悪役転生〜主人公に全てを奪われて追放される踏み台悪役貴族に転生した〜

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この世界の主人公

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「お兄さん迷子?」

 問いかける褐色の肌をした少女。

――こいつは……。

 思わず目を見開いた。
 俺はこの少女を知っている。

「何……?」

 不思議そうに首をかしげる褐色の肌の少女。
 俺は、大分板についてきた役に入る。

「いや、実はそうなんだ。父に連れてきてもらったんだけど、迷っちゃってね。どっちに行けばいいかもわからなくて。困っていたんだ」
「へぇ。この街は迷いやすいからね。そういう人、よく見るよ」
「やっぱり? 初めての街は難しいね」
「ふふ、大変だね。じゃあ私が表通りまで連れていってあげようか?」
「助かるよ。ところで、君の名前は?」
「私? 私はサーシャだよ」
「……やっぱり、そうなんだな」
「え?」
「いや、なんでもないよ。私はディミトリウスという名前だよ」

 笑ってごまかし、偽名を名乗り。彼女の案内で歩き出す。
 彼女は身なりこそ粗末だが、整った顔立ちをしている。

 大きなパチリとした瞳が特徴的な庇護欲を唆りそうな容姿。

——間違いない。あのサーシャだ。

 画面越しに見た顔。
 しかし、見知った彼女の姿からは少し小柄に見えた。
 小柄なだけではなく、少し細過ぎるように見える体つき、髪には色艶も見えない。

 栄養状態が良くないのは明白だ。
 その声は少し掠れていた。
 だがその声音は妙に柔らかく、相手を安心させるような丸さを帯びる。

「一人で心細かったでしょ?」
「サーシャがいなかったら大変だったよ。商会のみんなとはぐれちゃってね」
「もう少し頑張って。もうすぐ表通りだよ」
「本当に?……表通りから離れてる気もするけど?」

 軽く探りを入れる。
 もちろん、気づいていた。
 彼女の案内は、表通りなんかではなく奥へ向かってる事に。

「あ、うん。そうだよ……そういえばお兄さんのお父さん達、どこへ行く予定? そこまで連れてってあげようか? その代わり……少しお礼が欲しいな。私、こんな所に住んでいるくらいだから、結構苦労してるんだよ」

 話題をうまく切り替える小さな体に、巧妙な頭脳。
 
「そうだね……いいよ。私の家は結構なお金持ちだからね……ふふ」

 思わず笑みがこぼれた。

「そうなんだ、期待してるよ。ああ、もう少しで表通りだよ」

 サーシャも笑った。

「そうなんだ」
「それで表通りに出たらどうするの? お兄さんのお父さん一緒に探してあげようか?」 
「とりあえず表通りまででいいよ。後は自分で探す。その時に少しばかりはちゃんとお礼もしようじゃないか」

 そう言って腰に付けた布の袋をジャラジャラと揺らす。
 彼女の視線は、袋に釘付けになる。
 まるで猫じゃらしを猫の前で揺らしたみたいに。

 暫く俺たちは和やかな会話をしながら路地裏を進んだ。
 そして、サーシャが言った。

「うん、ありがとう。さぁお兄さん着いたよ」

 立ち止まるが、ここは、明らかに、大通りなどではない。
 少し開けた広間のような場所だった。

――囲まれたな。 

 状況を察した。 
 四方の廃屋の影から、視線が刺さってきた。

「ここ、表通りじゃないよね?」

 サーシャに問いかけるが、

「うん。そうだね。だけど——ここが、お兄さんの終着点ッ!。今だ……みんなツ!」

 そう叫ぶと、サーシャは俺から距離を取る。
 そして——あちこちから溢れ出す魔力。

「「「「大地よ、わが敵を縛る縄と成れ———ッ!」」」」

――これは……。

 まるで合唱するように聞こえる詠唱。

「「「「【大地の拘束アース・バインド——ッ!】」」」」

 その声が消えた瞬間、空気が一変した。
 足元の石畳がわずかに浮き、重力が歪む。
 次の瞬間、土の縄が蛇のように這い出した。
 四肢に絡みつくように足元から這い上がってくる、無数の触手のような縄。
 ギチギチと音がなる。

「……ッ!」

 瞬く間の拘束。
 少しの腕力では、引きちぎれない土の縄が体に巻きつき身動きが取れない。
 
「やぁやぁ、皆、上出来だよ。久々の大物だ、今夜はご馳走だよ——ッ!」

 豹変した声でサーシャが大笑いしながら手を叩く。

「やったねサーシャッ!」
「この人……お金持ち?」

 その合図を受けたように、貧しい身なりの子どもたちが影から現れた。
 その身なりはとても貧相だ。

「……やられたよ。こういう作戦か」

 一人一人は幼くとても弱い。
 だが、有利な場所に獲物を誘い込み、複数人で仕留める。
 弱者が生きるために積み上げた工夫。

 そう、サーシャは俺をここに連れ込んで嵌めたのだ。

「悪いね。私たちも生きるのに必死なんだよ。何の苦労も知らないお兄さんみたいな人には、わからないだろうけどさ」

 サーシャは黒い笑みを浮かべる。

「お前がこの子らのリーダー。そして、俺はまんまとつかまってしまった可哀想な獲物。全てお前の計算通りということか……」
「まぁ、そういうこと……ッ! まぁ、お兄さんの命まで取らないから安心して——」

 喜色を浮かべたその顔で、金貨の袋に手を伸ばした瞬間。

「はははッ! 素晴らしいぞ、サーシャよ!」

 思わず吹き出すように笑った。

「な、何……! 一体——(この人、感じが変わった……—ッ!?)」
「お前は、合格だ……ッ!」

 全身の魔力を流し込み土の縄を灰燼に帰す。
 大抵の魔術は術者の力量が違えば、魔力だけで無力化できる。
 全身の拘束を解くと、自由になった手足で、

「なんで——ッ!」

 驚愕を浮かべるサーシャとの間合いを詰め、彼女を地へ伏せさせる。

「——うッ!」

 間髪入れず、うめき声をあげる彼女の背後から腕を極める。

「いいか、拘束魔術というのはこういう風にかけるのだ」
 
 超多重の拘束魔術で全身を拘束する。
 彼女は芋虫みたいに地面に転がっていた。

「「「「「「サーシャッ!」」」」」」

 周りの少年少女達が悲鳴を上げ、名前を呼ぶ。

「捕まえた……。捕まえたぞ。ふふ……あはははッ!」

 歓喜の高笑いを上げる俺を前に、

「み、みんな……逃げろ! や、ばい……ッ!」

 蒼白に染まった表情で叫ぶサーシャ。

「ど、どうする……?」
「サーシャッ!」
「た、助けないと……」
「いいから……逃げて、私なら大丈夫だから……ッ!」

 絞り出すように言うサーシャ。

「なぁ、お前達も俺の下に来る気は無いか……ッ!? 特別に合格にしてやるぞ」
「あの人怖い……」
「どうしようッ!!」
「ヤバイよッ! アイツッ!」

 だが、周りからの反応は悪い。

 ――俺のようなイケメンに怯えるとは……。

「だ、大丈夫……。後から……後から……追いかけるから……絶対に追いかけるから……」

 絞り出すような声のサーシャ。

「……行こう……」
「嫌だよ……。サーシャを置いていくなんて……」
「で、でも……うん……そうだね……」

 僅かな、逡巡の後に少年少女たちは逃げ出す。
 とても、思い切りが良かった。
 仲間が捕まる事を事前に想定しておいたのだろう。

「絶対に、絶対に帰ってきてよねサーシャッ! 待ってるから!」

 そう言って最後まで残っていた、少女が逃げ出す。

「……」
 
 その声にサーシャは応えない。
 四方八方に散り散りに足音が遠ざかっていった。

 静寂。路地に俺と彼女だけが残る。

「二人だけになってしまった」
「そうだね……。ヘマしたな。騙されちゃったよ。何? お兄さん猫被ってた訳?」
「それはお互い様だろ、サーシャ」

 俺は彼女に笑いかける。

「……そうだね。でも、それでどうするの? 私を殺すの? それとも、お金? 見てわかるでしょ? お金なんて持ってないよ? それとも体が目当て?(その笑顔、恐いよ)」
「殺す? 冗談だろ。やっと捕まえた俺の獲物だ。金も要らん。腐るほどあるからな。では体か? 体と言えば体だな。俺を襲ったツケ……先ずは、その体で払ってもらう事にしよう」
「私なんかの、貧相な体がいいの?」
「そうだなお前がいい、俺はお前が欲しい……ふふ」

 そうサーシャの耳元で甘く囁く。

「ふーん、私が欲しいんだ? じゃあ具体的にどうして欲しいの?(この人あれだ、少女趣味《ロリコン》っていう奴だ……。聞いたことある……ッ!)」
「ここではな、まずは、二人きりでゆっくり話したい。まずは、お前をどこか静かなところへ連れて行く……」
「へ、へぇー。そうなんだ……た、楽しみだなぁ(——何とかして、逃げないと、考えろ、考えろッ!——)」

 サーシャは引きつる顔で必死に軽口を叩きながら、如何にしてこの状況から逃げ出すのか考えていた。
 だが、拘束魔術を掛けられている上に、上から組み伏せられている。
 抜け出しようがない。

「……そうだな、あそこが良いな。ここから距離も近い……」
「へぇ、近いんだ」
「ああ。いい場所だぞサーシャ」
「た、楽しみだなぁ……」

 サーシャは必死に考え、この状況を脱するために思考する。

 その時、突然――。

「その子を放せッ!」

 と正義感に満ちあふれた少年の声が、路地裏に響いた。

――まさか……。

 その声を知っていた。
 忘れもしない。
 その声は、かつて、幼きに日に幾度もなく耳にした声。
 そして、レクス・サセックスという存在が決して無視できない声。
 この世界で、自分の存在を唯一脅かす可能性のある人物の声。

「もう一度言う、その子を離すんだ――ッ!」

 振り返ると、そこには燃えるような赤い髪をした少年がいた。
 その少年の瞳は、正義感を湛えた、どこまでも透き通るような大海を思わせる碧眼エメラルド・グリーン
 その少年の端正な顔は、幾度となく見た、まさしくその顔あった。

 ――こんなところで会う事になるとは……。

 その少年の名を呟く、

「ローラン」

 この世界の主人公と言える人物のその御名を――。
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