僕らの距離

宇梶 純生

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阿吽

凄惨 2

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二階に上がり
階段前の室内へ
移動する

家政婦の休憩場でもあった
フローリング床には
縁なしい草置き畳が敷かれ
簡易的な居間を造り

設置された小さな流し台の脇に
茶箪笥と電気ポットが置いてある

茶筒から湿気た茶葉を急須に入れ
急速で湧く湯を注ぐと
懐かしい香りが
部屋中へ漂った

手際良く湯呑みを配る縁は
こじんまりした
真四角の炬燵テーブルを囲み
向き合い顔を合わせる
ふたりの間に座り込む

「124万円って何
 清人君の不在と
 関係あるの?」

的確な縁の質問へ
久我が応える前に
嫌悪感を示す隆行が遮る

「清人の事なら
 僕では無く
 神城隆一親父に頼め」

横柄な態度を取る隆行に
飽きれる縁は
困り顔で溜息をつく

「どうして隆行は
 清人君の話になると
 不機嫌になるのよ」

縁の言葉を鼻で笑う隆行は
清人を気遣う縁を小馬鹿にし

「清人の素性を知れば
 縁にも 解る事だ」
「...素性?」
「今頃 清人は親父の別荘か
 海外留学でもして
 悠々自適に暮らしてるさ」

刺々しい口調で
投槍になる隆行へ縁は
冷静な視線を向ける

「何故 父親の名が
  出るの?」

鋭い縁の指摘に
胸を抉られる隆行は
弱気に口篭り呟く

「だから この屋敷に
 帰りたくないと言ったろ」
「......隆行」

両腕をテーブルに置き
顔を伏せる隆行は
苦悩の言葉を捻り出す

「清人は母親似で
 男を惑わし誑かす」
「どうして 酷い事を...」

ゆっくりと顔を上げる隆行は
目の前に座る久我の顔を
朧気に眺め目を閉じる

「僕は見た
 清人と親父の性行為を」

唇を噛み締め瞼を塞ぎ
苦痛に顔を歪める久我が
やり切るぬ溜息を吐き捨てた

「清人が産まれ
 父は帰らず
 母は去り
 僕から家族を奪った

 母が浮気し孕んだ子だから
 血の繋がらない親父と
 平然と寝る...」
「違う!」

久我の野太い声が
語り話を打切り
振り落とす拳が
テーブルを叩き鳴らすと同時に
立ち上がり部屋を出て行く

勢い良く隣部屋のドアを
開け放つ音が響き
外国書籍型の宝箱を抱え
舞い戻る久我は

中から一通の封筒を取り出し
隆行の前へ突き出していた
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