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第3章 声だけカワイイ俺と引きこもりの侯爵子息
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『ありがとう。クラヴィスの声を聞いたら、なんだか落ち着いてきたわ』
幼い頃。体調を崩して寝込んでいた母の部屋にこっそり忍び込み、枕元で歌を聞かせたことがあった。
ちゃんと寝てるかな、と軽い気持ちで顔を見に行ったものの、思いのほか弱っている姿を目にしてしまい、「何かしてあげなくては」とそう思ったのだ。
どうか早く良くなりますように――
祈りを込めて口ずさんだピアノ用の曲を、母は優しい顔で聞いてくれた。
とても喜んでくれていた母。
当たり前だった、あの笑顔を見なくなったのは、いつからだっただろう。
最後に会った母は笑っていたけれど。
その瞳の奥は、暗く淀んでいた。
『飲みなさい、クラヴィス』
半年ほど前。珍しく母から誘われたお茶の席。
俺の前に差し出されたのは、どう見ても普通じゃない液体の入ったティーカップだった。
傍に控えていたゼオに止められるまでもなく、飲んではいけないものだと理解した。
地獄のような、長い長い沈黙が続いた後。
いつまでたっても口をつけない俺に母はとうとう怒りだし、暴れて、やがて騒ぎを聞きつけてやってきた他の使用人たちにより母は取り押さえられ、俺は、事なきを得たけれど。
母の行動の真意も、飲まされそうになったものの正体も、結局何も分からないまま、母は父によって子爵家の持つ別荘に送られ療養することになった。
今なら分かる。
あれは、父が俺に飲ませようと手に入れた薬だったのだろう。
上手くいけば声帯を変えられる薬。
飲めば死亡する確率が高く、父が俺に飲ませるのを断念した薬。
それを母は――俺に飲ませようとした。
死んでもいいから。
ほんのわずかでも、声が変わる可能性にかけて。
疾うにこの声の俺は、母にとって、いらないモノになっていたのだ。
俺は静かに目を伏せる。
一度息を整えて、朗読を再開する。
大好きだった人たちを散々苦しめてきたこの声で、今度はアルベルトの求めるまま、彼の望みを叶えていく。
いつか、真実を知れば、彼も俺に嫌悪の眼差しを向けてくるのかもしれない。
その時はお望み通り目の前から消えてやるし、もう二度と関わらないと約束するから、どうにか俺のことを許してくれるといいのだけど。
あの人も――母も、幸せになってくれればいいと思う。
俺を忘れて心穏やかに過ごしてほしい。
俺は俺で、自分らしく生きられる道を探すから。
あなたはそんなこと望まないかもしれないけれど。
俺は、たとえこの先、一生この声のままだったとしても、
それでも生きていたいから。
あなたから貰ったこの尊い命を、
最後の最後まで大切にすることを、どうか、許して――――。
幼い頃。体調を崩して寝込んでいた母の部屋にこっそり忍び込み、枕元で歌を聞かせたことがあった。
ちゃんと寝てるかな、と軽い気持ちで顔を見に行ったものの、思いのほか弱っている姿を目にしてしまい、「何かしてあげなくては」とそう思ったのだ。
どうか早く良くなりますように――
祈りを込めて口ずさんだピアノ用の曲を、母は優しい顔で聞いてくれた。
とても喜んでくれていた母。
当たり前だった、あの笑顔を見なくなったのは、いつからだっただろう。
最後に会った母は笑っていたけれど。
その瞳の奥は、暗く淀んでいた。
『飲みなさい、クラヴィス』
半年ほど前。珍しく母から誘われたお茶の席。
俺の前に差し出されたのは、どう見ても普通じゃない液体の入ったティーカップだった。
傍に控えていたゼオに止められるまでもなく、飲んではいけないものだと理解した。
地獄のような、長い長い沈黙が続いた後。
いつまでたっても口をつけない俺に母はとうとう怒りだし、暴れて、やがて騒ぎを聞きつけてやってきた他の使用人たちにより母は取り押さえられ、俺は、事なきを得たけれど。
母の行動の真意も、飲まされそうになったものの正体も、結局何も分からないまま、母は父によって子爵家の持つ別荘に送られ療養することになった。
今なら分かる。
あれは、父が俺に飲ませようと手に入れた薬だったのだろう。
上手くいけば声帯を変えられる薬。
飲めば死亡する確率が高く、父が俺に飲ませるのを断念した薬。
それを母は――俺に飲ませようとした。
死んでもいいから。
ほんのわずかでも、声が変わる可能性にかけて。
疾うにこの声の俺は、母にとって、いらないモノになっていたのだ。
俺は静かに目を伏せる。
一度息を整えて、朗読を再開する。
大好きだった人たちを散々苦しめてきたこの声で、今度はアルベルトの求めるまま、彼の望みを叶えていく。
いつか、真実を知れば、彼も俺に嫌悪の眼差しを向けてくるのかもしれない。
その時はお望み通り目の前から消えてやるし、もう二度と関わらないと約束するから、どうにか俺のことを許してくれるといいのだけど。
あの人も――母も、幸せになってくれればいいと思う。
俺を忘れて心穏やかに過ごしてほしい。
俺は俺で、自分らしく生きられる道を探すから。
あなたはそんなこと望まないかもしれないけれど。
俺は、たとえこの先、一生この声のままだったとしても、
それでも生きていたいから。
あなたから貰ったこの尊い命を、
最後の最後まで大切にすることを、どうか、許して――――。
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