悪役転生〜主人公に全てを奪われて追放される踏み台悪役貴族に転生した〜

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正義という名の自己陶酔

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 部屋に乗り込むと、室中の状況は想定していた通りだった。
 手足を縛られ服を破かれた少女に、盗賊と思わしき男がのしかかっている、まさに間一髪――。

「大丈夫かッ!?」
「………んッ!」

 猿ぐつわを噛まされ喋れない少女が頷いて答える。
 その髪は乱れてこそそいるが、美しい青みがかったプラチナブロンドで、その瞳は涙に溢れているが、美しいアイスブルーをしている。

――やはり、アリシアか。

 ゲームのグラフィックでは何度も見た姿、彼女はアリシアで間違いないだろう。
 彼女の服はビリビリに破かれ、下着姿で、その肢体を曝け出してはいるが、乱暴された形跡はない、貞操は無事だろう。

――完璧なタイミング……というやつだ。

 俺の思い描いた通りの状況シチュエーション
ヒーローの登場は遅すぎても早ぎてもいけない。
 遅すぎればヒロインは無惨な姿となり、早すぎればヒーローは引き立たない。

――そう、完璧なタイミングこそがヒーローをヒーローたらしめるのだ。

「だ、だれぇだ? おめぇ?」 

 男が問いかける。

「俺か? 俺はそうだな……」

 俺は考えるようなをする。
 この時のセリフは事前リハの段階で決めていた、演出だ。
 間一髪のタイミングで事態に介入できたのは良いが、まだ終わりではない。

「……俺は……正義の味方だ……ッ!」

 決まった。
 最高に決まった。
 俺は、俺の格好良さに痺れてしまった

「「………」」

 目の前の二人は静まり返った。
 男はアリシアを襲う手を止め俺を見ている。
 アリシアも俺を見ている。 
 二人も痺れてしまったのだろう。

「……せ、正義のみ、味方だぁ?(なんだ? 変なやつだなぁ)」
「……ん?! んー! んーッ!(よく分からないけど、助けてくださいッ!)」
「そうだともッ! 俺は、正義の味方だ……ッ!」

 俺は、再びの決め台詞を決める。

「……お、お前ぇ……なんでこんなところにいんだ?」
「ふっ、そんなの決まっているだろう。それは……ッ! その女を助ける為だ」

 前髪をかき分け用意していた台本通りのセリフを吐く。

「はぁ……?」
「ん?」
「はぁ? ではない……ッ! 俺は、その女を放せと言ったんだ……ッ!」

 俺は、俺の中の不思議な感情の昂りを感じた。

 ――ふふ、悪くない、悪くないぞ。このシチュエーションッ!

 まるで、子供の頃に見たヒーローにでもなった気分だった。
 攫われ、陵辱される寸前の美少女。
 絵に描いたような盗賊の男。
 そして最高に輝いている俺。

「な、なんでだぁ? お、俺が見つけてぇ、つ、捕まえたんだぁ。ほ、本当はぁ……、こ、この女は俺の女なんだぁ」
「何? ……捕まえただと? お前、人を……、女を何だと思っているッ!」

 怒りの形相を浮かべ男を糾弾する。
 だが、俺は盗賊の男に対して嫌悪感は抱いていなかった。

「お前ぇ、変な奴だなぁ。なんでぇ、俺がお前ぇのいうこと聞かなきゃぁ、ならねぇんだ?」
「なんでだと? その女が哀れでは無いか……ッ!」
 
 拳を握りしめて男にそう命じる。
 だが、正直に言えば、単なる雑魚だ。
 この男が瞬きをする間に、俺は剣を抜きその首を落とすことが出来るだろう。

 だが、それでは、せっかくここまで頑張ってきた意味が無い。
 待ち時間が長かった分、この状況をもっと楽しみたい。

「ふひッ! ちょっと味見するだけだぁ、こいつはぁ、俺が見つけたんだぁ、だからぁ俺にもぉ、味わう権利ぐらいあるだろぅ?」
「……なんだと……ッ! なんでそんな酷いことができるんだッ!(素晴らしいぞ、俺の引き立て役君よッ!)」
「ふひひ、そ、そんな事なんで、おめぇに言われなきゃ、何ねぇんだ?」
「このゲスがッ!」

 奥歯を噛みしめ、怒りの形相を深めていく、をする。
 だが、内心では、俺はこの男の醜悪さに狂喜乱舞していた。
 ヒーローが輝く為には、常に悪の存在が必要なのだ。

「んーッ! んー! ん! んッ!(本当に、助けて下さいッ! お願いします……ッ!)」
「くッ!」

 ――すまない、アリシア待っていてくれ。だが、俺はもう少しだけ、ヒーローの自分に酔っていたい……ッ! 

 その瑞々しい素肌を晒しながら、涙を瞳から溢れさせ、必死に視線で訴え掛けるアリシアを見て、少しの罪悪感を感じる。

「待たせて、すまない……。でも大丈夫だ! 待っていろッ! 俺が絶対にお前を助けてやる! 俺を信じろッ!(頼むアリシア。もう少しだけッ! もう少しだけッ! このシチュエーションを楽しませてくれッ!)」
「んんッ!(はいッ!)」

 アリシアは、コクコクと頷く。
 彼女に俺の気持ちはきっと通じたろう。

(——良かった……。助かるかもしれません。この人は、きっと私を助けに来てくれた、優しくて、良い人みたいです——)

 アリシアの心に少しの安堵感と期待が広がる。
 だが、まさかこの状況で自称正義の味方が熱のこもった芝居をしているとは夢にも思わない。

「お、俺は……お、女の扱いがう、うめぇんだ……。こ、この嬢ちゃんだって……」
「んーッ! んーッ!」
「い、嫌がってても。ど、どうせ……、ふひひッ」

 男が笑う。
 下腹部の張りが少し収まってきてはいるが、この男の欲望はまだ吐き出されてはいない。
 そんな盗賊の男から、自らの身を守ろうとする少女。

「やめろッ! その女から離れろッ!」

 二人の前で、自分に酔い芝居を続ける男。
 状況は混迷を極める。

「う、うるせぇガキだな……」

 痺れを切らしたようにいう盗賊の男。

「んーッ! んーッ! んーッ!(そうです、離れてくださいッ!)」
「嫌がる女を無理矢理などとッ!」
「そ、そんなのは。お、俺の勝手だぁ……、じゃ邪魔すんなぁ……ッ!」
「なんだと……!」
「ん…ッ!」
「……」
「…」
「」

 しばらくの間押し問答のようなやり取りが続いた。

「もう、やるしかないのか……?」

 俺は躊躇いがちに腰の剣の鍔に手をかける。
 もう少し場を引き延ばしてこのシチュエーションにも酔ってもいたい。

「おぉう? やるのかぁ?」
「……脅しではないぞ?」
「ひひッ そんな細い腕で剣なんかふれんかぁ?」
「……ッ! いいのか? 本当にその女を放す気はないのだな?」

 ――この男。俺の細マッチョボディにケチを。

 俺は、苛立ち思わず剣を抜く。
 
(ああ、お願いします。ああ、どうか……)

 アリシアはそんな二人の様子を祈りながら固唾を飲んで見守っている。

「この俺にぃ、勝てると、思うのぉか?」
「随分、自信があるようだが……俺は強いぞ……? それに、俺は剣を持っている、お前はその腰に付けたナイフのみ」
「か、関係ねぇ……ッ! お、俺の方がおめぇより、ずぅーとでけぇ、力も俺の方がつぇえぞッ!!」
「最後だ……本当にその女を放す気が無いのなら」
「ほらよぉ、放してやったぜぇ、だけどまたすぐにぃ、お楽しみだぁー、待ってなぁ……ッ! お嬢ちゃん」

 男は、アリシアから少しぎこちなく立ち上がると、彼女から離れると、

「ひひッ! ぶっ殺してやらぁ……」

 腰からナイフを抜き、まさに悪党と言わんばかりに、その刃を舐める。

「……仕方あるまい。この俺が、お前を倒してその女を救う……ッ!」
「じゃ、邪魔すんなよぉ、て、てめぇをぶっ殺してお、お楽しみの、続きだぁあッ!!」

 俺は、剣を構える。
 何故か強い既視感デジャビュを感じながら。
 かつて何処かで似たようなやり取りをした気がする。
 全く違う役回りだった気もしたが。
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