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第三話 真・行商人スタート
しおりを挟む「ここもだいぶにぎわってるな」
「おお、もちろんだ!勇者様が魔王を倒して海に大きな障害がなくなったからな!」
「通りで前来た時より皆の顔が晴れやかなんだな」
数日かけた航海の末、俺は新たな大陸に着いた。
ここの港町は魔王を倒す前でもそれなりの活気はあったが今だとその時より露店とか増えている。
漁も安全に行えるし魔獣の襲来の心配がないから心置きなくやっていけるんだろう。
「それじゃあ、預けてた荷物出してくれねえか?はら、『アイテムポーチ』の使用料金だ」
「毎度あり、ちょっと待ってろよ」
俺は一度、この大陸にあるクラケン運輸の事務所に来て預かっていた荷物を返した。
『アイテムポーチ』を持ってるだけで運び屋としての仕事まで貰えるからちょっとした小遣い稼ぎにはもってこいだ。
親父もたくさん『アイテムポーチ』を持ってたし、たまに目的地さえ合えば運んでいたのを思いだした。
親父、元気にしてるか?
どこかで女の尻を追いかけて生きてると思うけど、女ってホントは怖いんだよ。
さかメリルが持ってた冗談のような内容の書物が実際に起きるんだぜ…………
親父への思いはこれくらいにして商売を始めるか。
「さあさあ王都で美味いと有名な店の酒があるよー!他にも王都の品があるけど数に限りがあるから早い者勝ちだよー!」
行商人の旗をはためかせながら大きな声で宣伝しつつ町を練り歩く。
うーん、行商人として新参者だから遠巻きに見るくらいで近寄ってこない。
俺の見た目が若いし経験も浅いと思われてるだろうからそう簡単には買ってくれないよね。
おっと、ネガティブに考えちゃ商売はおおしまいだ。
俺の勘だとそろそろ穴仕掛けてくる人が来ると囁いている。
それと同時に魔物に待ち伏せされてるような嫌な予感もする。
「おいお前、本当に王都の酒を扱っているのか?」
「ええ、と言っても有名どころばっかりですけど。何にします?」
「そえれじゃあ『天の雫』を寄こせ」
いらない補足かもしれないが『天の雫』は世界的にもっとも有名な酒であり、十年に一度しか作られない酒でもある。
『天の雫』が作られる大半がと真っ先に権力者に献上され、残りはさっき言ったように会員制の店で大金を積まなければ手に入らない普通じゃなくてもめったにお目にかかれない品物だ。
そんな品物を何故こんな若者の行商人が持ってると思ったんだ。
この小太りのおっさんは何を言ってるんだ。
俺が困惑した顔をしていたら顔を真っ赤にしてフンスと鼻息が荒くなってきているぞ。
「あの、有名どころの酒を扱ってるとは言いましたけど流石に一介の行商人があの会員制かつ最高級の酒を持ってこれるわけないじゃないですか。あの酒は買うだけで有名になるのに」
「ふん!何が王都の品があるのだこの詐欺師め!」
「いやいや、王都の酒は『天の雫』だけじゃないですよ。アビール商会の美酒とかならあるんですが」
「怪しいな、だが私は寛容だ。持っているものをすべて渡せばその罪は問わんことを考えてやるぞ?」
「ちゃんと聞いてます?あ、だめだこれ…………」
話の通じなさに思わず最後の言葉を言っちゃったよ。
偉そうの人の服着てるけど、なんで無理難題を押し付けて秒で罪に問うの?
知性ある魔物のなかで妙に法律にこだわってわざわざ俺たちの罪状、魔物に対してやってきたことリストを作り上げて俺たちを裁判という形で倒そうとしてきたやつもいたよ。
敵対してるくせにちゃんと話を聞いてくれるそいつのほうが百倍マシなんだけど。
しかも悪いところだけはしっかり聞くんだね、お顔真っ赤すぎて火が出そうになってる。
「この無礼者がぁ!お前たち、こいつを断罪しろ!」
そのお前たちと呼ばれた護衛っぽい人がニヤニヤと笑いながら剣を抜く。
それよりもさっきの巻き舌のほうが気になる。怒ると巻き舌になるのかな?
「悪いな、ブデル様はここの法なんでね。自分に逆らうよそ者が嫌いなんだ」
「だからと言って簡単に手にかけるなんて三流以下だと思いますよ。俺が見た中ではそういう判断ができない人はあっさり引きずり下ろされますよ」
「さっさとそいつを黙らせろ!聞こえなかったのか間抜け!」
「ちっ、そういうわけだからくたばれ!」
チンピラまがいな護衛とこの雇い主、救いようがないね。
おとなしい行商人モードを解いて少し脅すか。
勇者時代に学んだ威圧の出し方講座!
まずは体に少し力を入れます。その時に魔力が漏れ出ないように注意しましょう。
そして威圧を向ける対象にだけ意識を向けます。その時に威圧を無差別に巻き散らかさないために集中しましょう。
のしのしと相手が歩いてきても視線はちゃんと二人に向けていないといけません。
それでは「少し怒ってますよー」という雰囲気を相手に向けて出しましょう。
「ヒィッ!?」
「うげっ!坊ちゃん、こいつはだめだ!」
「なななな何がダメだッ!早く殺せ!」
「ンな事したら俺が殺される!」
この通り、真っ先に護衛が逃げ出して腰の抜けた偉そうな人が残りました。
威圧は成功です、なーんてね。丁寧口調は疲れるよ。
「それで何でしたっけ?」
「お、覚えていろ!貴様は生きて返さんからなぁ!」
喋る魔物ですら言わない捨て台詞をはいて逃げていった。あ、震えたまま走ったから転んでまた顔を真っ赤にしてる。
てかあんな老けた見た目して坊ちゃんって呼ばれてるのかよ。
どこぞのボンボンか知らないけど恥ずかしくないのか?
おっと、なんだか周りがしーんとした空気になったな。
ちょっとは茶化さないといけない感じだな。
「んんっ、なんか知らないドラ息子に因縁吹っ掛けられましたけど大したこと戦中の狼が逃げる程度の威圧で逃げ出すくらいだから大したことないです。奇跡的に勇者と名前が被った俺を少しの間よろしくお願いします!」
まあまあな宣伝になっただろ。ちゃっかり勇者と名前被りという点も強調したからこれから行商人のリクト、何て呼ばれたりして。
そう楽観的に考えていたが、翌日に『度胸の行商人』として広まることになった。
ちょっと名が売れたけどこの腑に落ちない感覚はなんだろう…………
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