王妃になるなんて言ってないんですけど

9話

お父様！？
お父様は私にウインクをしながら話し出す
「陛下の承諾があれば家族は交流してもいいはずでしょう。わたしは昨晩、シアがいつもベットの近くに置いていたオルゴールを渡し忘れ届けに行ったまでです。そして今回の王妃候補は当日まで娘や王子達には伝えておらずシアは自分で準備をしてここへ来た訳ではありませんでした。静かに届けに行ったつもりだったのですが…勘違いを起こさせて申し訳ありません」 

（まあ。トレシア令嬢はほんとに知らなかったのね。）
（だから第1王子が当日に来たのかしら）
（ってことは第1王子は令嬢のことを?）
（それにしてもサイラス令嬢にその意思がないのに王妃候補になるなんて王子に失礼じゃありませんこと?） 
（まあ。でもそれを言えば政略婚が成立しませんわ）
（それにしても王女は盗み聞きしてたのかしら）
なんて令嬢たちはコソコソ言い合う。 

「ゴホンッリシアン王女。そういう事ですので明日、馬車をご用意させていただきますのでとりあえずお部屋の方へお戻りください。」 

「まあッそんなことしていいと思ってるの！？全てお父様に必ず言いつけますから！！」 

「…リシアン王女。あなたのお父様とは外交の関係でよくお話しておりました。王女のお父様はとても素敵な方ですね。今回、王妃になることは無理だろうが王女の為になればそれでよい。とお父様も仰っておりました。リシアン王女。国は国民がしっかり働いてくれる環境があるおかげで豊かになるのです。その上に立つものとして、王女がこれからももっと素敵な王女として育つのを私も楽しみにしております。」 

「………」
リシアン王女は悔しそうに睨み部屋を出た。 

エミリー王女はそれを見つめながら
「私の侍女は何も言ってくれないのね。きっとトレシア嬢の侍女はきちんと国税を無駄に使わないようにと忠告なされたのでしょう?私の侍女のことをフォローしていたとお聞きしましたがこうやって私を陥れるためだったのですね」


「…エミリー王女。それは違います。オリヴィア（王女の侍女）はエミリー王女の為に自分の時間も無く倒れそうな程に尽くしていたかと思います」 
エナは怒りを抑えながら冷静に答える。

「まあっ。それは侍女の仕事の出来が悪いだけかと。現にあなたはトレシア令嬢に忠告致したのでしょう?」 

「そんな忠告していません。侍女は皆【明日はドレス商人が来ることになってます。もちろん皇家からの支払いになっておりますからお好きなドレスをお選び下さいとの事です】とそのまま伝えるようにという命令のままにお話しているはずです。その上でトレシア嬢は「そんなの本当かどうか分からないでしょう?だって現にわざわざあなたの分は父親の請求にしたのだから」 

「…私は絶対に皇后陛下に背くようなこと致しません！！それにトレシア嬢が私にお世話になるからと言ってくださったお言葉を侮辱するような言い方は「エナ」 

「…トレシア嬢…。」 

「エミリー王女…ドレス商が来られた後、歴史学を勉強しましたよね。それならなぜ皇后が無駄遣いをしない令嬢を選ぶかお分かりですよね。」 

あの後歴史学を学んでいる時にも昔、ドレスや宝石が大好きで国の景気とみ合わない無駄遣いをしてしまい国民から…なんて皇后の話はあった。
皇后がその昔の皇后の事があるから無駄遣いを嫌っているのかは分からないけど今はこの話で事を落ち着かせるのが1番だろう。 

「それなら。先に歴史学を学ぶべきですわ。その上で無駄遣いするかしないか考える時間が出来るではありませんか」 

「もしそうであってもその場だけで無駄遣いをしないのでは意味が無いのでしょう。ただ物欲があるかないかそれを見極めたかったのかと私は思います」 

「……」 

「あの……エミリー様。」 

「何よ今更出てきて！」 

「エミリー様…私たち侍女は王妃候補の為に出来る限りのことはなんでも致します。ですが皇后陛下の顔に泥を塗らぬように内密事項を話すことはありません。今回は…国の歴史を知っている方々はこのドレスの購入はテストであると分かっての上での行動かと思われます……。エミリー様が一つ一つを完璧にと頑張って来られた事は私も素敵だと思っておりました。ですが……」 

「ですが?ですが何よ」 

「事前にある程度国の情報を把握すべきだったかと思います…。」 

「あなた誰に言ってるのか分かってるの！？」 

「ゴホンッエミリー王女、落ち着きください。侍女の仰ってることは間違いではありません。ですがそれだけではなく、歴史を知ってる者は皇族が豪遊しない事を知ってるでしょう。ですが知っている者に対しても王妃になっても強制的に好きなものを好きな時に沢山購入するなんてことは致せません。それでも王妃になるかという再確認の意味でもあります。知らない者に関しても、物欲がおありであればこの国の王妃になるにはご本人のストレスに値すると考えた上での結果でございます。」
執長は慣れたようにたんたんと説明する。


「……そうですね。確かに私の国ではまだ同じドレスなんて着れないという考えはまだ続いておりますし、私もそういった考えでした。この国のことを調べなかったのも私の勉強不足だったと今なら理解できますわ。分かりました。国に帰る馬車はこちらで用意致しますから馬車の用意は必要ありません。少しの間でしたがお世話になりました。」 

エミリー王女はもっとごねるのかと思いきや意外にも素直に部屋を出ていった。
「それでは少しばかり騒がしくなりましたが以上となりますので王妃候補様はお部屋へお戻りください。」 

エナの言っていた侍女を困らすわがまま令嬢はエミリー王女の事だったのだろう…。
わがままで横暴だけど話を聞く限りエミリー王女が必死に頑張ってることを分かっていたからこそ侍女のオリヴィア嬢は見捨てることも出来ずにめげずに向き合っていたのね…。
オリヴィア嬢もこれからすこし休めたらいいな。 

それにしてもお父様が来るなんて思いもしなかったわ。なんて考えながら部屋に戻ったも束の間 

コンコンッ
「シア。会いたかったよ。ほんの数日の間にんなに成長してっ」 

「お父様っどうしてあんなにタイミング良く来られたの！？」 

「ははは。それはボルパン公爵令嬢から聞いてたからだよ。何かあった時は伝えてくれと言っておいたからね。第1王子の姿は見られていなくて良かったよ。娘を困らせよって」

王子のことをそんな風に言えるのはきっとお父様を含めて数人しか居ない。

「え。エナはお父様と繋がってたの！？」 

「ふふふ。ごめんなさい。王妃候補発表の後に何かあれば報告して欲しいって言われてたの」 

「お父様！？」 

「すっすまない。どうしてもシアのことが心配で…」
シアへの敵視や嫉妬は私のせいでもあるからな…。
できる限り守ってやりたいんだ…。そんな思いを込めながら話す公爵。 

「もう。セオドアといいお父様といい。ただのエレンの王妃探しよ?そんなに心配するほどの事じゃないわ。でも正直助かったわ。お父様が来てくれなかったらいい言い訳を思いつかなかったもの」 

「シアの役に立ててよかったよ。それにしても第1王子は何をしに来てたんだ?」 

「これ…。」 

私は第1王子が来た理由を説明した。 

「おおお。なるほど。第一王子がそんな事を。それは私からも第1王子を褒めておかねば。そのネックレスは肌身離さず持っておくんだよ。何かあった時の為になる。」 

もう。セオドアといいお父様といい大袈裟なんだから…。
「ええ。これからはキチンと着けるようにしますわ。」 

「うむ。まあ。今後もシアの助けになれることは何でもしよう。何かあれば私にも言うんだよ?」 

「お父様、ありがとう。」 

「じゃあそろそろ帰るとするよ。」 

「ええ。次は社交界で」 

「そんなに会えないのか…毎日顔を合わせていたのに屋敷にシアが居ないなんて考えられないよ」 

「もう！またそんな事言って。私がほんとに結婚したらどうするの！？」 

「ははは。それはそれだよ。娘の幸せだけを願っているよ。じゃあまた社交界で」 

「ええ。社交界で」