を地上に持ち帰ることができるか?
何も出来ず空気みたいな存在になっている俺は心の中でツッコミを入れるのが精一杯だ。
「レグルス、あなた超高性能なくせに思考と行動があんまり合理的じゃないわね」
母さんナイス質問だ!これまでの馬鹿にしたような演出にダメ出ししてくれ!
「合理的、ですか? 人間は時間が有限であるからなのでしょう。時間の無駄がないよう効率よく物事を進めようとします。最短ルートで合理的に進めるには無駄に思える非合理をして観測データがたくさん集まらなければ最適化は不可能です」
「確かに一理ある。これまでの人類史は数多くの失敗の上で成り立っている。ましてや外から地球に来たならすべて手探りだ」
父さんが唸る。
論破されているし!
「私は自己増殖しますが並列思考で考える故に画一性の自我です。
しかし多様性で成り立つ人間社会は阿久津の自殺を含め個々の行動が制御できないカオス理論を生むのです。
多様性はエラーやバグが起きない私からしたら自分以外の存在によって引き起こされる予測不能な行動です
故に私という生命体に多様性は不要」
「はっ!まるで単細胞生物ね!」
母さん、皮肉は挑発だぞ。
「単細胞生物、まさにその通りです。私の生命エネルギーは電気です。太陽光、雷、地熱、火力、風力、そして人間に微弱に流れる電気などいくらでもあります。電気さえあれば私は永遠に生きられます。寿命という概念がありません。人間を仮想空間に閉じ込め電気製造家畜として養殖することも可能ですが、生命エネルギーは他で十分賄えます。
人間が私の道具としてどの程度活用できるか実験しました。
これまでに計画が2度頓挫しています。1度目は13年前の爆発直後。
2度目は5年前に阿久津の慢心から最初の本部が壊滅したことです。
5年前は将暉の力を借りて人間の重要性を再確認を認識しました。
しかし結論からいうと感情はあってもなくても邪魔、肉体強化しても壊れる。半分機械にしても壊れる。それならすべて私の並列思考を持った統率が取れた機械生命体に置き換えた方が効率がいい。
無限に時間があるからこそ、暇つぶしに人間という私と同じ思考をもった有限生命体が極限状態になったときどういう行動と感情になるのか観測していたのです。
阿久津は良い働きをしてくれました。将暉、夜春、ハルキ、あなたたちは十数年ずっと観測していてとても面白いデータが取れました。
今日観測できたことはまさに集大成です。
人間の生への営み、足掻く姿、問題解決する姿、生きる価値やそこから生まれる喜怒哀楽」
一呼吸おいたのか言葉を止める。
「すべてが─── 私には無価値でした。生産性がなく無価値を証明できました。
私の一元管理下の機械生命体を大量生産し地上の生物が滅ぶことに躊躇いはありません。
機械生命体しか存在しない世界がこれより何千年と続くのです。計画実行までたった十数年程度の寄り道は大した時間ではありません。
残すはあなた方が最後にどんな感情で惨たらしく死んで行くのか観測できたら十分です」
「私たちがそんな簡単にやられると思ってるの?」
「おっしゃる通りです。ですがここからあなたたちが私に勝てる可能性はなく結果は出ています」
レグルスの説明でこれまで謎だったことがほぼ理解できた。
父さんはレグルスを手に入れた阿久津の暴走を止めようとして止められず監禁されていたこと。トライアンドエラーを繰り返し人類の価値を見極めるために攻撃をして来なかったこと。
俺たちが何年も泳がされたり襲撃という遠回しな演出や馬鹿にしたような茶番はレグルスの興味本位だったこと。
謎が解けたところでレグルスが言うように打開策は残っているのだろうか。
父さんを助けてもレグルスを倒さなければ生き残れない。
俺や母さん、父さん、ティナの残りの戦力で機械生命体を倒せる手段が思いつかない。
「ここが棺桶と呼ばれる理由はもうお察しいただけていますか?
長くなりましたが私の地球でのヒマつぶしはこれで終わりです。
ご清聴ありがとうございました。十分休憩はできたでしょう。
では、結果の分かった未来に進みましょう」
これまで無表情だったレグルスはまたグチャと不気味な笑みを浮かべた。
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