周囲が優しくないイケメンばかりなので、優しいイケメンを召喚する!

ぬい

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【12】蜂蜜の飴

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 登校時刻になったので、私は玄関へと向かった。

「お嬢様、こちらをお持ちください」
「あら、ありがとうロビン」

 するとロビンが、蜂蜜の飴をくれた。昔から時々、私を見て飴をくれるのだ。タイミングがとても良くて、そういう日は丁度喉が痛くなったりして飴に助けられるので、私はこの飴をお守りのように感じている。

 さて、本日も先輩の馬車で学院へと向かった。
 しかし馬車の中には、先輩の召喚獣の姿は無かった。

 召喚に失敗したわけではないらしいが――何やら絶対部外秘の存在らしく、特例として王立学院内部に部屋が用意されているらしいのである。召喚獣と王家がそれで同意し、先輩がそこにいつも顔を出す形になったそうだ。

 一体どんな存在なのかと考えていた私は……紹介されて、倒れるかと思った。

 私はミネロム先生に連れられて、先輩の召喚獣に会いに行ったのだが、そこにいたのは、召喚獣の王であるエリオット帝だったのである。金色の翼が生えた人型の召喚獣だ。鷹のような目をしていて、その色は翡翠色である。唖然としていると、私の後ろでクライが喉で笑った。

「俺の昔馴染みだ。イケメンだろ?」
「え、え、ええ、え、ええ、そ、そうですね」

 何を言っているのだと黙らせたかったが、イケメンではないと否定するのも気が引け、実際イケメンであるため、私は慌てて頷いた。動揺しすぎて舌を噛みそうになった。さすがはリヒト先輩……正直私は、私以上の召喚獣は誰も召喚不可能だろうと思っていたが、天才はやはり天才だった。エリオット帝とクライ、先輩と私が並んで話すのを、ミネロム先生は壁に背を預けて眺めている。落ち着いた瞳で、観察するような顔をしていた。私は何気なくそちらを見て、この前助けてくれた一角獣がいる事に気がついた。先生の召喚獣である。エリオット帝とクライがいるのにそばにいるのだから、物怖じしない性格なのかもしれない。その内に、第一騎士団のこの前我が家にも訪れた王子殿下がやってきて、エリオット帝に大して腰を深く折っていた。王族の最高の礼の仕方である。

 私はクライと共に一歩下がって、壁際に寄った。先生とは逆の位置だ。
 その時クライがポツリといった。

「しかし凄まじい才能だな」
「ええ。リヒト先輩は天才ですわ」
「――いいや、あそこの教師だ」
「ミネロム先生ですか?」
「俺やエリオットは、鍵言葉で連絡さえ取れれば、言葉のやりとりが可能だ。だが一角獣は、自分が認めた者以外には決して心を開かない。俺は自力で人間界からの干渉を遮断したが、一角獣は生まれながらにそれが可能な神の召喚獣の一種だ」
「神の召喚獣……」
「その知能は人間が並ぶことは決してできないし、人型召喚獣の俺やエリオットですら不可能だ――そんな一角獣に認められ、従わせる事が可能な人間がいるとはな。さすがは俺やエリオットの召喚に成功する生徒を育てているだけはある。平民出自で貴族の教師をしているのも納得の力量だ」
「確かに先生はすごいですわ……ですが、そんなに……私、存じませんでした」
「能ある鷹は爪を隠す――古い言葉だ」

 そう口にして、ニッとクレイが笑った。その瞳は相変わらず楽しそうである。

 そのようにして私は特別室にいたのだが、エリオット帝の特別な威圧感に当てられでもしたのか、その内に目眩がし始めた。一角獣に関してはまだ実感がないが、エリオット帝に関しては衝撃的すぎて……その驚きで頭がくらくらしているのかもしれない。そんなことを考えていたら、体がポカポカしてきたから、昨日の疲れもあるのかなと疑った。

 そして――放課後になる頃には、私は咳き込んだ。喉が痛い。
 朝、ロビンに貰った蜂蜜の飴を舐める。少し喉が楽になった。

 急いで帰宅すると、ロビンが待ち構えていて、手には体温計を持っていた。
 なんてタイミングが良いのだろう。

「お嬢様、こちらへ。大丈夫ですか?」
「風邪をひいたみたいなの」
「朝のお顔を拝見した時点で、存じております。お嬢様は風邪をひくと、何故なのかつむじの上の髪の毛がはねるからです」
「え? 嘘?」
「嘘です。さぁ、熱を測ってください」

 無駄な嘘に騙されて、なんとなく悔しくなりながら熱を測った。すると、水銀の体温計が38の線まで移動した。高熱だ。それを見ただけで、私は一気に具合が悪くなった。自室の寝台まで支えて連れて行ってもらった。そして私は横になった。隣ではロビンが、手際良く氷の用意をしてくれている。

 それから薬を飲み、頭に氷を当て、私はラベンダーの刺繍が綺麗な毛布をかぶった。
 するとロビンが言った。

「何かご所望のものはございますか?」
「ロビンの作ったお粥が食べたいわ」

 お粥というのは、隣国から広まった病人食である。私の言葉に、ゆっくりとロビンが頷いた。

「シェフではなく、私のお粥ですか」
「ええ。ロビンのお粥が好きなのです」

 ロビンは何も言わずに出て行った。そして少しすると、お粥を持って戻ってきた。
 私の隣に椅子を用意し、ロビンが座る。
 食欲はあまりなかったが、食べておこうと決意して、私は早速起き上がった。
 息を吹きかけて冷ましてから、ロビンが私にお粥の乗る匙を差し出した。
 食べさせてもらうのは子供のようだが、手に力が入らないので仕方がない。
 しばらくそうしていて――丁度食べ終わった時、ロビンが呟いた。

「私と一緒にいて下さる限り、お嬢様の望みをなんでも叶えて差し上げますよ」
「それは、ロビンが私の好きな食べ物をいつでも作ってくれるということかしら?」
「――好きなものを、食べ物以外にも、もっと沢山増やして差し上げることもできます」
「例えば?」
「そうですね。私の腕の温もりなど、いかがでしょうか?」

 そう言って微苦笑すると、ロビンが私の髪を撫でた。
 そして眼鏡を外してから、私の額に彼の額をコツンと当てた。

「まだまだ熱が下がる気配はありませんね」

 唇が触れ合いそうな距離で、まじまじと覗き込まれる。
 ドキリとした。

「おやすみなさいませ、お嬢様。失礼致します」

 それからロビンは、私に毛布をかけなおすと、空になった食器を手に出て行った。
 私は早く治そうと考えながら、目を閉じた。



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