ギフテッド――嘘つきな先生と両思いになるまで

ぬい

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【36】就職活動

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 そして、少ししてから、就活を開始した。

 実は私の親戚一同には、会社員がほとんどというか、私が知っている人には一人もいなかったりする。会社を経営している人はいるが、とても暇そうな印象しかない。公務員ばっかりだ。後は、父のように資格を取って、自営業とかだ。だから具体的に、会社員というものが、根本的に私には分からなかった。

 なので友達の話を頼りに、数学の先生も褒めてくれたし、と、考えて、同時に個人サイトをやっていた時にHTMLって英語に似ている気がしたので、英語も先生が褒めてくれたので、まずはブラックらしいが必ず受かると評判のSEの面接を受けてみようと思った。

 その時期に説明会をしている会社はとても少なかった。

 きっともう、就活時期が終わっているからだと考えながら検索してみたら、聞いたことのある会社の説明会が、たまたまあった。他は聞いたことがなかったので、とりあえずそこに行ってみることにした。

 事前に、履歴書とその時点までの成績証明書を送って予約し、あとで卒業見込み提出書を出すらしいと読んだ記憶がある。忘れてしまった。説明会をして、SPIをして、社内の試験をして、面接を五回して、合格、という流れがホームページに書いてあった気がするが、忘れた。

 最初だし、まぁ受からないだろう。

 そう思いつつ、必要書類を集め、どうせ後で出すんなら今でもいいかと、卒業見込みの書類も貰い、帰りに就活用の写真を撮った。その日の前日に、髪の色は黒に戻して、ちょっとだけ切ってから(前髪を、ホームページに載っていた好印象のやつに近づけたのだ)、ポニーテールにして、スーツをまとってとったのである。スーツは、さらにその前日に買った。検査の件も含めて、自分の状態に関しては、親に言うのは忘れていた。

 その点もまぁそうだが、非常に非常に非常に私は馬鹿だった。

 この時期、既に、私の一つ下の代の就活説明会が、大手企業だと始まっていたのだ。そして、私ですら聞いたことがあるのだから、とっても大きな会社だったのである。説明会で隣に座った人に、四年だと言ったら、就職浪人したんですかと言われて、初めて気がついた。そのくらい人気もある会社だったらしい。

 おそらくだが、私以外に来ていた人は全て三年生だった。同じ年の人は、大学受験で浪人したか、留学帰りの人だけだっただろう。

 前に鏡花院先生が、院に落ちた人用の応募があると言っていたから、秋まで就職活動はやめようと、この日私は決意した。

 ただまぁ、せっかく来たんだし、これからいっぱい説明会にはいかなきゃならないので、配られたパンフレットを横に置き、たくさんメモを取った。事前に仕事内容なんて対して調べていなかったので、知らない世界は面白かった。

 これも小説家になるための、社会経験だ! 最近再び、暇になり、書き始め、また作家になる気満々になった私は、そう考えて自分を鼓舞した!

 その後、たくさんのブースが設置され、個別に質問する場が設けられたんだったような気がする。だけど別に、質問することなんかない。だってここ、四年生を募集してないし!

 説明は面白かったけど、経験としては、あれを聞いただけでもう十分だ。このあとなんだか、ディスカッションがあると聞いていたが、なにそれって感じだったので、私はその時間まで、何をしようか考えていた。

 そうしてボケっと立っていたら、なんと声をかけられた。

「四年生で来るなんて、珍しいね」

 顔を上げると、説明した人の隣にずっと座っていた人が立っていた。たしか、三人くらい座っていたのだが、この人だけメガネだったので、覚えていたんだと思う。

「公務員試験落ち?」
「あ、いえ、院試予定だったんですが、急遽就職することにしたんです」
「へぇ。まだ受ける前のところが多いだろうし、ふぅん。ま、ありがちなパターンだね。大学どこ?」

 私が答えると、苦笑された。

「んー、あんまり頭良くないの?」
「良くないですね。私は、どちらかというと、馬鹿です」
「説明会で、説明側の人間に、就活でそういうこと言っちゃダメだよ」

 その人が吹き出した。私は、そうだったのかとひとつ学んだ。
 メモしようかとすら思った。

「希望は営業? その大学からだと、その選択肢しかなさそうだけど」
「いえ! SEです!」
「ああ、そういえばあそこ、ちょこっと数学有名だよね。理系だったの?」
「心理学です、文学部です!」
「確かに院に行くイメージだね。え、でもさ、なんで心理学やってた人が、SEなの?」
「数学の先生が統計ソフト使うのとか向いてるし、英語の先生が英語系もおすすめだって行っていたので、SEはどうだろうかと思ったんです! HTMLは英語に似てました!」

 すごく適当な敬語だった自信がある。普段教授たちに対してこんな感じだったのと、就活サイトで口調を学ばなかったせいだろう。

「心理学科の統計ではHTMLをやるの?」
「いえ、某検定とかです。検査に使うから、実験でやったんです!」
「――へぇ。統計、本当にやるんだねぇ。某検定って知ってる?」
「知ってますよ。某実験でやりました」
「得意?」
「ソフト使うのはあんまり。ただ、手書きだとすっごく得意です」
「え?」
「はい?」
「ソフト何使ってたの? SSPI?」
「いえ、※SAIです。一応使えますけどねぇ、手書きの方が楽しいです!」
「……英語さぁ、なんか資格持ってる?」
「持ってません!」
「ああ、そう」
「あ! 英検3級を持ってました!」
「ちょ」

 その人がまた笑い出した。私は当時知らなかったのだ。
 英語検定はたとえ一級であろうとも、就活の採用には無関係だったことを。
 英検じゃだめらしいのだ。数学検定とかもダメらしい。

「そうだなぁ、どのくらい英語できる自信ある?」
「実は英語大っ嫌いで、全くないんです。あと、このまえ、TOEICっていうのを受けました! 受けることすら嫌だけど、就職する時にあったほうがいいって!」
「おい」

 はじめて具体的に突っ込まれた瞬間である。
 その人は、そこから終始笑っていた。

「心理学って人の心分かるの?」
「全くわからないです。わかるとか、デマです!」
「そうなんだ。じゃあ沢山の人の質問の答えから、みんなの気持ちを知るのもできない?」
「できないですね。『そうかもしれない』っていうのは、分かりますけど」
「ほう。なるほどねぇ。ちなみに、今の僕の質問、何が聞きたかったかわかる?」
「え? 心理学は人の気持ちがわかるかですよね?」
「違うよ。馬鹿だね、本当。マーケティングの話だから!」
「なっ、え!? マーケティングって、さっきの説明の!? もっと難しい内容でした!」
「難しいって、何が?」

 私はメモを取ったため覚えていた事柄を熱弁した。
 するとその人が吹き出した。

「確かにものすごくメモとってたよね。一番会場で、君がとってた。何者かと思って話しかけんだよ、それで」
「あ、ひいちゃったんですね……そっか、説明会は、メモ、とっちゃダメなんですね!」
「違うって。とったほうがいいんだよ。え、何? 説明会いったことないの?」
「はい。初めて来たんです。だから、ここが三年生が来るところだって知らなくて。ホームページに次は、そう書いておいて欲しいです。恥ずかしい!」
「検討してみるよ。ホームページといえば、HTMLは何で知ったの?」
「サイトを作ったことがあって」

 現在進行形であることは言わなかった。

「見た目に反して、インドアなの?」
「見た目も含めてインドアです! サークルがフットサルで遊んでただけです!」
「教えてあげる。サークルがフットサルって所までは言っていい。けど、遊んでたって、言っちゃダメ。落ちるよ」
「え」
「外交的で明るいっていう風に持っていくんだよ。そういうネタは、ね」
「ありがとうございます!」

 私は非常に感謝した。

「本気で就活初めてなんだね。他の応募とかはしてるの?」
「今日来てみて、全部三年生のだって分かったから、四年生の院試落ちの人を採用するらしい企業があるって聞いたので、それまで待ってみます! 秋までもうやりません!」
「ほう。頭がいいのか悪いのかよく分からないな、君。面白いから、履歴書と成績証明書見せて」
「あ、はい!」

 それを見ると、少しだけその人の表情が苦笑に変わった。

「君、嘘つきだな。英語の成績いいじゃないか」
「うちの大学、教科書買うと単位くれるから、あんまり授業に人が来ないんです。私は行ってたから、成績良いです!」
「それも今後二度と言わないように気をつけてね」
「は、はい!」
「確かにね、理系の一部の学部が有名なだけだしなぁ。あと、院志望なのもわかる。それと、統計に関しては、本当みたいだ。そこは嘘じゃないな」
「昔から数学は好きなんです」
「だけど話しぶりからして、君は理系じゃないし、論理的でもないなぁ」
「理系じゃないですもん。数学が好きなだけです。当たると面白いじゃないですか!」
「そういうタイプには、初めて会ったよ」

 そんなやりとりをしていたら、ディスカッションの時間が来た。




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