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04.吹き矢
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「…………まだだな。もう少し煮ないと」
とある小屋に男はいた。鍋に川で汲んだ水を入れ、その中に必要な材料を入れて煮ていた。
グツグツという水が沸騰する音とパチパチと薪が燃える音と独り言が部屋を支配する。
そのまま時間だけが過ぎて行く。男は頃合いかと二本の棒で煮ていたものを摘まみ出す。
摘み出されたものは、なんと龍の鱗である。龍の鱗は非常に硬く、鎧や盾に使用される場合やその美しさ故にアクセサリーとして必要とされている超貴重品になる。
それなのにこの男は何の躊躇もなくふやけるまで煮たのだ。それを金銭被害で考えると小さな家一つで済めばいいくらいである。
しかし、龍の鱗を長時間煮詰めたらふやけて柔らかくなるのはこの男しか知らない。
側から見れば素材を無駄にする作業だがこの男にとって重要な素材を作る意味を持っている。
「時間勝負、うおおっ!」
本来なら薬草をするためのすり鉢に龍の鱗を入れ一気にすり潰す。
ふやけたと言ってもすぐに乾燥して硬くなるため本当に時間勝負なのである。
全力ですり潰した鱗だったものは乾燥して粉末状になり、男は満足そうに頷く。納得いくものができたようだ。
できた粉を一つまみした後に大事に小瓶にしまう。そしてつまんだ粉を口に含み、扉の方に顔を向けてふっと息を吐く。
扉が吹き飛んだ。男の口から放たれた爆風により文字通り吹っ飛ばされた。
「成功だ。威力も十分、あとは耐える筒の新調だな。やっぱり鉄じゃ長く持たないんだよなぁ。職人が造ったものだったらもっと丈夫なんだろうけど…………」
男が作り出した粉は口に含むだけで一回限りだが龍の吐息を吐き出せる魔法の薬、通称『龍の息吹』というものである。
大昔にこの粉はある程度出回っていたらしいが今では製法すら残っているかいないかで失伝していたと思われていた。
そこに男は偶然製法を発見し、今に至る。
「よし、ひとまずひと段落。さて、行くか」
男は立ち上がり、無造作に転がっていた鉄の筒を持って小屋から出て行った。
~●~●~●~●~
「おや、まだこんな時間まで起きていたのかねクリスチーヌ」
「お父様、どうしても嫌な予感がするのです」
「嫌な予感?クリスチーヌの言う事は妙にあたるが、また抽象的な」
月が地上を見守る夜、ある屋敷の廊下の窓から外に顔を出している少女に父親は声をかける。
少女は憂鬱そうな顔をしておりどことなく幸薄そうに見える。
「まあ嫌な予感というのはきっと気のせいだ。早く寝ないと肌が荒れるぞ?」
「そんなのはただの噂にすぎません。人の肌はそんなにやわでわありませんわ」
少女の言い分にため息を吐く父親。どうやら噂に惑わされない気の強い母親に似たらしい。しかし、こればっかりは事実だったりするのが悲しいところである。
しばらく親子の会話は途切れ、二人して外を見ている。月明かりが街を照らし、騒がしいところは全くと言っていいほどない。
父親の頭に何かが貫通し紅い花が咲くまでは。
「え、おとう、さま?」
一瞬何が起こったのかわからない顔をして倒れた父親を眺め、ようやく事態が頭の中に駆け巡る。
「お父様!お父様ぁっ!」
暗殺、その文字が頭によぎったのにも関わらず窓の外を覗いてしまう。
後に彼女は語る。右手に望遠鏡、左手に持った鉄の筒を口につけた死神がいた、と。
とある民族の生態を記した文献にこう言う話があった。半裸の部族が狩りをする際、毒針を筒に入れ一気に息を吹き出すことによって発射させて弱らせる。
そして今、少女の眼の前で起きたのは明らかに肉体を貫通するほどの威力、人間では考えられない異常なほどの息を吐く量と言えた。
「ぁ、ぁぁ…………」
死神は自分にも気づいたらしく視線が合う、気がした。しかし、少女には興味はなく狙撃した建物から飛び降り姿を消した。
「お父様…………なんてこと…………」
少女の叫び声を聞きつけ使用人や護衛が駆けつけるも時はすでに遅く父親は事切れていた。
貴族暗殺事件、この事件が広まると警備体制を徹底させると共に男の悪名がさらに広がる。
しかし、全員が疑問に思うことがある。
少女の父親は決して敵がいないと言うわけではないが人当たりはよく世間的に評判も良い。敵対している貴族が少女の父親を暗殺してもメリットが非常に少なすぎる。
いくら考えても暗殺する理由は不明だった。その理由を知るのはあの男のみ。憎まれるのもあの男。
彼が人を殺す理由は彼しか知らない…………
「へっくしっ!またどっかで賞金でも上がったか?あ、まだ古い手配書が残ってたのか。どうせ更新されるだろうから記念に持って帰ろう」
呑気な男の指名手配は常に更新されて行く。世界に住むほとんどの人間が彼を排除しようとする。
その指名手配犯の名は『ゼロ・ライジング』。通称、世界最悪の犯罪者。
なお、彼が持ち帰った手配書は道の途中で無くした。
とある小屋に男はいた。鍋に川で汲んだ水を入れ、その中に必要な材料を入れて煮ていた。
グツグツという水が沸騰する音とパチパチと薪が燃える音と独り言が部屋を支配する。
そのまま時間だけが過ぎて行く。男は頃合いかと二本の棒で煮ていたものを摘まみ出す。
摘み出されたものは、なんと龍の鱗である。龍の鱗は非常に硬く、鎧や盾に使用される場合やその美しさ故にアクセサリーとして必要とされている超貴重品になる。
それなのにこの男は何の躊躇もなくふやけるまで煮たのだ。それを金銭被害で考えると小さな家一つで済めばいいくらいである。
しかし、龍の鱗を長時間煮詰めたらふやけて柔らかくなるのはこの男しか知らない。
側から見れば素材を無駄にする作業だがこの男にとって重要な素材を作る意味を持っている。
「時間勝負、うおおっ!」
本来なら薬草をするためのすり鉢に龍の鱗を入れ一気にすり潰す。
ふやけたと言ってもすぐに乾燥して硬くなるため本当に時間勝負なのである。
全力ですり潰した鱗だったものは乾燥して粉末状になり、男は満足そうに頷く。納得いくものができたようだ。
できた粉を一つまみした後に大事に小瓶にしまう。そしてつまんだ粉を口に含み、扉の方に顔を向けてふっと息を吐く。
扉が吹き飛んだ。男の口から放たれた爆風により文字通り吹っ飛ばされた。
「成功だ。威力も十分、あとは耐える筒の新調だな。やっぱり鉄じゃ長く持たないんだよなぁ。職人が造ったものだったらもっと丈夫なんだろうけど…………」
男が作り出した粉は口に含むだけで一回限りだが龍の吐息を吐き出せる魔法の薬、通称『龍の息吹』というものである。
大昔にこの粉はある程度出回っていたらしいが今では製法すら残っているかいないかで失伝していたと思われていた。
そこに男は偶然製法を発見し、今に至る。
「よし、ひとまずひと段落。さて、行くか」
男は立ち上がり、無造作に転がっていた鉄の筒を持って小屋から出て行った。
~●~●~●~●~
「おや、まだこんな時間まで起きていたのかねクリスチーヌ」
「お父様、どうしても嫌な予感がするのです」
「嫌な予感?クリスチーヌの言う事は妙にあたるが、また抽象的な」
月が地上を見守る夜、ある屋敷の廊下の窓から外に顔を出している少女に父親は声をかける。
少女は憂鬱そうな顔をしておりどことなく幸薄そうに見える。
「まあ嫌な予感というのはきっと気のせいだ。早く寝ないと肌が荒れるぞ?」
「そんなのはただの噂にすぎません。人の肌はそんなにやわでわありませんわ」
少女の言い分にため息を吐く父親。どうやら噂に惑わされない気の強い母親に似たらしい。しかし、こればっかりは事実だったりするのが悲しいところである。
しばらく親子の会話は途切れ、二人して外を見ている。月明かりが街を照らし、騒がしいところは全くと言っていいほどない。
父親の頭に何かが貫通し紅い花が咲くまでは。
「え、おとう、さま?」
一瞬何が起こったのかわからない顔をして倒れた父親を眺め、ようやく事態が頭の中に駆け巡る。
「お父様!お父様ぁっ!」
暗殺、その文字が頭によぎったのにも関わらず窓の外を覗いてしまう。
後に彼女は語る。右手に望遠鏡、左手に持った鉄の筒を口につけた死神がいた、と。
とある民族の生態を記した文献にこう言う話があった。半裸の部族が狩りをする際、毒針を筒に入れ一気に息を吹き出すことによって発射させて弱らせる。
そして今、少女の眼の前で起きたのは明らかに肉体を貫通するほどの威力、人間では考えられない異常なほどの息を吐く量と言えた。
「ぁ、ぁぁ…………」
死神は自分にも気づいたらしく視線が合う、気がした。しかし、少女には興味はなく狙撃した建物から飛び降り姿を消した。
「お父様…………なんてこと…………」
少女の叫び声を聞きつけ使用人や護衛が駆けつけるも時はすでに遅く父親は事切れていた。
貴族暗殺事件、この事件が広まると警備体制を徹底させると共に男の悪名がさらに広がる。
しかし、全員が疑問に思うことがある。
少女の父親は決して敵がいないと言うわけではないが人当たりはよく世間的に評判も良い。敵対している貴族が少女の父親を暗殺してもメリットが非常に少なすぎる。
いくら考えても暗殺する理由は不明だった。その理由を知るのはあの男のみ。憎まれるのもあの男。
彼が人を殺す理由は彼しか知らない…………
「へっくしっ!またどっかで賞金でも上がったか?あ、まだ古い手配書が残ってたのか。どうせ更新されるだろうから記念に持って帰ろう」
呑気な男の指名手配は常に更新されて行く。世界に住むほとんどの人間が彼を排除しようとする。
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