悪役転生〜主人公に全てを奪われて追放される踏み台悪役貴族に転生した〜

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始まりの街

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 達心理学という学問によると、人間の性格や嗜好は、幼少期の経験に強く左右されるらしい。

 つまり——チャーミングでプリティーだったお子様時代の俺が、珍しく夢中になった【ブレイヴ・ヒストリア】というゲームは、その後の俺の「ハイセンスな感性」に少なからず、影響を与えた、というわけだ。 
 なぜ、突然こんな話を始めたのかというと、それは、今の俺の目の前に広がっている光景に起因していた。

「……しかし、本当にゲームの世界なんだな」

 思わずそう呟いた。
 俺は所謂、始まりの街〈神託の街・(オラクルタウン)〉の石畳を踏みしめていた。

 ローランの冒険が始まり、ヒロインや仲間達と出会う最初の街。

 始まりの街と呼ばれるだけあって、どんなプレイヤーの記憶にも残る象徴的な場所だ。
 ここは、かつて画面越しに見ていた景色と寸分違わない。

 露店の喧噪、香辛料の匂い、馬車の車輪の軋み。

 【ブレイヴ・ヒストリア】を俺が実際にプレイしたのは遙昔のように思えた。
 だが、あの頃、鈴木守としてゲームを遊んでいた幼少期の記憶が、ありありと蘇る。

 レクス・サセックスとしては馴染み深い公爵邸だが、ゲーム内ではほとんど描写されていなかったが、
 この街はストーリー序盤から登場し重要なイベントも頻発する。

「まさか、この街を自分の足で歩く日が来るとはな」

 オラクルタウンは、ローランとアリシアの故郷・ククル村から馬車で半日ほどの距離にある。
 大都市ではないが、そこそこの規模を誇る中堅都市だ。
 通りには露店が立ち並び、冒険者ギルドや宿屋、鍛冶屋が肩を並べている。
 冒険者たちがクエストの成果を語り合う声があちこちから聞こえた。

「ここは……あの冒険者ギルドか」

 視線の先には、ゲームでも何度も訪れた二階建ての石造りの建物が見えた。
 ローランが冒険者登録を行うのも、まさにここだった。
 思わず足を止め、懐かしさが胸をよぎる。
 いっそ中に入ってみたくなったが、踵を返す。
 今日の俺の目的は違うのだ。


 表通りを外れ、薄暗い路地へと足を踏み入れた。
 石畳はひび割れ、建物の壁は苔むしている。
 用水路の水音がかすかに響き、遠くで野良犬が吠えた。
 通りの喧噪はすっかり遠のいていた。

「うむ……この雰囲気。治安の悪さ。実に出そうだな」

 スラム街の入り口、こういう場所には必ず一匹はいる。
 作戦を試すには丁度いい。
 
 ゲームでも現実でも、人間の欲望は同じだ。
 金、力、支配、快楽。
 それを道徳という仮面で隠すのか、否か、それだけの違いに過ぎない。
 だからこそ、こういう場所では獲物がよく釣れる。

「おい、そこの兄ちゃん。迷子か?」

 大柄な男。目つきが悪い。ナイフの柄に指をかけている。

「……ああ、実はそうなんだ」

 俺はわざと怯えたような声で返した。
 なんというテンプレートのような絡み方だ。

「そうかい。じゃあ悪いが、その腰の袋、置いてってくれ。痛い目に遭いたくねぇだろ?」

 脅す声にナイフがちらりと光る。
 男の動きには素人特有の雑さが目立つ。
 俺は腰の金袋を指さした。

「こ、これか? 父に頼まれて買い付けに行く途中なんだ」
「へぇ……なら丁度いい。命までは取らねぇ。置いてけ」

 男がにじり寄ってくる。
 その動きに迷いがある。肘が上がりすぎてる。

「じゃあ、力づくでもらうとするぜ!」

 ナイフが振り上げられた瞬間、俺の手が動いた。
 掌底を突き上げる。
 鈍い音と共に、男の体が地面に沈む。

「お前は外れだ。15点だ」

 気絶した男を見下ろしながら、呟く。

「犯行に美学がない。工夫もない。体術の心得もない。凡庸だ。何よりオリジナリティがない」

 ポケットを探ると、それなりの金が出てきた。

「……とはいえ、意外と稼いでるな。巻き上げた金か」

 金を自分の袋に入れながら、肩をすくめた。

 今日、ここに来たのはただの散歩ではない。
 俺はここに釣りをしにきたのだ。
 今は、人手が欲しかった。
 自分を餌にして引っかかった獲物の中から優秀な人材をスカウトしようと考えたのだ。
 仕立てのいい服を着て、丸腰で歩き、金の入ったジャラジャラと音の鳴る袋を見せびらかす。
 俺なりの採用試験のようなものだ。

 それから半日。

「お前も外れだな」
「外れ」
「また外れ……!」
「………」
「外れだな……」
「……」
「何ということか……ッ! 外れ……ッ!」 
「……」

 何人も試したが、どいつも使い物にならなかった。

——やれやれ……この街には、本当にマシな奴がいないのか。アマチュアばかりではないか。

 夕方の陽が路地の奥まで差し込む。
 そろそろ帰ろうかと思った、そのときだった。

「お兄さん、もしかして迷子?」

 その声に振り向く。
 褐色の肌に銀髪。年の頃は十三、十四。
 陽の光を受けて、褐色の肌と銀髪が煌めいた。

――こいつは……。

 俺は目を見開いた。
 この顔を知っている。
 ゲームの中で、何度も見た少女。
 運命の歯車が、静かに音を立てて動き始めた気がした。
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