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【66】瞳
しおりを挟む次に目を覚ますと豪華なお部屋のベッドの上だった。多分一度起きて、車を降りたような気もするが、なんだか気づいたら寝ていた。もう日が高いというか夕方のような気がして時計を見ると、午後四時だった。面会に行かなければ!
目を覚まして、階段をとりあえず降りてみた。
人気が下にあるように思えたのだ。
「あ、おはよう!」
下には佳奈ちゃんがいた。病院行くからお風呂に入ってきなよと言われたのでそうした。終わってから適当に服を着て化粧をした。私は佳奈ちゃんに教えてもらって、病院への行き方を覚えた。徒歩で行ける距離だった。私たちの宿泊が決定した日は、荷物があるから車だったのだろう。
「失礼しまーす」
佳奈ちゃんがそう言って病室に入った。私も続いて入った。
ベッドを少し起こした鏡花院先生は、広げていた英字の資料から顔を上げた。
「ああ、来てくれたんだ。ありがとう」
いつも通りの笑顔だった。
私も笑っておいた。佳奈ちゃんはそんな私たちを何度か見たあと、ちょっと食材を買いに行ってくるので三時間ほどいなくなりますと言って、どこかへ行った。三時間後は、この病院の面会終了時間だ。
笑顔で見送ったあと、扉が閉まるのを見てから、何とはなしに視線を戻し、硬直した。
人を射殺すとか、凍てつかせるとか、そういう目ってこれだなという目で鏡花院先生が私を見ていたのだ。口元にだけ、うっすらと笑みが浮かんでいた。
「――雛辻さん、昨日の件で一つ良いかな」
「なんですか?」
「どうして俺が、君がスカーフ巻き出してしばらくしてから、佳奈ちゃんに連絡とりたくなったけどできなくて凹んでたと思ったの?」
「……」
「教えて」
「私の自殺未遂があったからです」
「心配で佳奈ちゃんに見に行って欲しいのにできなかったって意味じゃないよね?」
「……」
「質問者には解答してくれるんじゃないの? 雛辻名探偵」
かもなぁかもなぁと思っていたけど言うのをすごく迷っていたけど言ってみた。
「――まず、出会ったあと、私のお部屋に行ってくださいって言って、帰ってきてもらった結果、七輪の話を先生は聞きました。なので佳奈ちゃんに本当は私の彼氏からの話だったのだと伝えます。すると実は上村先生のこととして感触探ったのと、あとは雛辻名探偵と鏡花院先生の間には何もないのか、佳奈ちゃんは確認できたので、セフレならいけそうだと踏みます。本命は鏡花院先生だったのです。そこで佳奈ちゃんは、鏡花院先生にセフレでもいいから付き合って欲しい的なことをお願いします。普段は断る先生ですが、先生はその時、とっても欲求不満だったと思います。結果、OKを出しました。解消後、すっきりした先生は、すっかりこの件を忘れてました。さて、これを前提に回答しますが、先生は、まぁようするに目の前で死んだり死にかけたりそういうのを具体的に見るか聞くと、性衝動が起こるタイプであり、私の首の時も同じ現象で、佳奈ちゃんとヤりたかったけど、佳奈ちゃんは既に上村先生と付き合っているので、さすがにそれは申し訳ないということで、一見凹んだように見える、欲求不満の数日間が続いたのだと考えられます。自分じゃなく他人を切り刻みたいとはっきりと分かった理由がこれだと考えられます。きっと自分を切っても、興奮しなかったか、切る気すら起きなかったのでしょう。エロスとタナトスはメジャーなものですが、ここまで密接な例は中々少なく、しかもその上、自殺関連のみに強迫的なほどの関心がわく。ただし別に、自殺者や未遂者、自傷癖がある人間が好きなわけではなくて、そこに、自殺や未遂や自傷という行為がある点、それが先生の性衝動を喚起させるようです。まぁ自傷は含まれなさそうですね。なるべく完全に自殺して一回でいなくなるか、完全な自殺を図るのに失敗しちゃった話を聞くと、なぜなのか先生は大興奮してしまう感じなのではないかと思います。可能な限り本人の口、その近しい人間から聞きたい。可能であれば、自分の手元にデータがある人間の。死体にはあんまり実は興味がない。かと言って、死にたい死にたいって言葉にも興味がない。前に言っていた死の直前と直後が気になるのは間違いないですが、先生の場合は、データを取ってその人間が死んだら終わりです。その後欲求不満を吐き出して、スッキリって感じではないかと思いました!」
「――その首の時、数日後俺は一体どうやって欲求を解消したとお考えですか?」
「秋永先生をお食事に誘ったのかなぁと想像しております」
「――いつからこのような解答をお考えだったんですか?」
「瞬間瞬間言葉の節々で、ふとなんとなーく考えることはあっても、あんまり興味ないので忘れてしまって、なので、いつからと言われても困ります。正直、この解答は今考えたとしか言えない程度に、ぼーっとふと思いつくことがあっても忘れていて、いま形にしてみました。聞かれそうなので言いますが、忘れた理由は決して防衛規制や健忘、無関心などではなく、事実でもそうでなくても、言われたら気分が悪くなるだろうし、怒られるだろうと思い、私は意図的に忘れていたような気がします」
「――へぇ」
「なにか飲みものでも――」
「そこの冷蔵庫に珈琲入ってるから俺にも一つとって」
「ああ、はい」
私はブラック無糖の缶を二つ取り出して、先生のベッドへ歩み寄った。
冷蔵庫が付いている病院は、多いのだろうか?
かなりお高い部屋なのだろうか?
「缶開けますか?」
「うん、お願い」
私は自分の方を棚に置き、もう一つを片手で持って片手で開けた。
その両手がふさがった瞬間、左手首をぎゅっと握られ、驚いたら引っ張られた。
顔を上げると先程よりも冷たい笑顔で私を見ている先生が視界に入った。
缶が床に落ちた。
その音に床へと視線を向けようとすると、再度引っ張られた。
ちらりと先生を一瞥すると、嘲笑するような顔をされた。
「逃がさないから」
「……」
「――怖いなぁ、雛辻さんは」
「ごめんなさい、怒らせたかったわけじゃなくて――」
「分かってるよ。あと、別に俺は怒ってない。ただ、いくつか聞いても良い?」
「なんでしょうか?」
「なぜ自殺者や未遂者自身は性衝動を喚起する対象ではないって思ったの?」
「好きな人を自殺に追い込んだり、未遂に追い込んだりするのが好きには思えなくて。逆にそう言う人間にばかり惹かれるようにも思えません。なので、中身ではなくて、外側なのかなと。自殺衝動っていう概念」
「――俺が佳奈ちゃんと寝たと考えた時、どんな気分だった?」
「上村先生には言わない方が良いかなぁと」
「――MMPIの先生とのお食事についての時の気分は?」
「年代と、あの先生も国内で、先生や政宗さんのもの等に詳しいそうなので、お三方知り合いなのかなと」
「本当に、昨日か今日、考えたんだね」
「はい」
「だけどそうじゃない、俺が言いたいことは。分かる?」
「え? すみません」
「――ショックだったかって聞いてるんだよ」
先生が私の手首を握る指に力を込めた。
思わず息を飲むと、先生は笑み混じりの短い息をはいた。
変わらず顔は残酷なままだ。私は身動き一つできなくなった。
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