切り裂きジャックは更生できない

雷川木蓮

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「なあジャック、剣を習ってみるか?」

「おもそうだからやだ」

「そんなこと言うなよ。ほら、わざわざ来てくれたおじさんが落ち込んでるだろ?」

「ぐぬぬ、最近の子と来たら剣なんかに興味を示さなくて槍とか魔法とかに夢中になって!おじちゃんは悲しいんだよ!」

 ゲイルに客人が来たと思ったら剣術を勧められた。
 しかしジャックは剣に興味を示さず目線すら合わせずに絵を描いている。
 客人は膝をついて恨み節を叫ぶが誰も聞き入れてくれない。

「んーと、それじゃあ槌とかはどうだ?」

「吾輩にあんな外道武器を扱えだと!」

「それは俺に喧嘩売ってるとみなしていいのか?あぁん?」

 もう既に喧嘩になりそうになっている。
 だが、ゲイルとこんな感じに喧嘩するのは仲がいいという証拠でもある。
 喧嘩するほど仲がいい、というため即座に破壊・・しないため彼らの中ではじゃれ合っているくらいなのだろう。

「刃物だ!我輩は刃物しか認めんぞぉぉぉ!」

「はもの?ナイフならいいの?」

「ばかっ、それをこいつの前で!」

「ナイフに興味があるのか!?ほほう、ナイフとは目の付け所がいい。短剣の類であるがリーチや殺傷能力共に低いとされるがスタイリッシュで気持ちいいものだ!ナイフで切った爽快感、あれが剣では味わえない麻薬のような快感を覚えさせてくれる!」

「チッ、始まりやがった」

 勧めるきっかけになったのは自分だが、ゲイルはこの男の長話にうんざりしていた。
 この男、サラザールというのだが刃物に対して異常な執着を持ち、珍しい剣や魔法の力が宿った剣、通称魔剣と呼ばれるものを収集している。
 刃物マニアゆえに最低でも小一時間は聞かされる羽目になるからだ。
 なお、途中で止めると非常に不機嫌になるため止める者はいない。
 ゲイルも止めない人物の一人だ。

「ナイフと言えば最近良いものを仕入れてね、半人前の刀匠が作ったと言っているがあれは化ける!私が認めるほどの物を作ったんだ!今後とも活躍してもらわなければなるまい!そう思って投資しまくったのだよ。そのナイフというのを今日持ってきていてな、見たいか?」

「みたいみたい!」

「ほーほう!ゲイル、お前の子は見る目があるぞ!」

「うっせえ、サディがいないからって煩くし過ぎると殺すぞ」

「この前の話を聞いた時からもしやと思っていたんだ、ジャック君はナイファーに向いている!」

 ナイファーとは思にナイフを使って戦うものの総称であり、刃物を愛するあまりそれぞれの技術を習得しているサラザールもナイファーの一人ともいえる。
 ゲイルは不快に思っていたが、ジャックが目を光らせていたため本当にナイフに興味があったことを悟る。
 もうすでに才能の一端は見せていたが、どうしても納得がいかなかった。

「何かを習得させるなら俺の破壊技を教えてやりたかった!」

「本音が出ておるぞ。そもそもこの子の体形や筋肉の付き方から将来を計算するとお前のものを継がせるのは無理であろう」

「ぐぬぬ…………」

「おじさん、ナイフのことおしえて?」

「良いとも良いとも!ナイフ専門希望の弟子はそうそういないからな!」

 負けた、完全敗北だった。
 ゲイルの破壊に興味を示さずサラザールのナイフ術に興味を示したのだ。
 その現実を目の当たりにして父親は膝をついた。
 まさかぽっと出の友人に負けるなんてーーーーー

 屈辱の極みにいる父親をよそにナイフ講義が始まり母親が帰ってくるまで続いたとか。
 そして、ジャックは正式にサラザールの弟子になると言い出して駄々をこねたがおしゃぶりを咥えさせられて黙らされた。
 だからなんでおしゃぶりでだまるのか、本人ですらおしゃぶりの魔力にはかなわなかったと語る。







 ~●~●~●~●~







「そおれっ、おお弾いたか」

「たりゃあ!」

「まだまだ、その程度では吾輩に届かんぞ!」

「結構苦戦しているように見えますが~」

「そこだ!そいつを殺せ!」

「野外は黙ってくれないかね!」

 たまに来るサラザールの訓練をつけてもらう形になって早3ヶ月、ジャックの技術は上達していった。
 前世に記憶もあってか、自分なりの戦闘スタイルがほぼ完成しており若さと無謀さも相まってサラザールが舌を巻くほどの実力者になりつつある。
 だがまだ4歳児だ。

 ちなみにサラザールが苦戦しているのはジャックの技術だけではない。
 親が殺気をピンポイントで放ってくるのだ。
 ジャックの殺気はともかく、異名持ちで悪名高い二人の殺気が飛んでくるということはいつ奇襲されてもおかしくはないということだ。

「ジャック君が天才なのは確かだ!だからせめて君たち、吾輩に向けた殺気を押さえてくれ!気が散る!」

「さっさと亡き者になりやがれ」

「友人に対して辛辣だな!?」

 そう言っても止める気配のない友人とその妻に戦慄する。
 放ってるオーラを死ね死ねオーラとあえて名をつけよう、それを常に当てられ続けてたらたまったもんじゃない。

「よ、よし、今日はこれまで」

「えー!もっとやりたーい!」

「また今度にしよう。でないと2度と来れなくなるかもられないからな!」

「むー…………」

 これ以上やると本当に殺されるかもしれないとサラザールは稽古を切り上げた。
 ゲイルかサディのどちらから1人ならともかく、幾ら何でも2人を相手にするのは自殺行為である。
 ジャックは頬を膨らませて足りないと抗議しているが仕方ない事である。
 下手に怪我とかさせたら全力で殺しにかかってくる怪物がいるのだから。

「はぁ、貴方達は子供が出来て丸くなったというか、余計に鋭くなりましたね」

「ふふふ~。子供というのはいいものです~」

「お前もガキを作ればわかる」

「人間になんか興味はありませんね。剣が人になれば吾輩も子供を作るかもしれんがな!」

 おそらくそんな日は来ないだろうと思いつつガハハと笑い飛ばすサラザール。
 実際に剣が人になったなんて話は聞いたことがない。
 そもそも無機物に命が宿るなんてゴーレムくらいしかないのだ。
 サラザール本人も子供を作るつもりも伴侶を作るつもりもない。
 一生を趣味にささげる男の顔をしていた。

「ほえー」

「しかし、この年になったんだ。友達の一人や二人作ったのか?」

「ともだち?」

「…………おい、まさかとは思うが」

 両親がサラザールから顔をそむけた。
 今まで町というよりスラムにしか言ったことがない男の娘だ、友達がいるか、いやいない(反語)

「貴方達という人は!この年頃で友達がいないってどういうことかね!それでも親か!」

「ジャックの漬け込んでくる輩だって否定できませんし~?これが親としての愛かな~」

「それに、俺たちゃお尋ね者だぜ?」

「そういえばそうであった。しかしなぁ…………」

「ともだちって?」

 もうなんだか哀れである。
 世間知らずで自分と両親の話しかしないと思っていたが、まさかここまで箱入り息子だとは思わなかった。
 ある意味で幸せなのだろうけれども、世間の表と裏を行き来するサラザールから見るとなんかずれているとしか言えない。
 そしてこの親子して子ありという共通点があった。

 悲しいほどに人間関係がなさすぎる。

「…………よし、次の講義はジャックに友達ができたらにしよう」

「えー!なんで?」

「いくらなんでもあの二人のようになるのは、心が痛すぎる」

「ケンカ売るなら倍額で買いますよ~」

「よし、今日という今日はぶっ潰す」

「では貴方達の友人を10人いえるかな?」

「ええと、ピエルだろ、それに、ええとあんたに」

「吾輩を出すところで躓いちゃダメだろう」

 サディはというとにこにこ笑ったまま黙りっぱなしだ。
 この反応は誰も思い浮かばなかった顔だ、長年親の顔を見てきたジャックがそう判断する。
 確かにたまに人は来るが、そこまで親しそうな人はあまりいなかった。
 そう、『俺は友人が少ない」』ならぬ『私はぼっち』という存在だったのだ。

「それでは吾輩は帰る。ではジャック君、友達を作ってきたまえ」

「ぼく、おとーさんやおかーさんみたいな『ぼっち』ならないもん!」

「その心意気だ。そこの二人も…………もう聞こえていないか」

 そう言うだけ言いサラザールは颯爽と去った。
 ジャックはどういう状況になっていたかつかめなかったが、両親に近づいてようやく気付いた。
 我が子の言葉のナイフが思いっきり精神を刈り取り立ちながら気絶していた。

「おとーさん!おかーさん!うわーん!しんじゃったー!」

 死んではいないが、ジャックは二人の意識が戻るまで泣き続けた。
 もちろん死んではいないが、のちにジャックを泣かせたとサラザール一派と歴史に残る戦いをおこなうことになるなんて誰も知らなかった。
 主要人物は全員無傷だったので特に語ることはない。
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