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戦いの結末
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目の前に悪党が立っている。
親指だけをポケットに掛け、無防備に構えるその姿。
距離は十分にある。魔術を展開するには充分すぎる距離だ。
(——この位置じゃ攻撃魔術は使えない——)
ローランはその選択肢を排除する。
あの悪党の後方には、最愛の少女が寝かされている。
それはちょうど射線の延長線上。
あの悪党が回避すれば、彼女に当たる可能性が非常に高い。
射出後にコントロールの効かない魔術を使用するという選択肢を選べない。
(——ずる賢い奴め……アリシアを盾に使うなんて——)
対策として用意した戦術を使えない。
ローランは少しの焦りを覚える。
だが——同時にその狡猾さには敵ながら舌をまく。
あと一歩で勝てた筈の状況が覆されかけている。
(——でも、あいつも無傷ってわけじゃない——)
まるでその掌を隠すように、ポケットに添えられた掌を見つめる。
(——アリシアから引き剥がせば、【雷槍】を撃ち込める。それで、僕の勝ちだ——)
敵の魔術に対する防御能力は確実に低下している。
問題なのは位置取りのみ。
(——今ここで倒さなければ……アリシアは連れて行かれて、あいつ騙されて……あの子みたいに——)
待っているのは、きっと、あの褐色の少女と同じ未来。
あの悪党に連れて行かれ、言いなりにされる悲惨な未来。
(——そんな事……僕は、絶対に許さない——)
そんな、彼の中で過去の記憶が蘇るそれは、アリシアと共に村で過ごした記憶。
とても、懐かしく、穏やかで幸せな日々。
「(私は世界一の魔術師になるの……ッ! 見ていなさい、ローランッ!)」
「(うん……ッ! きっとなれるよアリシアなら……ッ!)」
かつて幼い日々にアリシアが描いた夢。
「(なんでよ……、なんで使えないの……ッ! どうして……ッ!)」
「(無理なんだよ……、もう諦めた方がいいよ、アリシア。)」
それは、過酷な現実を前に儚く潰えた夢。
魔術を失い、以前のように笑わなくなったアリシア。
いつもその表情に影が差すようになったアリシア。
そして、口調まで変わっていった。
あの男はそんな彼女の心の弱みに付け込みだましている。
(——守らないと。アリシアがもう二度と魔術を使わなくてもいいように——ッ!)
ローランは誓いを立てると、剣を構える。
そして、素早く魔力を練り上げる。
「はぁッ!」
気合いと共に、その身体に流し込む。
ピクピクと早く打つ鼓動。
【身体強化】
(少しだけ……怖いな)
恐怖で震える体。
思い返される敗北の記憶。
前回と似たような状況。
対峙する相手も、その後方に少女が寝かされている事も。
(——集中しろ……。アリシアを絶対に助け出す——)
ローランは、自分を奮い立たせるように、思い出す。
あの穏やかでかけがえのない日々を。
あの村で彼女の隣で過ごした幸せな日々を。
(——そして、帰るんだ、あの楽しかった毎日に——ッ!)
アリシアの笑っている顔。
アリシアの怒っている顔。
アリシアの悲しそうな顔。
そして、忘れもしない、魔術を使えなくなって、塞ぎ込んで泣いているあの顔を。
そして、今も死人のように地面に寝かされている少女を見る。
(アリシア……。アリシア……。アリシア……ッ!)
強い想いは、叫びとなって、ローランの口から溢れ出す。
(——僕が守るんだ——)
「はぁあああああああああああああああああッツ!!!!」
ローランは雄叫びと共に、駆け出した。
――お前と、俺は結局こうなる運命なのかもな。
様々な偶然に、偶然が重なり合い、すれ違い、奇しくも【ブレイヴ・ヒストリア】の世界と同じようにローランと敵対していた。
きっかけは、ちょっとした行き違いだったのかもしれない。
その行き違いが重なり合い、今は大きな確執となった。
――お前は、これから先、何度でも立ち上がり、俺の前に現れるのだろう?
何故か、俺はそんな予感がしていた。
彼はなるだろう。
かつて、幼き日に心躍らせた物語の主人公と同じように。
何度打ちのめされても立ち上がり、ついには自分より遥に強い敵を打ち倒してしまう英雄に。
――なんだ、今の内にローランを殺せってか?
頭の中のもう一人の自分が、そう俺に命じている気がした。
今この場で、彼を始末することは、そう難しくはない。
アリシアも気を失っている今、死体を燃やし尽くしてしまえば、誰に咎められることもない。
多分、この世界で唯一、俺に追いつける可能性を持っているのは、アイツだけだろう。
——ダメだ。ダメだね。そんなのは、退屈だ。
その考えが間違いではないのは分かっていた。
だが、俺は頭の中のもう一人に言い聞かせる。
チッチッチと人差し指を振りながら。
まるで、新しい遊びを見つけた小学生が、友達に教えるみたいに。
――お前には俺が悪党に見えるんだろう?
分かっていた。
俺の行動の結果、他人が不幸になることがある事は。
そして、分かっていた。
時として——自分が信じた正しさを貫くと言うことは、他人の信じる正しさを踏みにじることである事も。
――だが……俺は間違ってなどいない。
今も背後に眠る少女の行為が証明してくれた気がした。
過去に何があろうとも、他人に何を言われようとも、不可能を可能にしたその行為が間違いでないと。
――俺はいつだって、自分の好きなようにやってきた。
俺は過去生を思い出す。
常に危険と隣り合わせで、世界中に追いかけられるスリルと、興奮の毎日を。
安定も無ければ、安全もない。
だけど——退屈もしない。
刺激に満ち溢れた人生を。
「はぁあああああああああああああああああッツ!!!!」
雄たけびと共に、ローランが突進してくる。
——この世界の主人公だと生意気に。そのせいで俺は悪役か?
胸の内に湧き上がる僅かな嫉妬の感情。
自分という存在が悪役という事実に対する葛藤。
だが、その感情を俺は嘲笑する。
――なぁ、ローラン。
ローランに合わせるように、つられて躍り出る。
「はぁ……ッ!」
ローランから放たれる斬撃を紙一重で躱す。
次々と放たれる斬撃は、予想を僅かに超えた鋭さを持つ。
だが、それは俺にとって脅威に感じない。
今のローランは俺に遠く及ばない。
――また、立ち上がってまた俺を追いかけて来いよ……。それで……
俺はローランに向かって心の中で言った。
まるで鬼ごっこを楽しむ子供みたいに。
――いつか、この俺を……捕まえて見せろ……ッ!
そして、彼への期待と共に、掌底を叩き込んだ。
ドス――ッ!
という鈍い音が響いた。
気づけば空気を裂くような音は消えていた。
そして続く音。
「ぐは……ッ!」
ローランは、体をくの字に曲げていた。
「悪いな、今回も俺の勝ちのようだな……?」
無常にも告げられる一言。
腹部を打ち抜かれたローランからの返答はなかった。
「……ごほぉッ!」
代わりに肺の中の空気が吐き出される音がした。
だが、以前のように吐瀉物は撒き散らさなかった。
彼は、一晩中、飲まず食わずで走り回っていた。
「何、アリシアのことなら心配するな。後は俺に任せておけ……俺が、しっかり連れて帰っておいてやるよ」
「ま、ま……、て……」
体から力が失われ始めていた。
だが、未だにその瞳に闘志を宿していた。
「待たんな。いつまでも、アリシアを地面に置き去りにしておくわけにもいかんだろう」
腹部から引き抜かれる掌。
「う……ッ!」
支えを失い、ローランは膝から崩れ落ちると、地面にうずくまる。
敗北を受け入れる事もできず、体の自由も効かなかった。
「お前は、起きたら、今夜はちゃんと風呂に入れ」
見下すような一言。
「ま、まって………」
見上げるローラン。
立ちあがろうとする意思とは裏腹に、体から力が漏れ出ていった。
土を掴むその手を必死に伸ばすが、その手は空を切るのだった。
次第にその意識が遠のいて行き、瞳は光を失っていく。
「アリ……シアを……」
その言葉を最後に、瞼は徐々に閉じられ、遂にはその意識は完全に失われた。
「ふぅ……、全くこっちは徹夜明けだというのに……」
ローランが動かなくなったのを確認した俺は、そんな愚痴を言いながら、やれやれと呟く。
そして、振り返り、地面に横たわる少女の元へと向かう。
軽い足取り。
しかし、ある事に気づく、
「なんだ……これは?」
頬にかすかな熱と水滴がつくような感覚を感じた。
「まさか、これは、血か……? 俺の……」
指先で触ると、わずかに滲んだ赤い液体が指先に付着していた。
意識を向けると、僅かに痛みを感じた。
それは皮膚を裂き血管を傷つける程度のものでしか無いのかもしれない。
だが、アイツの渾身の斬撃は確かに、俺に届いていた。
――あいつ……この俺の顔に傷を。
少しだけ、わなわなと震える。
だが、一つ、ふぅと息を吐くと呟く。
「まぁ……でも、それも悪くはないか……」
多少、傷がつこうとも俺の顔はカッコいいしな。
親指だけをポケットに掛け、無防備に構えるその姿。
距離は十分にある。魔術を展開するには充分すぎる距離だ。
(——この位置じゃ攻撃魔術は使えない——)
ローランはその選択肢を排除する。
あの悪党の後方には、最愛の少女が寝かされている。
それはちょうど射線の延長線上。
あの悪党が回避すれば、彼女に当たる可能性が非常に高い。
射出後にコントロールの効かない魔術を使用するという選択肢を選べない。
(——ずる賢い奴め……アリシアを盾に使うなんて——)
対策として用意した戦術を使えない。
ローランは少しの焦りを覚える。
だが——同時にその狡猾さには敵ながら舌をまく。
あと一歩で勝てた筈の状況が覆されかけている。
(——でも、あいつも無傷ってわけじゃない——)
まるでその掌を隠すように、ポケットに添えられた掌を見つめる。
(——アリシアから引き剥がせば、【雷槍】を撃ち込める。それで、僕の勝ちだ——)
敵の魔術に対する防御能力は確実に低下している。
問題なのは位置取りのみ。
(——今ここで倒さなければ……アリシアは連れて行かれて、あいつ騙されて……あの子みたいに——)
待っているのは、きっと、あの褐色の少女と同じ未来。
あの悪党に連れて行かれ、言いなりにされる悲惨な未来。
(——そんな事……僕は、絶対に許さない——)
そんな、彼の中で過去の記憶が蘇るそれは、アリシアと共に村で過ごした記憶。
とても、懐かしく、穏やかで幸せな日々。
「(私は世界一の魔術師になるの……ッ! 見ていなさい、ローランッ!)」
「(うん……ッ! きっとなれるよアリシアなら……ッ!)」
かつて幼い日々にアリシアが描いた夢。
「(なんでよ……、なんで使えないの……ッ! どうして……ッ!)」
「(無理なんだよ……、もう諦めた方がいいよ、アリシア。)」
それは、過酷な現実を前に儚く潰えた夢。
魔術を失い、以前のように笑わなくなったアリシア。
いつもその表情に影が差すようになったアリシア。
そして、口調まで変わっていった。
あの男はそんな彼女の心の弱みに付け込みだましている。
(——守らないと。アリシアがもう二度と魔術を使わなくてもいいように——ッ!)
ローランは誓いを立てると、剣を構える。
そして、素早く魔力を練り上げる。
「はぁッ!」
気合いと共に、その身体に流し込む。
ピクピクと早く打つ鼓動。
【身体強化】
(少しだけ……怖いな)
恐怖で震える体。
思い返される敗北の記憶。
前回と似たような状況。
対峙する相手も、その後方に少女が寝かされている事も。
(——集中しろ……。アリシアを絶対に助け出す——)
ローランは、自分を奮い立たせるように、思い出す。
あの穏やかでかけがえのない日々を。
あの村で彼女の隣で過ごした幸せな日々を。
(——そして、帰るんだ、あの楽しかった毎日に——ッ!)
アリシアの笑っている顔。
アリシアの怒っている顔。
アリシアの悲しそうな顔。
そして、忘れもしない、魔術を使えなくなって、塞ぎ込んで泣いているあの顔を。
そして、今も死人のように地面に寝かされている少女を見る。
(アリシア……。アリシア……。アリシア……ッ!)
強い想いは、叫びとなって、ローランの口から溢れ出す。
(——僕が守るんだ——)
「はぁあああああああああああああああああッツ!!!!」
ローランは雄叫びと共に、駆け出した。
――お前と、俺は結局こうなる運命なのかもな。
様々な偶然に、偶然が重なり合い、すれ違い、奇しくも【ブレイヴ・ヒストリア】の世界と同じようにローランと敵対していた。
きっかけは、ちょっとした行き違いだったのかもしれない。
その行き違いが重なり合い、今は大きな確執となった。
――お前は、これから先、何度でも立ち上がり、俺の前に現れるのだろう?
何故か、俺はそんな予感がしていた。
彼はなるだろう。
かつて、幼き日に心躍らせた物語の主人公と同じように。
何度打ちのめされても立ち上がり、ついには自分より遥に強い敵を打ち倒してしまう英雄に。
――なんだ、今の内にローランを殺せってか?
頭の中のもう一人の自分が、そう俺に命じている気がした。
今この場で、彼を始末することは、そう難しくはない。
アリシアも気を失っている今、死体を燃やし尽くしてしまえば、誰に咎められることもない。
多分、この世界で唯一、俺に追いつける可能性を持っているのは、アイツだけだろう。
——ダメだ。ダメだね。そんなのは、退屈だ。
その考えが間違いではないのは分かっていた。
だが、俺は頭の中のもう一人に言い聞かせる。
チッチッチと人差し指を振りながら。
まるで、新しい遊びを見つけた小学生が、友達に教えるみたいに。
――お前には俺が悪党に見えるんだろう?
分かっていた。
俺の行動の結果、他人が不幸になることがある事は。
そして、分かっていた。
時として——自分が信じた正しさを貫くと言うことは、他人の信じる正しさを踏みにじることである事も。
――だが……俺は間違ってなどいない。
今も背後に眠る少女の行為が証明してくれた気がした。
過去に何があろうとも、他人に何を言われようとも、不可能を可能にしたその行為が間違いでないと。
――俺はいつだって、自分の好きなようにやってきた。
俺は過去生を思い出す。
常に危険と隣り合わせで、世界中に追いかけられるスリルと、興奮の毎日を。
安定も無ければ、安全もない。
だけど——退屈もしない。
刺激に満ち溢れた人生を。
「はぁあああああああああああああああああッツ!!!!」
雄たけびと共に、ローランが突進してくる。
——この世界の主人公だと生意気に。そのせいで俺は悪役か?
胸の内に湧き上がる僅かな嫉妬の感情。
自分という存在が悪役という事実に対する葛藤。
だが、その感情を俺は嘲笑する。
――なぁ、ローラン。
ローランに合わせるように、つられて躍り出る。
「はぁ……ッ!」
ローランから放たれる斬撃を紙一重で躱す。
次々と放たれる斬撃は、予想を僅かに超えた鋭さを持つ。
だが、それは俺にとって脅威に感じない。
今のローランは俺に遠く及ばない。
――また、立ち上がってまた俺を追いかけて来いよ……。それで……
俺はローランに向かって心の中で言った。
まるで鬼ごっこを楽しむ子供みたいに。
――いつか、この俺を……捕まえて見せろ……ッ!
そして、彼への期待と共に、掌底を叩き込んだ。
ドス――ッ!
という鈍い音が響いた。
気づけば空気を裂くような音は消えていた。
そして続く音。
「ぐは……ッ!」
ローランは、体をくの字に曲げていた。
「悪いな、今回も俺の勝ちのようだな……?」
無常にも告げられる一言。
腹部を打ち抜かれたローランからの返答はなかった。
「……ごほぉッ!」
代わりに肺の中の空気が吐き出される音がした。
だが、以前のように吐瀉物は撒き散らさなかった。
彼は、一晩中、飲まず食わずで走り回っていた。
「何、アリシアのことなら心配するな。後は俺に任せておけ……俺が、しっかり連れて帰っておいてやるよ」
「ま、ま……、て……」
体から力が失われ始めていた。
だが、未だにその瞳に闘志を宿していた。
「待たんな。いつまでも、アリシアを地面に置き去りにしておくわけにもいかんだろう」
腹部から引き抜かれる掌。
「う……ッ!」
支えを失い、ローランは膝から崩れ落ちると、地面にうずくまる。
敗北を受け入れる事もできず、体の自由も効かなかった。
「お前は、起きたら、今夜はちゃんと風呂に入れ」
見下すような一言。
「ま、まって………」
見上げるローラン。
立ちあがろうとする意思とは裏腹に、体から力が漏れ出ていった。
土を掴むその手を必死に伸ばすが、その手は空を切るのだった。
次第にその意識が遠のいて行き、瞳は光を失っていく。
「アリ……シアを……」
その言葉を最後に、瞼は徐々に閉じられ、遂にはその意識は完全に失われた。
「ふぅ……、全くこっちは徹夜明けだというのに……」
ローランが動かなくなったのを確認した俺は、そんな愚痴を言いながら、やれやれと呟く。
そして、振り返り、地面に横たわる少女の元へと向かう。
軽い足取り。
しかし、ある事に気づく、
「なんだ……これは?」
頬にかすかな熱と水滴がつくような感覚を感じた。
「まさか、これは、血か……? 俺の……」
指先で触ると、わずかに滲んだ赤い液体が指先に付着していた。
意識を向けると、僅かに痛みを感じた。
それは皮膚を裂き血管を傷つける程度のものでしか無いのかもしれない。
だが、アイツの渾身の斬撃は確かに、俺に届いていた。
――あいつ……この俺の顔に傷を。
少しだけ、わなわなと震える。
だが、一つ、ふぅと息を吐くと呟く。
「まぁ……でも、それも悪くはないか……」
多少、傷がつこうとも俺の顔はカッコいいしな。
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