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第2章 声だけカワイイ俺は過保護な元従者と新たな国へ
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落ち着いて話ができるところに行こう。
そう言われ、連れていかれた先は、俺が元々目指していた書庫だった。
扉はなく、壁がアーチ状にくり抜かれていて、そこから出入りできるようになっているらしい。
中は圧巻の景色。
見渡す限り本、本、本で。天井まで届きそうな巨大な本棚が、広いはずの室内に、所狭しと並んでいる。一生かけても読み切れないくらいの大量の本が、この書庫にはあった。
ミリーは躊躇いなく入っていく。
俺は彼女の後を追うものの、正直戸惑っていた。ここ、本当に「落ち着いて話ができるところ」か?
前世の記憶が『図書館や書庫では私語はなるべく控えるもの』と言っている。勿論、この世界で生きている俺も、そういう認識なんだけど。
第一、ここは無人ではない。中庭ほどじゃないが、他の【鍵持ち】たちがいる。
こんなに静かな場所では、小さな話し声でも響くだろうし。話したこと、全部丸聞こえになってしまうのでは。
ふと、俺は違和感を覚える。
……なんだろう。やけに静かというか。静かすぎる……?
そういえば、歩いているのに足音が響かない。それに、衣擦れの音もしていないような。
前を歩いていたミリーが立ち止まるのが見えた。
閲覧用らしきテーブル席の1つに座った彼女は、手招きで俺を呼ぶ。
そこで話すのか?
近づいて、怪訝な顔で向かいの席に腰を下ろすと。
ふわり、何かに覆われる感覚がした。馴染みのある、この感覚は――
「……【防音】の結界?」
「そう! もう【ガイド】から説明を受けたかな? ここは〈音無しの書庫〉。ちょっとした小さな音くらいなら、全部魔法で吸収されちゃう部屋なの。声を抑えずに喋ったり、足を踏み鳴らしたりすれば、普通に聞こえるけどねー。あと、席に座ると、こんなふうに周りに【防音】の結界が展開されるんだ。だから、座った状態なら会話しても外に声は漏れないの! ね、落ち着いて話をするのに最適でしょー?」
そう言って、ミリーは改めるように背筋を伸ばした。
「それじゃ、さっきの話の続きね! 手短に言うなら、あなたに私の同僚として働いてほしい、ってとこかな。仕事内容は、アルベルト様っていう侯爵子息のお世話係で――」
俺が微妙な顔をした途端、彼女はあわあわと焦りだす。
「と、ととりあえず、最後まで話を聞いて!? 私は、新しい人を雇うなら、あなたしかいないって思ってる。その理由を説明するから!」
厄介ごとの気配しかしないんだが。
仕方なく目で先を促すと、ミリーはこほんと咳払いして、
「その、アルベルト様はね、実は大の男嫌いなんだ。……ああ、でも別に女好きってわけじゃないんだよ? 男性が特に駄目ってだけで……要するに、人間不信なのよね」
悲しそうに眉を下げ、続ける。
「でも、私的にはやっぱり男手が欲しくて。――そこで、クラヴィス。あなたよ。その超絶可愛い声をもってるあなたなら、使用人に紛れていても絶対バレない。私はね、そう確信してるんだっ!」
キラッキラの笑顔で言われるが……ちょっと待ってほしい。
「無理に決まってるだろ。どういう感覚してんだ。声はともかく、俺はどう見ても男そのものだぞ」
明らかな人選ミスである。血迷ったとしか思えない。
「男を雇いたいなら、もっと女装が似合いそうな線が細いやつとか、童顔なやつを探せよ。多少声が低くてもそれなら誤魔化せるだろ」
「そりゃあ、そんな人がいたら、クラヴィスに言われるまでもなくスカウトしてるよ。でも、こんな場所にそう都合よく現れてくれないし……」
「……こんな場所? どういうこと?」
「ん? ああ、アルベルト様ね、この〈標の塔〉に住んでるの」
「はあ?」
そう言われ、連れていかれた先は、俺が元々目指していた書庫だった。
扉はなく、壁がアーチ状にくり抜かれていて、そこから出入りできるようになっているらしい。
中は圧巻の景色。
見渡す限り本、本、本で。天井まで届きそうな巨大な本棚が、広いはずの室内に、所狭しと並んでいる。一生かけても読み切れないくらいの大量の本が、この書庫にはあった。
ミリーは躊躇いなく入っていく。
俺は彼女の後を追うものの、正直戸惑っていた。ここ、本当に「落ち着いて話ができるところ」か?
前世の記憶が『図書館や書庫では私語はなるべく控えるもの』と言っている。勿論、この世界で生きている俺も、そういう認識なんだけど。
第一、ここは無人ではない。中庭ほどじゃないが、他の【鍵持ち】たちがいる。
こんなに静かな場所では、小さな話し声でも響くだろうし。話したこと、全部丸聞こえになってしまうのでは。
ふと、俺は違和感を覚える。
……なんだろう。やけに静かというか。静かすぎる……?
そういえば、歩いているのに足音が響かない。それに、衣擦れの音もしていないような。
前を歩いていたミリーが立ち止まるのが見えた。
閲覧用らしきテーブル席の1つに座った彼女は、手招きで俺を呼ぶ。
そこで話すのか?
近づいて、怪訝な顔で向かいの席に腰を下ろすと。
ふわり、何かに覆われる感覚がした。馴染みのある、この感覚は――
「……【防音】の結界?」
「そう! もう【ガイド】から説明を受けたかな? ここは〈音無しの書庫〉。ちょっとした小さな音くらいなら、全部魔法で吸収されちゃう部屋なの。声を抑えずに喋ったり、足を踏み鳴らしたりすれば、普通に聞こえるけどねー。あと、席に座ると、こんなふうに周りに【防音】の結界が展開されるんだ。だから、座った状態なら会話しても外に声は漏れないの! ね、落ち着いて話をするのに最適でしょー?」
そう言って、ミリーは改めるように背筋を伸ばした。
「それじゃ、さっきの話の続きね! 手短に言うなら、あなたに私の同僚として働いてほしい、ってとこかな。仕事内容は、アルベルト様っていう侯爵子息のお世話係で――」
俺が微妙な顔をした途端、彼女はあわあわと焦りだす。
「と、ととりあえず、最後まで話を聞いて!? 私は、新しい人を雇うなら、あなたしかいないって思ってる。その理由を説明するから!」
厄介ごとの気配しかしないんだが。
仕方なく目で先を促すと、ミリーはこほんと咳払いして、
「その、アルベルト様はね、実は大の男嫌いなんだ。……ああ、でも別に女好きってわけじゃないんだよ? 男性が特に駄目ってだけで……要するに、人間不信なのよね」
悲しそうに眉を下げ、続ける。
「でも、私的にはやっぱり男手が欲しくて。――そこで、クラヴィス。あなたよ。その超絶可愛い声をもってるあなたなら、使用人に紛れていても絶対バレない。私はね、そう確信してるんだっ!」
キラッキラの笑顔で言われるが……ちょっと待ってほしい。
「無理に決まってるだろ。どういう感覚してんだ。声はともかく、俺はどう見ても男そのものだぞ」
明らかな人選ミスである。血迷ったとしか思えない。
「男を雇いたいなら、もっと女装が似合いそうな線が細いやつとか、童顔なやつを探せよ。多少声が低くてもそれなら誤魔化せるだろ」
「そりゃあ、そんな人がいたら、クラヴィスに言われるまでもなくスカウトしてるよ。でも、こんな場所にそう都合よく現れてくれないし……」
「……こんな場所? どういうこと?」
「ん? ああ、アルベルト様ね、この〈標の塔〉に住んでるの」
「はあ?」
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