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第六話 行商人が帝国にINしたその頃
しおりを挟むさあ、やってまいりました帝国です。
ここに来るのもかなり久しぶりだなー。
確か前に来たのが二年前だったはずだ。それ以降は皇帝があんまりくんな(意訳)と言ったから来なかったのが原因だけども。
まあ、あんな嫌味ったらしくて根暗な奴のことはどうでもいい。
俺は自分のやるべきことをするまでだ。
あの女の人が何するか分からないけど今日も一日張り切っていこう!
~●~●~●~●~
「おいおい、こりゃあどうなってんだよ」
王国の勇者がこっそり旅立った港町にて絶句している面々の心境を語るように一人の男がつぶやいた。
そんなことを言ってしまうは無理もない。
普通の海にたった一晩で大きな氷の道が出来ているなんて今まで想像もしなかったのだから。
気温が低くなる時期はもちろんあり、ごく稀に雪も降ることだってある。
それでも海が凍ることはない。ここの気温だとせいぜいかなり薄い氷ができるだけだ。
「こんな状況じゃ出航できねえよ」
「ひとまず氷を解かすぞ!火属性と土属性の魔法が得意な奴は協力してくれ!」
「協力してくれた方に銀貨五枚渡すと組合からお達しが来ました!」
「よーし、金が出るならやるぞ」
急ぎの出航がある商会は賞金を出しつつ協力を要請し何とかして後から考えようという判断の元、事件解決の先延ばしが決定した。
前例もなくこのような事態が起こったため慎重になるのは仕方がない。
自然に起こるはずがない氷の道は一体だれが作ったのだろうか?
「なあ、氷と言ったら聖女様じゃねえか?」
「はあ?なんでこんなところに聖女様が氷の道造らなきゃいけねえんだよ。普通は船を使うだろ」
「あま、そうだけどな。でもこんな芸当やれるのはあの人しかいないと思うんだよな」
「治癒と氷の魔法が得意って変わってはいると思うが、そこまでじゃあないだろ」
作業しながらもそんな推測がそこらかしこでたてられる。
ある推測では聖女様が海を渡るために行ったとか。
ある推測では水を凍らせる未知の魔物が通ったとか。
ある推測では魔王の手先の生き残りがやったとか。
あくまで推測だけで真実はわからない。
その推移が当たっているかは氷を渡って居るものしか知らない。
「あとどのくらいで着きそうですか?」
「スタミナヒールを定期的にかけ続けて三日後には向こうに到着するでしょう」
「そう、少し遅いんじゃないですか」
「お嬢様の魔力の消費を考えるとそのくらいが一番良いかと。私は寝ずに馬を走らせるのでお休みになられてはいかがです?」
「それじゃあ、そうさせてもらいましょうか」
聖女ジャンヌは恋をしている。
治癒と氷の魔法の天才であり、勇者の仲間になった運も実力もあるお嬢様だった。
勇者が魔王を倒した今では聖女と崇められ全人から尊敬とあこがれを持たれていた。
しかし、彼女にとってそんなことはどうでもいい。
凱旋からの所見の間で起こることをあらかじめ予想し、既に国王にシナリオに沿って行動してもらうように頼んでいた。
そう、店を持ったら誰かを嫁にするかという話である。
もちろんリクトがアリシアやメリル、シーラを選ぶ可能性もあったが最終的にどんな手段を使っても寝取るつもりでもあった。
もはや聖女という名のゲスである。
リクトしか知らない話だが、彼がループした記憶に寝取りはなかったので結果はお察しである。
「これは予想外だったわ。そう思わないセバスチャン?」
「ええ、氷の上で馬車を扱う老人の身にもなってくださいお嬢様」
「何でここで私が責められるのですか?」
「いえ、リクト様が思ったよりヘタレだったことを嘆いているのです」
「やっぱりそう思いますよねぇ、はぁ…………」
まさか、すべてをぶち壊すような逃走っぷりを発揮するとは思わかった。
いきなり勇者がいなくなったことで場が荒れてしまいこれからどうするかの会談に巻き込まれてしまったため探しに行くのが遅くなった。
どこに行ったのか見当がついているのか?
リクトは知らないが彼の持ち物の中に発信器の役割を持つ道具が混ざっている。
こっそり仕込んだので自分だけ居場所を知っているから優位に立っているとジャンヌは心の中でにやけているが…………
そんな元箱入りお嬢様の甘い妄想を打ち砕くように馬車の横を何かが横切る。
「お嬢様!メリル様に抜かされました!」
外で馬車を操るセバスチャンの焦るような怒声がこれからを妄想していたジャンヌを現実に引き戻す。
「え、それはどういう事!?」
「どうやらメリル様もリクト様の居場所を突き止めていたご様子」
「…………そうよね、私と同じこと考えていたのが癪だわ」
メリルは魔力を大量消費する代わりに馬車よりもはるかに速いじゅうたんを使っていたのを思い出す。
効率は悪いのだが、尋常じゃない魔力量をほこるメリルなら魔力回復剤があれば向こうの大陸に届くだろう。
それに比べてジャンヌは無理をするため一度休まねばならないスケジュールで進行しているのだ。
つまり、完全に出し抜かれた。
「ああもう、こうもうまくいかないのね」
彼女は嘆いた。思い通りにいかない世界を。
「でも、だから楽しめるのね」
上手くいかないからこそ逆に解けない氷を解かすほど燃えるのだ。
「お嬢様、今日はここで一度休憩をはさみましょう」
「ええ、分かったわ。あなたも精神的な疲れがあるでしょうからきっちり休んでください」
「かしこまりました、お嬢様」
本来ならセバスチャンはジャンヌに付き合う義理も恩もないのだ。
だが、彼女に従うということは従順な従者であることへの誇りなのだろうか。
その心は本人しか知らない。
「騎士様!な、謎の馬車が海の上に!」
「放置してかまわない。無視して進め」
「はっ!」
その離れたところでアリエルの乗った船が通っていきまた抜かれたことに気づくのはもう少し先のことである。
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