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恵編

その2 二人のヒミツ

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 ウェヌス王国の首都へーロースに行くには、街道を三日歩き、フラヴィア村とタタンラリーサ・シュタットを通り、半日歩くことで辿り着く。首都へーロースの近くの森に地球へ行くための洞窟がある。
 恵とイズは、フラヴィア村に向かうために街道を歩いている。
「馬車に乗るという選択肢はなかったのか?」
 イズが疑問に思ったことを口に出した。
「あ……! お、思いつかなかった」
「君は少し抜けているんだな」
「う、うう」
 恵は泣きそうになったが、グッと天を仰いで泣かないように努めた。
「私、学校では一番だったの。でも、外に出てから、何もうまく行かなくて」
「恵。誰でも最初はうまく行かないさ。恵は学校でも最初からうまく行っていたか? 努力したんじゃないのか?」
「それはそうだけど。他の人はうまく行っているの。きちんとお仕事できているの」
「仕事?」
 イズのその言葉に、恵は慌てた。
「あ、えっと、そう。仕事してて、人探しがその一環なの」
「恵」
 イズは立ち止まり、恵の左手を取り、両手でそれを包み込んだ。
「隠し事があるなら、うまく隠さないとダメだよ」
「え……」
「君は素直すぎる」
 そう言ってから、恵の手を離す。
「気をつけるね」
 恵は顔を歪めて笑うようにした。
「あと、街道にはあまりモンスターは出ないけれど、短剣はすぐに出せるところにしまっておきなさい」
「う、うん」
 恵はそう言われて、リュックから短剣を取り出して、腰のベルトに鞘を引っ掛けた。
 二日ほど歩いて、あと一日歩けば村に着くだろうという事になり、二人は今日も野宿をすることにした。
 街道から少し外れた、木が何本か生えている場所にテントを作り、火を焚いた。
 二人は火を囲み座っている。
「あと、二、三日で首都につくな」
「うん。杏奈たち、もう地球にいるかな」
「旅行で金星に来た友人だったか?」
「そうよ。杏奈は、猫耳族で可愛いのよ」
 恵は、ふふふと小さく笑った。
「君は……!」
 イズは急に立ち上がり、剣を手に取った。
「イズ?」
「モンスターの気配だ。恵はここにいてくれ。近くを見てくるよ」
「え、でも……」
 イズは恵の言葉を聞く前に、モンスターの気配がする方へ駆けて行った。
「私って、足手まといなのかな」
 恵はそう呟いてから、拳をぎゅっと握って、短剣を手に取り、立ち上がる。
 イズが向かったであろう場所へと小走りで向かった。
 少し行くと、イズが十数体のモンスターに囲まれていた。
 半透明で、顔よりも大きな水の塊のようなモンスターだ。
「恵! なんで来た」
「私も役に立ちたい!」
 恵は短剣を取り出し、モンスターに向かっていった。
「恵! そのモンスターは!」
 恵とモンスターの間にイズが割って入った。モンスターが粘液を吐き出し、イズにふりかかる。
 じゅわっと、焼けるような音がした。
 イズの左腕の服と皮膚が溶ける。
「イズ!」
「このモンスターは酸を吐くし、体自体も酸でできてる」
 イズは、モンスターを蹴り上げて、引き離す。
「僕たちでは対処できない。荷物を持って、逃げよう」
「イズ……」
 恵は自分が役に立てないままは嫌だと感じた。
「変則!」
 恵は両手を前に突き出して、そう言った。
 その瞬間、モンスターたちはぶくぶくと泡立ち、蒸発し始めた。
「恵、君は」
 恵は名前を呼ばれて、ハッとした。
 しまったと感じた。
「不思議な力を持っているんだね」
「うん」
「それを僕以外の人の前では使ってはダメだよ」
 緑色の瞳が恵を捉える。恵もゆっくりとイズの瞳を見つめた。
 その間に、モンスターは跡形もなく消えてしまった。
「うん。秘密にしてくれる?」
「もちろんだよ」
 恵は、その言葉に嬉しそうに笑った。

「私の力がどういうものか聞かないの?」
「恵が話したくないなら、聞かないよ」
 イズはそう言って、恵の手に触れた。
 二人は野宿しているテントに戻り、焚き火を囲み座っている。
「僕にも話せないことがあるからね」
「そっか。なんで地球に行きたいかは秘密なんだっけ」
「君には極力嘘を吐きたくないからね。ごめん」
「ううん。いいの。本当のことは話せなくても大丈夫。嘘ばかり吐かれるよりいいもの」
「そうだね。さあ、そろそろ寝よう」
 そう言って、イズは見張りをし、恵は寝ることにした。交代で見張りをするのだ。

 焚き火を見ながら、イズは呟いた。
「恵ちゃん……やっぱり見にきて良かったな」
 周りを見渡し、恵が寝ているのを確認する。
 恵は寝息を立てて、熟睡していた。
 イズはポケットから、恵が持っていた機械と同じものを取り出す。色は銀色だが。
 蓋を開くと、同じように画面がある。
「アイズ様ー! どこ行ってんですか! スカポンタン!」
 画面の中にいる男が叫んだ。
「あまり大きい声を出すな」
「職務放棄ですよ」
「知らん。当分、連絡してくるな」
 イズはアイズと呼ばれ、恵と喋る時とは違う口調になっていた。
「どこにいるんですか?」
「恵ちゃんのところだ」
「げー! またストーカーですかー!」
「ストーカーではない。危険が起きないように見張っているだけだ。そばで」
「げっ。一緒にいるのかよ。マジで、恵さんのことになると、見境ねえな」
「うるさい。それで、何かあったから連絡を寄越したんだろ」
「あー。実はトーマさんの野郎とダイさんが……」
 イズ……アイズは画面の男と何十分か話し込むことになった。
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