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03.龍の卵
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「卵を背負って行く千里、龍を訪ねて山登りー」
男は山を登っていた。もちろん普通の山登りをこの男がするはずがない。
服装は救世主と出会った時、盗賊を虐殺した時と変わらないが背中に籠を背負っている。
籠の中は緑色で形が楕円、表面がツルツルしたもの。大きい卵である。
なぜ男が卵を背負って山登りをしているのか。それはこの山に住むとある生き物が関わっている。
ふと空が暗くなる。強い風が吹く。これらは自然に起こる現象ではない。『奴』が降臨したのだ。
『貴様か、我が子を盗みあまつさえ縄張りに侵入するのは』
「もうこのやり取り何回目?」
威厳ある声、巨大な体何もしていないはずなのに圧倒的な王者の圧力が男を襲う。空の王者『龍種』が降臨した。
しかし男は何事もないように、むしろ呆れた声で反応した。
普通なら王者たる龍を見れば恐怖に陥るのだが、男が龍に向けた目は半眼で「何やってんだこいつ」みたいなものである。
『また貴様か。今度も我が子を盗んだということか』
「正確に言うと、盗んだ奴から盗みかえした訳だ。何回も言うけどさぁ、ちゃんと管理くらいしろよ馬鹿!」
『馬鹿とはなんだ!王者たる妾に向かって馬鹿とは!』
「王者なら卵を盗まれるなよ!この前にお前の夫と会ったけど呆れてたぞ!」
『アレの放浪癖が治らないのが悪い!妾だって遊びたいもん!子供達に卵任せてたら盗まれただけだもん!』
「まだあいつらも未熟だろ!襲ってきた人間と戯れてるうちに盗まれるわ!」
あっという間に威厳が崩れた空の王者。しかも途中から口調が駄々っ子になってしまった。
これが全て、とは言わないが事件の発端と言えるだろう。
既に産んだまだ50歳に満たない遊び盛りの子龍達に卵を任せ、自分が遊びに行っている間に襲撃者が現れる。
襲撃者は子龍達に挑むが歯が立たず、戯れるだけで死者を出す始末。しかし、複数の部隊で行動して卵だけを盗みだし命からがら帰還した。
何人も犠牲になった龍の玉は豊穣の儀式に使われるとかなんとか。使ったとしても怒り狂った龍が田畑だけでなく国すら焼き尽くす。
焼き尽くされた灰で植物が育つため、ある意味で豊穣の儀式は成功しているといえる。なお、この事は歴史上何度もあるはずなのにどこにも残されていない。全て灰になってしまったからだ。
「ほら、卵割られたくなければお前の鱗を10枚もってこい!」
『チッ、鱗くらいくれてやるわ。ぺっ』
「ぬおおっ!?お前の唾はモノ溶かすんだつて!卵ごと俺を消すつもりか!」
唾が溶解性を持つのはこの際置いて置く。そろそろしばいて倒したほうがいいんじゃないかと思い始める。
『ふん、貴様の望む鱗だ。妾にはもう必要ない』
「はいはい、ありがとよ。そら、約束の卵だ」
『…………傷の一つもない。よほど丁寧に扱われてたのだな』
「その台詞も何回目だよ」
強い衝撃を与えないように卵が入った籠を差し出す。龍は卵を手で摘み出し大事そうに抱く。
ここだけ見れば絵になるだろう。しかし、大罪人と呼ばれる男と空飛ぶ厄災と呼ばれる龍のしょうもないやり取りでもある。
「任務完了、と。それじゃ、俺は行く」
『あれー、おにいさんだ!』
『おにいさんが来てる!』
「…………行きたかったなぁ」
幼い声が響く。パタパタと拙い羽ばたきの音が聞こえる。
目の前にいる巨大な龍よりも語り小さい龍が2体、男に突っ込んできた。
男は全力で回避した。
「あっぶねぇ!そろそろ手加減を覚えたほうがいいんじゃねえか?」
『おにいさんあそぼー!』
『あそぼあそぼ!鬼ごっこしよ!おにいさん逃げる側ね!』
「くっそ、勘弁してくれよ!やんちゃ盛りな年でもないだろ!」
『50歳なんてまだまだ子供。我が子達よ、この子が孵るまで十分に痛めつけ…………んんっ、遊んでやれ』
『はーい!』
『やったぁ!おにいさんといっぱい遊べるね!』
「ふざけるなぁぁっ!!」
男の魂の叫びが響き渡る。子龍との鬼ごっこはどこに逃げようと必ず見つけられ、捕まる事は噛みつかれるのと同意義なので命に大きく関わる。
その後、卵は奇跡的に1日で孵り長期間の鬼ごっこと言う名の死闘を覚悟していた男は男は助かった。
この件は叫び回る男が子龍に追いかけ回されるところを目撃され『龍の怒りを買った男』として正体がバレないまま逸話になった。
余談だが、卵を盗んで豊穣の儀式を行おうとした街は普通に豊作だった。
男は山を登っていた。もちろん普通の山登りをこの男がするはずがない。
服装は救世主と出会った時、盗賊を虐殺した時と変わらないが背中に籠を背負っている。
籠の中は緑色で形が楕円、表面がツルツルしたもの。大きい卵である。
なぜ男が卵を背負って山登りをしているのか。それはこの山に住むとある生き物が関わっている。
ふと空が暗くなる。強い風が吹く。これらは自然に起こる現象ではない。『奴』が降臨したのだ。
『貴様か、我が子を盗みあまつさえ縄張りに侵入するのは』
「もうこのやり取り何回目?」
威厳ある声、巨大な体何もしていないはずなのに圧倒的な王者の圧力が男を襲う。空の王者『龍種』が降臨した。
しかし男は何事もないように、むしろ呆れた声で反応した。
普通なら王者たる龍を見れば恐怖に陥るのだが、男が龍に向けた目は半眼で「何やってんだこいつ」みたいなものである。
『また貴様か。今度も我が子を盗んだということか』
「正確に言うと、盗んだ奴から盗みかえした訳だ。何回も言うけどさぁ、ちゃんと管理くらいしろよ馬鹿!」
『馬鹿とはなんだ!王者たる妾に向かって馬鹿とは!』
「王者なら卵を盗まれるなよ!この前にお前の夫と会ったけど呆れてたぞ!」
『アレの放浪癖が治らないのが悪い!妾だって遊びたいもん!子供達に卵任せてたら盗まれただけだもん!』
「まだあいつらも未熟だろ!襲ってきた人間と戯れてるうちに盗まれるわ!」
あっという間に威厳が崩れた空の王者。しかも途中から口調が駄々っ子になってしまった。
これが全て、とは言わないが事件の発端と言えるだろう。
既に産んだまだ50歳に満たない遊び盛りの子龍達に卵を任せ、自分が遊びに行っている間に襲撃者が現れる。
襲撃者は子龍達に挑むが歯が立たず、戯れるだけで死者を出す始末。しかし、複数の部隊で行動して卵だけを盗みだし命からがら帰還した。
何人も犠牲になった龍の玉は豊穣の儀式に使われるとかなんとか。使ったとしても怒り狂った龍が田畑だけでなく国すら焼き尽くす。
焼き尽くされた灰で植物が育つため、ある意味で豊穣の儀式は成功しているといえる。なお、この事は歴史上何度もあるはずなのにどこにも残されていない。全て灰になってしまったからだ。
「ほら、卵割られたくなければお前の鱗を10枚もってこい!」
『チッ、鱗くらいくれてやるわ。ぺっ』
「ぬおおっ!?お前の唾はモノ溶かすんだつて!卵ごと俺を消すつもりか!」
唾が溶解性を持つのはこの際置いて置く。そろそろしばいて倒したほうがいいんじゃないかと思い始める。
『ふん、貴様の望む鱗だ。妾にはもう必要ない』
「はいはい、ありがとよ。そら、約束の卵だ」
『…………傷の一つもない。よほど丁寧に扱われてたのだな』
「その台詞も何回目だよ」
強い衝撃を与えないように卵が入った籠を差し出す。龍は卵を手で摘み出し大事そうに抱く。
ここだけ見れば絵になるだろう。しかし、大罪人と呼ばれる男と空飛ぶ厄災と呼ばれる龍のしょうもないやり取りでもある。
「任務完了、と。それじゃ、俺は行く」
『あれー、おにいさんだ!』
『おにいさんが来てる!』
「…………行きたかったなぁ」
幼い声が響く。パタパタと拙い羽ばたきの音が聞こえる。
目の前にいる巨大な龍よりも語り小さい龍が2体、男に突っ込んできた。
男は全力で回避した。
「あっぶねぇ!そろそろ手加減を覚えたほうがいいんじゃねえか?」
『おにいさんあそぼー!』
『あそぼあそぼ!鬼ごっこしよ!おにいさん逃げる側ね!』
「くっそ、勘弁してくれよ!やんちゃ盛りな年でもないだろ!」
『50歳なんてまだまだ子供。我が子達よ、この子が孵るまで十分に痛めつけ…………んんっ、遊んでやれ』
『はーい!』
『やったぁ!おにいさんといっぱい遊べるね!』
「ふざけるなぁぁっ!!」
男の魂の叫びが響き渡る。子龍との鬼ごっこはどこに逃げようと必ず見つけられ、捕まる事は噛みつかれるのと同意義なので命に大きく関わる。
その後、卵は奇跡的に1日で孵り長期間の鬼ごっこと言う名の死闘を覚悟していた男は男は助かった。
この件は叫び回る男が子龍に追いかけ回されるところを目撃され『龍の怒りを買った男』として正体がバレないまま逸話になった。
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