写真と巡る君との世界

四季秋葉

文字の大きさ
14 / 22
第二章 君が居た世界

13話

しおりを挟む


 頬杖を付きながら、じっと百瀬の横顔を眺める。長いまつげ、少し高い鼻、きれいな形をした薄い唇、風になびいているさらさらした髪。少しだけ、ほんの少しでも、この手を伸ばして触れることができたら、僕らの関係は変わるのだろうか。例えば、友人から恋人に。



(いや、僕は何を考えているんだ)



 頭を振り、余計なことを頭から追い出そうとする。けれど、それは無意味だったみたいだ。



「葵君? どうしたの?」



 百瀬が不思議そうに尋ねる。僕が急に頭なんか降ったからだろう。



「あ、えっと……急に虫の羽音がして」



 適当に考えた嘘で、その場をしのごうと考えた。案外上手く行ったようで、百瀬はまた目の前の課題と向き合った。だが僕の方は、さっき薄れた思いがまた強く感じられてきた。



「それより、わかんない所無いの?」



 今日の本来の目的は、百瀬を見ることじゃなく、百瀬に勉強を教えるためだ。その目的を忘れないように自分に言い聞かせながら、聞いてみる。



「あ、えっと……ここ解んないんだけど……」



 百瀬が苦戦していたであろう問題は、やっぱり応用問題だった。

 

「ここは、応用問題のところで……」



 僕が説明していくところを、百瀬は律儀にノートにメモしてまとめていく。



(こういうところも、律儀なんだな……)



 百瀬に教えながら、そう感じる。



「嗚呼、最後に酒木もだけど、百瀬も応用問題を繰り返し解けば、テストでも上手くいくと思うよ」



「えっ、本当!? 分かった、取り敢えず解いてみるね!」



 そう言うと、また百瀬は課題に向かった。その間、僕も確認のために計算してみる。



(うん、大丈夫、間違ってない)



「解けた!」



 僕が確認し終わると同時に、百瀬の嬉しそうな声が聞こえた。



「葵君、合ってるか見てくれる?」



 少し自信がないのか、控えめに言ってくる。僕が「分かった」と頷いて百瀬の席に近づくと、「わああ!」という声が耳元でした。何かあったのかと思い、百瀬の方に視線を向ける。



「おい、百瀬!? どうしたんだ!?」



 百瀬を見ると、頬を赤く染めていた。熱でもあるのかと思い、百瀬の額に少し触れる。



「百瀬、熱でもあるんじゃないか? 体調は?」



 額は、少し熱かった。ただ、高い熱ではなさそうだ。少し安堵しながら、もう一度百瀬の様子を見る。



 百瀬は、目を見開いて口を少し開けて驚いたような顔をしていた。後ろに何かあるのかと思い、後ろに振り向いてみるが、何もなかった。



「百瀬?」



 心配になってきたので、名前を読んでみる。



「あっ、うん! なに?」



「体調でも悪いのか? 頬が赤いけど」



「ううん! 全然平気!」



 百瀬は笑顔でいるが、不安でしかない。



「百瀬、今日はもう帰ろう。僕が家まで送っていくから」



「え!? 良いの?」



「最初に言っただろ? 帰りは送るって」



 僕は当然のようにそう言い、帰りの支度をしながら百瀬と話す。少し遅れて、百瀬も帰りの支度を始めた。



 僕はこの時改めて思っていた。無意識にやっていたが、百瀬の頬に触れたことを今更知った。



(……いや、あれは、熱の心配をしてやったんだ、気にしたら駄目だ)



 きっと、このときの僕も顔が赤かっただろう。百瀬を送ってから家に帰って、鏡を見ると、僕の顔も赤く染まっていた。



 こうして、百瀬との初日の勉強会は終わった。この後は、特に何事もなくゆっくり勉強に励んだ。そうして迎えたテスト。百瀬は「葵君に教えてもらったから大丈夫!」と言ってテストに挑んだ。



 結果は、上々だった。百瀬の苦手だった問題はテストでちゃんと解けたらしく、嬉しそうに喜んでいた。一方酒木は、勉強を怠っていたらしく、追試を受けることになり、僕に泣きついてきたが酒木自身の責任の為、僕は何もしなかった。「裏切り者!」と言われたが、僕は何も裏切ってはいない。



 そして、僕はまた放課後の教室に残っている。暖かくなってきたので、まだ教室内はオレンジ色に染められてはいない。



 僕は一人きりで百瀬を待っている。テストが終わったので、百瀬の我が儘を聞くことになっている。その為に僕は待っている。



 少し目を離して外を見ていると、ガラガラッという音が聞こえてきたので、僕はドアの方に視線を向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

処理中です...