悪役転生〜主人公に全てを奪われて追放される踏み台悪役貴族に転生した〜

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最高のタイミングで現れるヒーロー

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 時は少し遡り、アリシアがちょうどこの盗賊のアジトに運び込まれる直前。
 
 俺は、盗賊のアジトに忍び込んで回っていた。

「……今後の事を考えて、もう何か所か寄っていくか……?」

 既に馬車には金銀財宝が満載されている。

 暫くは本格的には動けない。
 運営資金は全ての俺の懐から出ている。
 家に頼れば資金を調達するのはそれ程難しくは無いだろう。
 だが、まさか盗賊団を運営するから金をくれと言うわけにもいかない。

 そして、何より自らの手でやり遂げることにこそ充実感と達成感がある。
 
 人生とはゲームだ。その過程を楽しむものだ。

 【ブレイヴ・ヒストリア】の世界ではローラン達は、魔物を討伐し素材やアイテムを売ったり、クエストを達成した達成報酬として資金を稼いだりしていた。
 
 だが、俺がそんな地道な方法に頼る訳が無い。
 この世界の盗賊団の大きなアジトの位置は、おおよそ把握できた。

 鈴木守としての知識の中に、ある程度の盗賊の討伐クエストの知識はあった。
 その知識と、地形から盗賊団が根城にしそうな位置は推測できた。

 アジトに乗り込んで壊滅させ根こそぎ奪うのはそれほど難しいとは思わない。
 だが、それでは資金集めには効率が悪い。

 定期的に盗賊のアジトに忍び込んで彼らが集めてきてくれた、金銀財宝を回収した方がより資金集め効率的だろう。

 今日は、最後にこのアジトに忍び込もうと思っていたのだが、そんな俺の目の前に、

「なぁ……その嬢ちゃん、お、俺に運ばせろよ」
「む? 駄目だ……お前手を出すつもりだろう?」
「……ちょ、ちょっと味見するだけだぁ……いいだろぅ?」
「駄目に決まっているだろう……。貴重な青髪、青目の女だぞ……、高く売れるはずだ……まずは、ボスに……」
「……ッチ 俺が見つけたのに」

 そんな事を言いながら二人組の男が、青い髪をした少女を運んでいた。
 俺は思わず息をひそめ物陰に隠れ二人の会話を聞く。

「青髪、青目だと……まさか」

 思わずそう呟く、彼らの話から連想される人物は一人しかいない。

「一応は、魔封じの縄で縛っておくか」
「なんでぇ?」
「……少しは頭を使え。この女は魔術に長けている筈だ」
「で、でもぉ……あんときは、使わなかったじゃあねぇか」
「む、確かに俺もそれが疑問だ」

 ――そんなイベントあっただろうか?

 【ブレイヴ・ヒストリア】の細かい設定まで知り尽くしていたわけではないが作品の大まかな設定やストーリーは把握していた。
 その知識によると、シナリオ上はアリシアの誘拐などというイベントは存在しない筈だ。
 もし、そうなった場合奇跡的に彼女が生還し、再びレクス・サセックスに権力で奪われるというのか?
 だが、現実的に今、目の前でアリシアと思わしき少女が、盗賊のアジトに連れ込まれようとしている。

「……いずれにせよ、アリシアを助け出さなければ……このままでは——」

 彼女はまともな扱いを受ける事はないだろう。
 盗賊達の慰み者にされるか、どこかに売り飛ばされるか——はたまたその両方か。

「だが……助け出すにしても重要なのはタイミングだ」

 そう、人生においてタイミングは非常に重要だ。
 何を、いつ、どこでやるか。
 中でも、いつやるかが最も重要だ。
 同じことをするにも、タイミングが違うだけで結果は大きく変わるものだ。

「焦るな……。焦るな俺」

 俺は気配を殺し、盗賊たちの後を追い再び盗賊のアジトへと忍び込む。


 ここは近隣では最大級の盗賊団のアジトだ。
 木造の砦のような内部は老朽化している。
 歩くと床が音をたてたが、二人の男に気づかれずに尾行する事ができた。

「俺は、この女を縛ってくる」
「ああ、わーたよ」
 
 二階の、一番奥の部屋に一人の男がアリシアを連れ込むのを確認した。
 二人が去った後、俺はその隣の部屋に忍び込んだ。

「しかし、汚い部屋だ……掃除ぐらいしたらどうなのだ」

 部屋に入ると、中には誰も居なかった。
 使われていないのか、部屋は埃まみれで、薄汚れている。

「さてと……アリシアは……」

 ポケットから取り出したハンカチ越しに壁に耳を当て、隣の部屋の状況を確認する。
 壁は薄く、俺の聴力と相まって、音からだけでも内部の状況が把握できそうだ。

 暫くすると、部屋の前を足音が通り、ごそごそと、物音がした。
 どうやら男がアリシアを縛っているようだ。
 抵抗するような音は無い。
 彼女はまだ気を失っているのだろう。

「……しかし、今すぐに助けに行くのもな」

 小声で呟く。
 正直に言って、今すぐに助け出すのは非常に容易い。

「どうせなら、最高のタイミングで助けたいものだ。気を失っている状態ではアリシアは俺の雄姿を拝めないではないか」

――そう、俺のようなイケメンに助け出される。きっとアリシアにとっても、この先、一生残る輝かしい思い出になる事だろう。

「じゃあ、とりあえずは、待つか」

 俺は、アリシアが囚われている隣の部屋で待つことにした。

――しかし、数奇なものだ。

 壁に耳を当てながら思う。
 サーシャやローランと言った物語における主要キャラクター達と何故、この広い世界で鉢合わせするのか、不可解な感覚はある。
 確率的に偶然とは思えない。
 そして、今日この場ではアリシアとまで出会うことになった。

「少し飽きてきたな。まだなのか?」

 壁に耳を当てながら待っていたが、少し退屈を感じた。
 アリシアがいつ目を覚ますか分からない。

「そろそろ、紅茶の時間ティータイムだ。一度、馬車に紅茶道具ティーセットを取りに戻るか? いいや駄目だ……ッ! 戻っている隙にアリシアが目を覚ましたり、彼女が襲われてしまっては元も子もない。紅茶の香りのせいで気づかれてしまうリスクもある……」

 悩む。
 しかし、頭を振り断腸の思いで、今回は紅茶を飲むことを見送る。

「……ッ! 目を覚ましたようだな……」

 そうこうしていると、隣の部屋でアリシアが目を覚ましたようだ。
 ぎちぎちと縄を解こうとしている音が聞こえる。
 だが、彼女の奮闘虚しく、拘束は解けていないようだ。

「待っていろ……アリシア………俺が必ず助けに行く」

 直ぐにとは言わない。
 今は、その時ではない。

「まだだ……待つんだ、俺………最高のタイミングを待つんだ」

 隣の部屋でアリシアも焦っている様だ。
 俺は焦る気持ちを抑える。
 情欲に振り回された、盗賊が彼女を襲う可能性は非常に高い。

 俺は、待つ、待つ、待つ。

「や、やめろッ! その子を離すんだッ! いや……なんか違うな。助けに来たぞッ! アリシアッ! いや……何故、名前を知っているのかに違和感がある……」

 待ちきれずに、一人部屋の中で、練習リハーサルを開始し始める。

 観客は、たった一人なのかもしれない。
 だが、俺は手など抜かない。
 たった、一人の観客を楽しませるために、全力を尽くすのが本物のエンターテイナーではないか。

 そうして、待つ、待つ、待つ……。しかし誰も来ない。

「もう、行ってしまってもいいのではないのだろうか? 目を覚ましてはいるんだよな……だがな……」

 一つの可能性として、このアジトの盗賊はアリシアを襲わない可能性がある。
 少し不安になって床に耳を当てる。

「いいだろぉ……。別にぃ?」
「だめだ、大事な商品だぞ……。しつこいぞ……」
「いやぁ、味見だけだぁ、味見ぃ……。孕ませなきゃいいんだろぅ?」
「ふぅ……仕方のない奴だ……。せめて、ボスに聞いてから……」
「ったく、わーったよぉ、わーったぁ」

 そう言いながら一人の男が渋々と部屋を出た。
 どうやらアリシアの拘束されている部屋に向かうようだ。

 俺は速やかに、床から耳を放し、髪形を手鏡でチェックする。

「うむ、やはり俺は格好良い。頭、ボサボサでも格好良いがな」

 そして、櫛で髪を軽く整え、納得する。

「……通ったな」

 そうしていると、部屋の前を足音が過ぎ、アリシアが拘束されているドアが開かれる音がする。

 アリシアが怯えているのが分かる。
 悲痛な声にもならない、叫び声を上げている。

 男がゲスい発言をしている。
 
 ――さて……ここから先が俺の腕の見せ所……。

 アリシアは抵抗を試みているようだ。

「……決めてやる……」

 最大限の集中力を用いてタイミングを見計らう。

 そして、ビリッ、ビリッと、布が破ける音がした、

 その瞬間——。

 ――今だッ! 今からこのイケメンが助けに行くよ——ォッ!!!

 目にも止まらない速さで部屋を出る。
 だが、髪型が乱れないように、細心の注意は払う。

 高ぶる感情を抑え、隣のアリシアが拘束されている部屋に向かい、練習通りに勢い良くドアを開ける。

「……その女を放せッ!」

 最高のキメ顏を作って、こう叫ぶのだ。
 かくして、俺は、ヒロインのピンチに最高のタイミングで駆け付けるヒーローになる事に成功した。
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