デッド☆エンド☆ライジング

雷川木蓮

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02.悪党

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「さーて、ここだったな。ゴミ屑ども
が好みそうな洞窟だ。空気や湿気に問題なく閉ざされなきゃ快適だな」

 独り言のようにとある洞窟の前に男はいた。

 フードを深く被り顔の下半分に包帯、そしてボロボロになった外套に動きやすいズボンと明らかに戦闘向きではない服装をしていた。

 それでも男はまるで探検するかのように洞窟へ躊躇なく入っていく。

「さーて、そろそろおいでになるだろう」

 軽い足取りなのにわざと大きな足音を立てる。まるで自分の居場所を示すかのような、挑発した態度である。

 何かが風を切って飛んでくる音が聞こえる。男が少し体をずらすと、本来顔があった場所に矢が通っていった。

 火の明かりすらついてないのにここまでの精度は脱帽である。あえて居場所を教えるような行為をしまくっていた訳だが。

「いきなり顔狙いか?それじゃあいい得点は与えられないな。いいか?軽装の相手を狙うなら手足か腹だ。重装備だったら、隙間を狙え」

 元から洞窟にいたいた人間が松明をつける。その顔は指摘した男に対して怒りを示しており真っ赤だった。

 それもそうだろう。暗いところで目が効く奴の奇襲が失敗した上に点数までつけようとしてきたのだ。

 明らかにナメられている。この屑どもは単体で侵入してきた男をナメてた癖に自分たちのことを棚に開けて怒っている。

「やあどうも盗賊の皆さん。ここら辺荒らしてるっていいご身分だねぇ。魔法使いまで居てやんの。さて、死んでくれない?」

「そりゃあこっちのセリフだ。いい気分で呑んでたのに水差しやがって!」

 腰につけて居た剣を抜き男に襲いかかる。

 相手は馬鹿ではない。ここ最近で悪事を働くも国替え足取りが一切つかめて居ない手腕を発揮しているほどである。

 そこまで広いとは言えないが一人で襲い掛からず二人同時に襲いかかってくる。

 男に剣が届く、前に男が動いた。

 二人のうち壁に近かった右の盗賊の懐に潜り込み袖に隠してあったナイフを喉に突き刺す。

 もう一人の盗賊が即座に対応しようとするが、喉を刺された方は手が緩み剣を落とす。しかし、剣が地面につく前に男が掴み盗賊を袈裟斬りする。

 10秒も満たない時間だが、2人の命が刈り取られた。

「さて、次はどいつだ?」

「二人殺っただけで調子に乗るんじゃねえ!全員でかかれ!」

 盗賊は頭領含めて10人弱、この程度の数は男にとって小さすぎた。

 斬りかかろうにも反撃され殺される。ナイフと体術、そして自身が持っていた武器を奪われ斬られる。

 敵からすると非常に恐ろしかった。近寄ったら即座に急所を刺され、剣を振り抜いたとしても当たらない。

 それなら遠距離はどうだ、となる前に6人は物言わぬ屍になった。

「弓か魔法、弓か魔法だ!それなら奴も殺せ」

「遅いっての。あと弓じゃなくて矢だろ」

 指示が出た瞬間にナイフを投げ、また一人倒れる。さっきまで生きていたはずなのに、頭にナイフを生やし動かない。

 魔法と矢が飛んでくるが隙間を見つけては避け、屍になった盗賊が持っていた剣で一人、また一人と斬り捨てられる。

「や、やめてくれ!あいつに言われてやっただけだ!ぎゃあっ!」

「結局悪い事は悪いのさ。人のこと言えない特大ブーメランだけどな」

「お、お願いだ命だけは助けてくれ!なんでもするから!」

 最後の一人になった盗賊の頭領は地面に膝をつけみっともなく命乞いをする。涙も鼻水も流し、股間も湿っていた。

「ふーん、それ今まで襲った奴に何回言われた?有罪」

「やめ…………っ!!」

 一刀両断、男は頭領の命乞いも命も真っ二つにした。

 残ったのは男と死体だけかに思えた。男はまだ奥に誰かいる気配を感じ取った。

 気配といっても弱々しいものだ。

「うわ、いい感じにこの洞窟を住みやすそうに改造してるな。オラァ!」

 盗賊が自力で作り上げたらしい木製の壁についた扉を蹴破り中へ侵入する。

 ちゃっかりテーブルや椅子、寝床までありテーブルのうえには食料や酒瓶が転がっていた。

 こんなものはどうでもいい。問題なのは壁に寄りかかっている裸の女性達だった。

「なあ、ちょっといいか?」

「……………………」

「だんまりか、それじゃあ君」

「……………………」

「釣れないなぁ、ねえ、いい?」

「……………………」

「もしもーし、生きてる?」

「……………………」

 声をかけても体を揺すっても何一つ反応しない。もしかしたら事切れているのではと思ったが、息はしているため生きていた。

 ただし、髪はボサボサで肌にハリはなく、目に光はない上に生気もない。まさに生きる屍といったところだろう。

 恐らく、この女性達は攫われてここに来たのだろう。もてなしは最低最悪の対応だったらしい。

「そうか、ここに悪夢から覚める薬がある。俺はそれを届けに来た」

 男は腰のポーチから液体の入った瓶を取り出す。悪夢云々は真っ赤な嘘だ。もちろん悪夢から覚める薬なんてものはない。

 この状態から生きる事は非常に辛い。ここでの扱いの記憶は死ぬまで残る。そう、死ぬまで永遠に。

 そして瓶の中身は毒薬、苦しんで死ぬようなものではなく眠るように息を引き取る毒薬である。

「さあ、飲むといい」

 空の小瓶に液体を分けて彼女達の前に置く。

 彼女達はまだ瓶を手に取らない。何か思うところでもあるのだろうか、それとも考えることさえできないほど壊れてしまったのか。

「安心してくれ。君達が薬をまで俺はここにいる。飲みたくないっていってもこれだけは置いていく」

「……………………」

 この中で最も若そうな女性がゆっくりと小瓶に手を伸ばす。小瓶を持つだけで手が震えているほど弱っていた。

 それに続くように一人、また一人と小瓶を持ちゆっくりと飲む。

 結局、全員が液体を飲んだ。ゆっくりと壁にもたれかかる力が抜けていくのか横になっていく。

 目を閉じて呼吸が弱くなっていく。男は明らかに甘すぎる嘘をついた。

 彼女達の閉じた目から一筋の涙が流れる。ようやく解放されるのだろうと、そう願っているのだろう。

「……………………はあ、全く」

 この空間に呼吸音が一つだけになった。生きているのは男だけだ。

 男は立ち上がり彼女達が飲んだ液体が入っていた小瓶を回収する。もちろん洗って再利用するためだ。

「あーあ、どうせこの子達も盗賊供も俺が殺したことになって悪く言われるんだろうな。ま、殺した事は事実だけどさ」

 負の空気が満ちた空間に明るく独り言を言う。

 もう何百、何千と殺した男は狂えばよかったのだろう。しかし、彼は狂うと言う名の逃げはしなかった。

 狂う事で今まで行った罪を消すことなんて、命を忘れる事なんて出来ないのだから。
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