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突きつけられる現実
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「クレアーッ! 誰か倒れてるよッ!」
「こんなところで行き倒れか?」
「分かんないけど、どうするの?」
「ほっとくの?」
「いや……そういうわけにも……」
その声は、地面に倒れて動かないローランの元へ近づいてくる。
「……っていうかこの人、死んでる?」
「分からん、おい生きてるか?」
(……誰?)
ローランは体を揺さぶられるのを感じ意識を取り戻す。
口の中に土の味を感じ、その体は鉛のように重い。
「死んでるの?」
「……いや、息はある」
「う……」
体を起こされローランは思わず呻き声を上げる、
「気が付いたみたい」
「おい、大丈夫か? ってお前……」
「この人……昨日のッ!」
「ああ……おい、大丈夫か?」
問いかけるその声には聞き覚えがあった。
「あなた達は……」
目を開けたローランの前には、昨日の4人組の冒険者パーティーの面々がいた。
空には既に日が高く昇っている。
「起きたな? 昨日ぶりだな」
「え……あ……。はい」
朦朧とする意識の中でローランは応える。
「どうしたんだ? こんなところで。そういえばお前、昨日の青い髪の……」
「……そうだ……アリシア……ッ!」
クレアの言葉を聞き、ローランは飛び起きようとしたが、後先、考えずに全力で走っていたせいか、筋肉痛のような痛みを感じる。
「痛むのか? 今は、まだ動かない方がいいだろう……」
「……でも……行かないと」
剣を杖にしてローランはフラフラと起き上がる。
「おい待てよ」
「急いでいるので……」
そして、おぼつかない足取りで歩き出そうとするが……。
「どこに行くっていうんだ……?」
「どこって……」
「当てはあるのか?」
「……」
思わず立ち止まるローラン。
行く当てなどはない。
闇雲に、走り回ったがアリシアを見つける事は出来なかった。
そして、今は無一文だ。
空腹のせいか頭もくらくらとしている。
「行く当てがないなら……乗っていくか?」
クレアは親指で、彼女達が乗ってきた思われる馬車を指さす。
「………そうします」
ローランは短くそう答えた。
ローランを載せた馬車は走り出した。
それは、帆馬車のような馬車だった。
布地製の屋根が雨風をしのげるようにはできている。
中には木箱が満載されており、何人かが座れる程度のスペースしかない。
「さてと、私はクレアだ。見ての通りといっちゃなんだが、冒険者をしている」
馬車に乗りこむと自己紹介をした彼女の首にはシルバーのプレートが掛けられている。
そのプレートからローランは彼女がBランクの中堅冒険者だと察した。
「……僕はローランです、ククル村の……」
ローランは力なく答える。
「ククル村。ああ、あの辺鄙な村か。まさかここまで、走ってきたのか?」
「はい……」
「しかし、まぁ……あの例の青髪のお嬢ちゃんを探してって事か?」
「そうです」
うなだれるローラン。
「その様子じゃ、見つからなかったみたいだな?」
「はい」
「そうか、私は普段は王都周辺で活動しているんだが、今は、こいつの積み荷を王都まで輸送するのが仕事だ」
「……そうですか」
「それで……この後、お前さんはどうするんだ? 私達は一応このまま王都へ向かう。途中で少し遠回りになるがククル村の近くまで行くが……」
「アリシアを……」
「ん?」
「アリシアを……助けてください……ッ!」
ローランは涙をあふれさせてクレアに懇願する。
Bランク冒険者というのはそれなりに経験豊富な中堅とクラス言える。
少なくとも今のローランより実力は上だろう。
「アリシアってのは例の……」
「そうです……ッ! 盗賊に……ッ! 盗賊……に連れ去られてしまったんですッ!」
「そうか……」
考えこむようなクレア。
「必死に……、必死に探し回ったんですが……ッ! 僕にはッ! 僕にはッ!」
「……見つけられなかったんだな?」
「はい、村の子が連れ去られたところを見たって言って、僕は慌てて……」
「そのアリシアって子の特徴は?」
「青髪で……青目で……、凄く優しくて……、可愛くて……。僕が……ッ! 僕が……ッ!」
「青髪、青目なるほどな」
泣き出してしまった、ローランの話からクレアは、状況を理解した。
「僕がもっと冷静だったなら……ッ! もし、村の人の話を聞いておけば……。僕は……、僕は、あっちだっていう女の子の言葉だけ聞いて……ッ! もっと、準備を整えてから出発すれば……、もしかしたら、アリシアはッ! アリシアはッ! そもそも僕が修行になんて、でなければ……あの時だって……クレアさん達に助けを求めておけば……」
感情があふれ出し、後悔の言葉を口にするローランだが、
「いや……それは分からんな」
話を聞いていたクレアだが、ローランの言葉に口を挟む。
「え……?」
クレアの言葉に困惑するローラン。
「昨日、私達に助けを求められたしても、私達は何もしてやれなかっただろう。それに……お前さんの判断が間違っていたとも言い切れん、時には行動の迅速さが功を奏する事もある。考えるより行動する時が正解の時もあるもんだ、そうだろう?」
諭すように言うクレア。
「……はい」
黙ってクレアの言葉を聞くローラン。
「結局後になってみなけりゃ、その時の判断が正しいのか間違ってのか分からん時なんて山ほどあるもんだ」
「……はい」
「……だが、一応、私達は今は任務の途中だ。悪いがそれをほっぽりだして、お前の知り合いのお嬢ちゃんを探しに行くわけにも行かない」
「そんな……」
絶望に染まった表情のローラン。
「それに、どこにいるのかも分からないんだろ? 手がかりも方向だけ。私でも、見つけるのは困難だ」
「……」
「一応、ギルドに届け出を出してはやる。それが私にできる最善の手だ」
「……はい」
力なく俯くローラン。
「通常、冒険者が盗賊のアジトが発見すれば、冒険者ギルドに報告する事が義務になっている」
「……はい」
「討伐クエストを受けた冒険者が討伐クエストを受ければ、そのアリシアって子が助かる見込みはある。だが、正直に言って、青髪、青目とありゃ、欲しがる貴族や金持ちは山ほどいるだろう。その盗賊のアジトが発見されたとしても、見つかるかどうかはまでは……」
「……わからないと……」
「ああ……見つかった時は既に、どっかの金持ちや貴族にでも売っぱらわれちまってる可能性が高い。そうなったら、冒険者ギルドが手を出せる領域を超えちまってるだろうな……」
予測できる現実的かつ、最悪の事態を予測し口にするクレア。
「どうしようもないと?」
「ああ、正直に言って状況はかなり悪い。この世界にはどうしようもない事もある、諦めて現実を受け入れるしかない時もあるローラン。助かる見込みは恐らくは……薄いだろう」
「………」
「お前は一旦、村へ帰った方がいい。近くまで行ったら下ろしてやる。剣一本しか持ってないんだろ? それに酷い顔だ、少し休んだ方がいい」
「……はい」
力なく答えるローラン。
「じゃあな……」
力なく項垂れるローランを後に、クレアは御者台に向かった。
「……アリシア……アリシア……」
クレアが去った後、ローランは馬車の中で泣き崩れる事しかできなかった。
冒険者達はローランに気を使って何も話しかけては来なかった。
一応昼食も出されたが、彼の喉を碌に食事が通る事は無かった。
どの位の時間が経ったのか分からない。
暫くすると、
「ローラン。一応村の近くまでは来たぞ……」
とクレアに声をかけられた。
「……分かりました……」
答えるローランだが、その声に力は無く、その瞳は泣きはらし真っ赤に充血していた。
糸に操られる操り人形のようにすくっと立ち上がると、ローランは帆馬車から降りた。
「じゃあな……気をしっかり持てよ……」
そう言って肩を叩くクレア。
「はい……」
励ますクレアに礼をいう事ももなく、ローランは彼女を背に、とぼとぼと歩きだす。
「……僕は……もう……アリシアには……」
だが、クレアに突き付けられた現実にローランの心は絶望に染まっていた。
その表情は死人の様だった。
アリシアはこれから先、どこかに売られてしまって、そこで……。
嫌な想像ばかりが、頭の中を駆け巡る。
「……会えない……」
溢れ出す涙をぬぐう事もできずに、ローランは亡者のように歩く。
「アリシアに会いたい……」
僅かな希望の光さえ見えないローランはそんな事を呟く。
頭の中をアリシアと共に過ごした日々が走馬灯のように駆け巡る。
以前は楽しかった思い出、それが、今のローランにはかえって苦痛を与えていた。
だが、
「……え……?」
村の入り口の近く来ると、青髪い髪を揺らせる少女の姿を見つけた。
彼女は、近くに止められた馬車から降りてきたようだ。
「アリ――シア?」
思わず呆然として少女を見るローラン。
「夢じゃない……?」
その泣きはらした瞳をゴシゴシと擦るが、その姿は確かに現実の姿の様だ。
その着衣を確認するが、乱暴された様子はない。
むしろ今まで、見たこともないような奇麗な服を彼女は着ていた。
なぜあんな恰好をしているのだろうか――?
それは少し疑問に感じてしまうが、
「……無事だったんだ……」
突然、差し込んだ希望の光にローランは思わず、吸い寄せられるように向かう。
「良かった……。本当に良かった……」
安堵の感情と、最愛の少女と再び会えた喜びが広がる。
悪い夢から覚めて、幸せな現実に、あの楽しかった頃に戻れる。
そんな感情から――ローランの瞳からは流れる涙の意味は、悲壮感から流れるものとは違うものに変わろうとしていた。
瞬間――。
(……あれあれあれ? あれあれあれあれあれあれあれあれあれ、あれは、あの男は…。アイツは………ッ!!!!!!!)
一瞬ローランの頭の中に金槌で殴られたような衝撃が走る。
彼女の後から、金髪の大人とも子供ともとれるような体躯の男が現れた。
(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんであの男が一緒にいるんだ?)
ローランの頭の中は一瞬で沸騰した。
そこにはローランが夢寐にも忘れたことのない男がいた。
(なんで? なんで? あの男が、あの男が、あの男とアリシアが一緒にいる。いる、いる、いる……?)
ローラン中を、今まで感じたことがないような怒りが駆け巡る。
突然の事態の変化にローランの脳を混乱が支配する。
あの男がアリシアと話している。
頭の中が真っ白になって、茫然とその光景を見ているが、
その瞬間が訪れた――。
(触った――? アリシアに触ってる……? 触ってる……ッ!?)
あの男はあの褐色の肌をした少女を攫ったその手を、アリシアのその華奢な肩へと乗せた。
その姿はローランからは、これから彼女を抱き寄せるようにも見えてしまう。
火山の噴火のように溢れ出す憤怒は疲労のせいでふらつく足取りを駆け出させる。
「離れろおおおおおおおおおおおおおおォォォッ!」
ローランの走りは加速し、そして、持ち歩いていた腰の剣を抜き、振りかぶる。
「アリシアから、離れろおおおおおおおおおおおおおおォォォッ!」
ローランは自然とそんな事を叫んでいた。
「こんなところで行き倒れか?」
「分かんないけど、どうするの?」
「ほっとくの?」
「いや……そういうわけにも……」
その声は、地面に倒れて動かないローランの元へ近づいてくる。
「……っていうかこの人、死んでる?」
「分からん、おい生きてるか?」
(……誰?)
ローランは体を揺さぶられるのを感じ意識を取り戻す。
口の中に土の味を感じ、その体は鉛のように重い。
「死んでるの?」
「……いや、息はある」
「う……」
体を起こされローランは思わず呻き声を上げる、
「気が付いたみたい」
「おい、大丈夫か? ってお前……」
「この人……昨日のッ!」
「ああ……おい、大丈夫か?」
問いかけるその声には聞き覚えがあった。
「あなた達は……」
目を開けたローランの前には、昨日の4人組の冒険者パーティーの面々がいた。
空には既に日が高く昇っている。
「起きたな? 昨日ぶりだな」
「え……あ……。はい」
朦朧とする意識の中でローランは応える。
「どうしたんだ? こんなところで。そういえばお前、昨日の青い髪の……」
「……そうだ……アリシア……ッ!」
クレアの言葉を聞き、ローランは飛び起きようとしたが、後先、考えずに全力で走っていたせいか、筋肉痛のような痛みを感じる。
「痛むのか? 今は、まだ動かない方がいいだろう……」
「……でも……行かないと」
剣を杖にしてローランはフラフラと起き上がる。
「おい待てよ」
「急いでいるので……」
そして、おぼつかない足取りで歩き出そうとするが……。
「どこに行くっていうんだ……?」
「どこって……」
「当てはあるのか?」
「……」
思わず立ち止まるローラン。
行く当てなどはない。
闇雲に、走り回ったがアリシアを見つける事は出来なかった。
そして、今は無一文だ。
空腹のせいか頭もくらくらとしている。
「行く当てがないなら……乗っていくか?」
クレアは親指で、彼女達が乗ってきた思われる馬車を指さす。
「………そうします」
ローランは短くそう答えた。
ローランを載せた馬車は走り出した。
それは、帆馬車のような馬車だった。
布地製の屋根が雨風をしのげるようにはできている。
中には木箱が満載されており、何人かが座れる程度のスペースしかない。
「さてと、私はクレアだ。見ての通りといっちゃなんだが、冒険者をしている」
馬車に乗りこむと自己紹介をした彼女の首にはシルバーのプレートが掛けられている。
そのプレートからローランは彼女がBランクの中堅冒険者だと察した。
「……僕はローランです、ククル村の……」
ローランは力なく答える。
「ククル村。ああ、あの辺鄙な村か。まさかここまで、走ってきたのか?」
「はい……」
「しかし、まぁ……あの例の青髪のお嬢ちゃんを探してって事か?」
「そうです」
うなだれるローラン。
「その様子じゃ、見つからなかったみたいだな?」
「はい」
「そうか、私は普段は王都周辺で活動しているんだが、今は、こいつの積み荷を王都まで輸送するのが仕事だ」
「……そうですか」
「それで……この後、お前さんはどうするんだ? 私達は一応このまま王都へ向かう。途中で少し遠回りになるがククル村の近くまで行くが……」
「アリシアを……」
「ん?」
「アリシアを……助けてください……ッ!」
ローランは涙をあふれさせてクレアに懇願する。
Bランク冒険者というのはそれなりに経験豊富な中堅とクラス言える。
少なくとも今のローランより実力は上だろう。
「アリシアってのは例の……」
「そうです……ッ! 盗賊に……ッ! 盗賊……に連れ去られてしまったんですッ!」
「そうか……」
考えこむようなクレア。
「必死に……、必死に探し回ったんですが……ッ! 僕にはッ! 僕にはッ!」
「……見つけられなかったんだな?」
「はい、村の子が連れ去られたところを見たって言って、僕は慌てて……」
「そのアリシアって子の特徴は?」
「青髪で……青目で……、凄く優しくて……、可愛くて……。僕が……ッ! 僕が……ッ!」
「青髪、青目なるほどな」
泣き出してしまった、ローランの話からクレアは、状況を理解した。
「僕がもっと冷静だったなら……ッ! もし、村の人の話を聞いておけば……。僕は……、僕は、あっちだっていう女の子の言葉だけ聞いて……ッ! もっと、準備を整えてから出発すれば……、もしかしたら、アリシアはッ! アリシアはッ! そもそも僕が修行になんて、でなければ……あの時だって……クレアさん達に助けを求めておけば……」
感情があふれ出し、後悔の言葉を口にするローランだが、
「いや……それは分からんな」
話を聞いていたクレアだが、ローランの言葉に口を挟む。
「え……?」
クレアの言葉に困惑するローラン。
「昨日、私達に助けを求められたしても、私達は何もしてやれなかっただろう。それに……お前さんの判断が間違っていたとも言い切れん、時には行動の迅速さが功を奏する事もある。考えるより行動する時が正解の時もあるもんだ、そうだろう?」
諭すように言うクレア。
「……はい」
黙ってクレアの言葉を聞くローラン。
「結局後になってみなけりゃ、その時の判断が正しいのか間違ってのか分からん時なんて山ほどあるもんだ」
「……はい」
「……だが、一応、私達は今は任務の途中だ。悪いがそれをほっぽりだして、お前の知り合いのお嬢ちゃんを探しに行くわけにも行かない」
「そんな……」
絶望に染まった表情のローラン。
「それに、どこにいるのかも分からないんだろ? 手がかりも方向だけ。私でも、見つけるのは困難だ」
「……」
「一応、ギルドに届け出を出してはやる。それが私にできる最善の手だ」
「……はい」
力なく俯くローラン。
「通常、冒険者が盗賊のアジトが発見すれば、冒険者ギルドに報告する事が義務になっている」
「……はい」
「討伐クエストを受けた冒険者が討伐クエストを受ければ、そのアリシアって子が助かる見込みはある。だが、正直に言って、青髪、青目とありゃ、欲しがる貴族や金持ちは山ほどいるだろう。その盗賊のアジトが発見されたとしても、見つかるかどうかはまでは……」
「……わからないと……」
「ああ……見つかった時は既に、どっかの金持ちや貴族にでも売っぱらわれちまってる可能性が高い。そうなったら、冒険者ギルドが手を出せる領域を超えちまってるだろうな……」
予測できる現実的かつ、最悪の事態を予測し口にするクレア。
「どうしようもないと?」
「ああ、正直に言って状況はかなり悪い。この世界にはどうしようもない事もある、諦めて現実を受け入れるしかない時もあるローラン。助かる見込みは恐らくは……薄いだろう」
「………」
「お前は一旦、村へ帰った方がいい。近くまで行ったら下ろしてやる。剣一本しか持ってないんだろ? それに酷い顔だ、少し休んだ方がいい」
「……はい」
力なく答えるローラン。
「じゃあな……」
力なく項垂れるローランを後に、クレアは御者台に向かった。
「……アリシア……アリシア……」
クレアが去った後、ローランは馬車の中で泣き崩れる事しかできなかった。
冒険者達はローランに気を使って何も話しかけては来なかった。
一応昼食も出されたが、彼の喉を碌に食事が通る事は無かった。
どの位の時間が経ったのか分からない。
暫くすると、
「ローラン。一応村の近くまでは来たぞ……」
とクレアに声をかけられた。
「……分かりました……」
答えるローランだが、その声に力は無く、その瞳は泣きはらし真っ赤に充血していた。
糸に操られる操り人形のようにすくっと立ち上がると、ローランは帆馬車から降りた。
「じゃあな……気をしっかり持てよ……」
そう言って肩を叩くクレア。
「はい……」
励ますクレアに礼をいう事ももなく、ローランは彼女を背に、とぼとぼと歩きだす。
「……僕は……もう……アリシアには……」
だが、クレアに突き付けられた現実にローランの心は絶望に染まっていた。
その表情は死人の様だった。
アリシアはこれから先、どこかに売られてしまって、そこで……。
嫌な想像ばかりが、頭の中を駆け巡る。
「……会えない……」
溢れ出す涙をぬぐう事もできずに、ローランは亡者のように歩く。
「アリシアに会いたい……」
僅かな希望の光さえ見えないローランはそんな事を呟く。
頭の中をアリシアと共に過ごした日々が走馬灯のように駆け巡る。
以前は楽しかった思い出、それが、今のローランにはかえって苦痛を与えていた。
だが、
「……え……?」
村の入り口の近く来ると、青髪い髪を揺らせる少女の姿を見つけた。
彼女は、近くに止められた馬車から降りてきたようだ。
「アリ――シア?」
思わず呆然として少女を見るローラン。
「夢じゃない……?」
その泣きはらした瞳をゴシゴシと擦るが、その姿は確かに現実の姿の様だ。
その着衣を確認するが、乱暴された様子はない。
むしろ今まで、見たこともないような奇麗な服を彼女は着ていた。
なぜあんな恰好をしているのだろうか――?
それは少し疑問に感じてしまうが、
「……無事だったんだ……」
突然、差し込んだ希望の光にローランは思わず、吸い寄せられるように向かう。
「良かった……。本当に良かった……」
安堵の感情と、最愛の少女と再び会えた喜びが広がる。
悪い夢から覚めて、幸せな現実に、あの楽しかった頃に戻れる。
そんな感情から――ローランの瞳からは流れる涙の意味は、悲壮感から流れるものとは違うものに変わろうとしていた。
瞬間――。
(……あれあれあれ? あれあれあれあれあれあれあれあれあれ、あれは、あの男は…。アイツは………ッ!!!!!!!)
一瞬ローランの頭の中に金槌で殴られたような衝撃が走る。
彼女の後から、金髪の大人とも子供ともとれるような体躯の男が現れた。
(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんであの男が一緒にいるんだ?)
ローランの頭の中は一瞬で沸騰した。
そこにはローランが夢寐にも忘れたことのない男がいた。
(なんで? なんで? あの男が、あの男が、あの男とアリシアが一緒にいる。いる、いる、いる……?)
ローラン中を、今まで感じたことがないような怒りが駆け巡る。
突然の事態の変化にローランの脳を混乱が支配する。
あの男がアリシアと話している。
頭の中が真っ白になって、茫然とその光景を見ているが、
その瞬間が訪れた――。
(触った――? アリシアに触ってる……? 触ってる……ッ!?)
あの男はあの褐色の肌をした少女を攫ったその手を、アリシアのその華奢な肩へと乗せた。
その姿はローランからは、これから彼女を抱き寄せるようにも見えてしまう。
火山の噴火のように溢れ出す憤怒は疲労のせいでふらつく足取りを駆け出させる。
「離れろおおおおおおおおおおおおおおォォォッ!」
ローランの走りは加速し、そして、持ち歩いていた腰の剣を抜き、振りかぶる。
「アリシアから、離れろおおおおおおおおおおおおおおォォォッ!」
ローランは自然とそんな事を叫んでいた。
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