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サセックスの神童
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甲高い金属が激しくぶつかり合う音が、唯一つ響く。
音の源に在るは、鍔迫り合う二人の剣士。
他方、その剣を受け止めた側の女は焦燥を浮かべ、
他方、打ち込んだ男の表情は満面の――ドヤ顔である。
(速い。そして重い……)
レベッカは思う。
彼女は少し、面食らった様子。
先程、受け止めたばかりの理解不能な斬撃。
それを放った少年は歩き始めると突然、予測を遥に超える速度で加速をして斬りかかってきた。
レベッカはその動きに何とか反応できただけだった。
その場にいた、兵達の中には、その動きをその目で捉えたものはいただろう。
だが、しかし——
その動きを正確に理解できたものは誰一人としていなかった。
「一体なんじゃ……今の動きは……」
長い髪を後ろで束ねた初老の男が低く呟いた。
彼の名は、ガストン――幼いころのレベッカに剣を教え、今もなお純粋な剣術では彼女を上回る武人。
広い世界を知り、あらゆる武術に通じた男。
しかし、そんな彼であっても、レクスの動きを理解する事は困難であった。
その意味不明な加速と、斬撃――。
「小僧に何が起きた……それとも、あれが噂に聞くサセックス家の神童だというか……ッ!?」
そう言って叫ばずにはいられなかった。
「……一体、何があったんだお前に」
レベッカが問う。
意表を突かれたのまた事実。
しかし、先の一太刀は単に奇をてらっただけの動きではない。
そこには彼女の知らぬ術理が潜んでいる事を彼女は感じ取っていた。
「言っただろう。最早、俺ぐらいになると“一晩で劇的に成長する”ってな」
「……ちっ、わけの分からないことを」
舌打ちが返る。
「なら、分からせてやる。――俺に惚れるなよ、はッ!」
「抜かせ――ッ!」
その発言の真意は分からない。
しかし、言っている事を頭ごなしに否定する事は出来なかった。
剣戟を重ねて行くうちにわかる、まるで別人のような太刀筋。
本当に別人を相手にしているような感覚に晒されていく。
重なっていく剣戟。
訓練場に金属を擦り合わせるような音が続く。
――結合する。
間合いを詰めるために使ったのは、古武術の体術固有の体捌き――縮地と呼ばれる技術だった。
重心の移動で初速を引き出し、一歩を異様に伸ばす歩法。
この世界に存在しない、理の組み替え。
「やれるじゃないか――ッ! 俺は自分の才能が怖いぞ、はははッ!」
煽りながら、最小限の動きで剣を見切り、払う。
頭の中で、点と点が線になる感覚が走る。
レクス・サセックスの身体と、鈴木守の技術が結合する、そんな感覚。
「気持ち悪い動きをするんじゃないよ……ッ!」
「気持ち悪くなんかない! ――格好いいだろうがッ!」
昨日はついていくのが精一杯だった。
一方的に押された相手に、今は互角以上。
――すごい身体だな。
前の肉体――衰えを意識し始めていた身体とは段違いだった。
目は恐ろしい程によく見え、耳はよく聞こえ、
全身の皮膚が、大気の振動さえ感じとっているような気さえした。
――前の体より、ずっとな。
高揚する意識。反応は速く、出力は強く、動きはしなやか。
作中最強とされたのはレベッカだが、最強の人間性能の持ち主が誰かはまた別の話。
サセックス家の最高傑作と呼ばれ、ラスボス救世主の器にさえ選ばれた、レクス・サセックスの身体能力はレベッカさえ容易く凌駕する。
対して、鈴木守という人間は生まれつき特段優れた身体能力を有していたわけではない。
しかし、彼は幼い頃から自分の体を、効率よく動かす様に工夫する事により、他者より優れた能力を発揮できると知っていた。
自由自在に自らの身体を操作する能力。
常に目指していたのは、動作の最適化。
そんな彼が学んでいた技術は古武術といわれる、彼の生まれた東洋の国でも廃れ始めていた技術だった。
その基本概念は、身体の最小限の力で最大の効力を発揮させると言うもの。
徹底した動作の合理性を追求するが故に、古武術の達人は、例え身体能力が衰えた老人であろうとも、化け物じみた強さを持ってたとされている。
正に、弱者が強者に勝つために磨き上げた技術。
徹底した身体操作能力と、身体能力に頼らない、合理的、効率的な動作の習得、これにより、ただの人間が超人のような結果を生み出した。
――この身体なら……
鈴木守の知識と技術が、レクス・サセックスに連結していく。
絶対的強者の肉体に――弱者が強者に勝つために磨き上げた技術が連結していく。
剣光が幾度も交差する。
外から見れば拮抗。
だが、次第にレベッカの間合いが後ろに押され始め、ざわめきが広がる。
「……なぁ、姐さん、押されてないか?」
「そんなわけ――ッ!」
「いや、確かに……なんでだ?」
「あのガキに一体何が――!」
観客の動揺は、自己顕示欲の強い男に甘い蜜のように沁みる。
――見てる、皆が、俺を見てる。超——見てる。
対照的に、傭兵団を率いる長の胸中には焦りの火が灯る。
(この私が……押されている?)
昨日、確かにレベッカのレクスの身体能力は脅威だった。
だが、その動きには強引さと荒さを感じた。
彼は、身体能力に頼りきり、技術を磨くことをしなかったのだろう。
そして、何より彼女は公爵ハロルドと手合わせしたことあるレベッカは、サセックスの剣を知っていた。
いくら相手が身体能力に優れていようが、いくら、相手が、強力な技術を用いようが、予測できれば、その攻撃を躱すのも打ち負かすのも容易だった。
それを、知っている――からだ。
だが―― だが――
(何だい、こいつの動きは……!)
レクスの動きの中に、彼女の知識にない一手が混じる。
その瞬間だけ、レベッカの対応が遅れる。
その動きを完全に知らないからだ。
そして、完全に次の一手が読めない。
反射で追いついてはいるが、リズムは乱れ、彼女のペースが崩れる。
「こうか――ッ!」
目の前の少年は一度、剣を鞘口に添え、流れを作る。水が落ちるように力が通り、踏み込みが伸びる。
(……まさか、試しているのか? この状況で――!)
レベッカは狙いを予測する。
彼は何かを試行錯誤をしているようも見えた。
そこに彼の工夫を感じ取る。
まるで、二つの技術を融合させ、新しい何かに生まれ変わらせようと試行錯誤している、そんな工夫を。
それは、身体能力に頼り切った、昨日の彼とは全く違う試み。
「どうした? まさか、こんなものだったか?」
「調子に乗るなよ、このクソガキがッ!」
苛立ちが混ざった声。冷静さが削れていく。
昨日は感じなかった圧が、彼女の肩にのしかかる。
(本当に――たった一晩で……いや、今も……!)
加速度的に見せる成長。
だが、レベッカは信じていた。
強さは日々の積み重ねの果実だ、と。だが、その信念に楔を打ち込む存在――
「は——ッ! これが今の俺か——!」
レクス・サセックスという存在。
その自嘲にも陶酔にも聞こえる声がレベッカを苛立たせる。
(なぜ、あんな動きができる……)
今も目の前の少年は、剣を鞘に戻し何かを狙っている。
流れる水のような力強く流れる力の動き。
その動きをすると、彼の動きは速くそして力強い。
それはレベッカの期待値を遥かに超える。
(まさか……自分で思いついたっていうのか?)
レクスを天才サマと皮肉るレベッカであったが。彼女も、また幼少期から天才の名を恣に生きてきた側の人間だった。
他と競り負けた事はなど、記憶には無い。
しかし、レベッカ本人は自分を天才だと思いたくはなかった。
才能が無かったとは思わない。だが、努力を怠った事もない。
たゆまぬ努力の末に彼女は強さを手に入れていた。
だからこそ、自分を天才だと認めるのは嫌だった。
まるで自分の積み重ねてきた努力を否定する様な気がして。
しかし、目の前にいる少年は、常人には理解できない速さで成長し——。
常人が、思い付かない様な事を容易く思いつく——。
そんな存在を人は何と呼ぶだろうか。
「認めたくはないが、あいつは本物の…天才……と言うやつか」
レベッカは苦々しくそう呟いた。
音の源に在るは、鍔迫り合う二人の剣士。
他方、その剣を受け止めた側の女は焦燥を浮かべ、
他方、打ち込んだ男の表情は満面の――ドヤ顔である。
(速い。そして重い……)
レベッカは思う。
彼女は少し、面食らった様子。
先程、受け止めたばかりの理解不能な斬撃。
それを放った少年は歩き始めると突然、予測を遥に超える速度で加速をして斬りかかってきた。
レベッカはその動きに何とか反応できただけだった。
その場にいた、兵達の中には、その動きをその目で捉えたものはいただろう。
だが、しかし——
その動きを正確に理解できたものは誰一人としていなかった。
「一体なんじゃ……今の動きは……」
長い髪を後ろで束ねた初老の男が低く呟いた。
彼の名は、ガストン――幼いころのレベッカに剣を教え、今もなお純粋な剣術では彼女を上回る武人。
広い世界を知り、あらゆる武術に通じた男。
しかし、そんな彼であっても、レクスの動きを理解する事は困難であった。
その意味不明な加速と、斬撃――。
「小僧に何が起きた……それとも、あれが噂に聞くサセックス家の神童だというか……ッ!?」
そう言って叫ばずにはいられなかった。
「……一体、何があったんだお前に」
レベッカが問う。
意表を突かれたのまた事実。
しかし、先の一太刀は単に奇をてらっただけの動きではない。
そこには彼女の知らぬ術理が潜んでいる事を彼女は感じ取っていた。
「言っただろう。最早、俺ぐらいになると“一晩で劇的に成長する”ってな」
「……ちっ、わけの分からないことを」
舌打ちが返る。
「なら、分からせてやる。――俺に惚れるなよ、はッ!」
「抜かせ――ッ!」
その発言の真意は分からない。
しかし、言っている事を頭ごなしに否定する事は出来なかった。
剣戟を重ねて行くうちにわかる、まるで別人のような太刀筋。
本当に別人を相手にしているような感覚に晒されていく。
重なっていく剣戟。
訓練場に金属を擦り合わせるような音が続く。
――結合する。
間合いを詰めるために使ったのは、古武術の体術固有の体捌き――縮地と呼ばれる技術だった。
重心の移動で初速を引き出し、一歩を異様に伸ばす歩法。
この世界に存在しない、理の組み替え。
「やれるじゃないか――ッ! 俺は自分の才能が怖いぞ、はははッ!」
煽りながら、最小限の動きで剣を見切り、払う。
頭の中で、点と点が線になる感覚が走る。
レクス・サセックスの身体と、鈴木守の技術が結合する、そんな感覚。
「気持ち悪い動きをするんじゃないよ……ッ!」
「気持ち悪くなんかない! ――格好いいだろうがッ!」
昨日はついていくのが精一杯だった。
一方的に押された相手に、今は互角以上。
――すごい身体だな。
前の肉体――衰えを意識し始めていた身体とは段違いだった。
目は恐ろしい程によく見え、耳はよく聞こえ、
全身の皮膚が、大気の振動さえ感じとっているような気さえした。
――前の体より、ずっとな。
高揚する意識。反応は速く、出力は強く、動きはしなやか。
作中最強とされたのはレベッカだが、最強の人間性能の持ち主が誰かはまた別の話。
サセックス家の最高傑作と呼ばれ、ラスボス救世主の器にさえ選ばれた、レクス・サセックスの身体能力はレベッカさえ容易く凌駕する。
対して、鈴木守という人間は生まれつき特段優れた身体能力を有していたわけではない。
しかし、彼は幼い頃から自分の体を、効率よく動かす様に工夫する事により、他者より優れた能力を発揮できると知っていた。
自由自在に自らの身体を操作する能力。
常に目指していたのは、動作の最適化。
そんな彼が学んでいた技術は古武術といわれる、彼の生まれた東洋の国でも廃れ始めていた技術だった。
その基本概念は、身体の最小限の力で最大の効力を発揮させると言うもの。
徹底した動作の合理性を追求するが故に、古武術の達人は、例え身体能力が衰えた老人であろうとも、化け物じみた強さを持ってたとされている。
正に、弱者が強者に勝つために磨き上げた技術。
徹底した身体操作能力と、身体能力に頼らない、合理的、効率的な動作の習得、これにより、ただの人間が超人のような結果を生み出した。
――この身体なら……
鈴木守の知識と技術が、レクス・サセックスに連結していく。
絶対的強者の肉体に――弱者が強者に勝つために磨き上げた技術が連結していく。
剣光が幾度も交差する。
外から見れば拮抗。
だが、次第にレベッカの間合いが後ろに押され始め、ざわめきが広がる。
「……なぁ、姐さん、押されてないか?」
「そんなわけ――ッ!」
「いや、確かに……なんでだ?」
「あのガキに一体何が――!」
観客の動揺は、自己顕示欲の強い男に甘い蜜のように沁みる。
――見てる、皆が、俺を見てる。超——見てる。
対照的に、傭兵団を率いる長の胸中には焦りの火が灯る。
(この私が……押されている?)
昨日、確かにレベッカのレクスの身体能力は脅威だった。
だが、その動きには強引さと荒さを感じた。
彼は、身体能力に頼りきり、技術を磨くことをしなかったのだろう。
そして、何より彼女は公爵ハロルドと手合わせしたことあるレベッカは、サセックスの剣を知っていた。
いくら相手が身体能力に優れていようが、いくら、相手が、強力な技術を用いようが、予測できれば、その攻撃を躱すのも打ち負かすのも容易だった。
それを、知っている――からだ。
だが―― だが――
(何だい、こいつの動きは……!)
レクスの動きの中に、彼女の知識にない一手が混じる。
その瞬間だけ、レベッカの対応が遅れる。
その動きを完全に知らないからだ。
そして、完全に次の一手が読めない。
反射で追いついてはいるが、リズムは乱れ、彼女のペースが崩れる。
「こうか――ッ!」
目の前の少年は一度、剣を鞘口に添え、流れを作る。水が落ちるように力が通り、踏み込みが伸びる。
(……まさか、試しているのか? この状況で――!)
レベッカは狙いを予測する。
彼は何かを試行錯誤をしているようも見えた。
そこに彼の工夫を感じ取る。
まるで、二つの技術を融合させ、新しい何かに生まれ変わらせようと試行錯誤している、そんな工夫を。
それは、身体能力に頼り切った、昨日の彼とは全く違う試み。
「どうした? まさか、こんなものだったか?」
「調子に乗るなよ、このクソガキがッ!」
苛立ちが混ざった声。冷静さが削れていく。
昨日は感じなかった圧が、彼女の肩にのしかかる。
(本当に――たった一晩で……いや、今も……!)
加速度的に見せる成長。
だが、レベッカは信じていた。
強さは日々の積み重ねの果実だ、と。だが、その信念に楔を打ち込む存在――
「は——ッ! これが今の俺か——!」
レクス・サセックスという存在。
その自嘲にも陶酔にも聞こえる声がレベッカを苛立たせる。
(なぜ、あんな動きができる……)
今も目の前の少年は、剣を鞘に戻し何かを狙っている。
流れる水のような力強く流れる力の動き。
その動きをすると、彼の動きは速くそして力強い。
それはレベッカの期待値を遥かに超える。
(まさか……自分で思いついたっていうのか?)
レクスを天才サマと皮肉るレベッカであったが。彼女も、また幼少期から天才の名を恣に生きてきた側の人間だった。
他と競り負けた事はなど、記憶には無い。
しかし、レベッカ本人は自分を天才だと思いたくはなかった。
才能が無かったとは思わない。だが、努力を怠った事もない。
たゆまぬ努力の末に彼女は強さを手に入れていた。
だからこそ、自分を天才だと認めるのは嫌だった。
まるで自分の積み重ねてきた努力を否定する様な気がして。
しかし、目の前にいる少年は、常人には理解できない速さで成長し——。
常人が、思い付かない様な事を容易く思いつく——。
そんな存在を人は何と呼ぶだろうか。
「認めたくはないが、あいつは本物の…天才……と言うやつか」
レベッカは苦々しくそう呟いた。
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