写真と巡る君との世界

四季秋葉

文字の大きさ
19 / 22
第三章 桜色と白群

18話

しおりを挟む
  「さぁ、学校は具体的にどうなんだ?」

 「……はぁ……友達が、出来たんだ」

 キッチンの方で大きく驚く声と、父の大きく見開かれた目が視界の端に見えた。こんなに驚く父を見たのは初めてだ。それと同時に、質問攻めが始まるという緊張が頭の中を走った。

 「へぇ、どんな子なんだ? 名前は?」

 「……酒木颯人はやと。陽気な奴だよ」

 「そうか、その子も医者に?」

 始まった。父は僕のことを医者にしたいがために、僕の周りにも医者になりたいのかと聞いてくる。理由はよく分からないが、いい加減それも辞めてほしいものだ。

 それに、酒木はちゃんとやりたい仕事があるんだろう。そういった話はしたことがないから確実には分からないけど、僕の予想ではデザイン関係の仕事に興味がありそうだ。美的センスに長けている酒木なら、向いていそうな仕事である。

 「いや、違う」

 「ほぉ……どうして言い切れる?」

 「……何でもいいだろ。酒木の個人情報だ」

 「確かにな」

 ずっとニヤニヤしている父に気味悪さを覚えながら、再び背中と頭をソファに預ける。

 「じゃあ……入学式で一緒に写真を撮った女の子は?」

 「は!?」

 まさかここで百瀬の話題が出るとは、想定外だった。僕がそんな反応をすると思ってなかったんだろうか、父は一瞬固まっていたが、次の瞬間大笑いし始めた。

 「おいおい葵、よほどその子に惚れてるんだな!」

 「ふふふ、やっぱりねぇ」

 母まで会話に入ってきてしまった。こうなると思ってたから嫌だったのに。でも、ここまで来たらもう両親を欺けない。

 「葵、今度その子を連れてきなさい。それとお友達も」

 「いいわね! 是非会ってみたいわ」

 可愛い子だったしね! と褒める母に悪い気はしなかったが、勝手に話を進められては困る。

 「やめてくれよ」

 「なんだ葵、良いじゃないか。ただし、その子に夢中になって勉強を疎かにしないように。今の時期が大切なんだからな」

 わかったかと厳しく言う父に、僕は呆れた。

 僕なんかが医者になれるわけがないのに。父が示した道を、只々歩いているだけの僕が。

 やっぱり、自信が持てない。いよいよ明日、百瀬に告白しないといけないのに。僕なんかを、本当に百瀬は好きなんだろうか。自分ひとりでは何も決められない、意気地なしの僕のことを。

 「……わかってるよ」

 「……さぁ、ご飯が出来たわよ!」

 一気に冷めた空気を明るくしようとしてくれる母には、毎回感謝しかない。もし母が居なくなったら、僕は父と2人だけでやっていける自信はない。良くない方向へと真っ直ぐ進んでいく自信はあるけれど。

 「今日のご飯はなんだい?」

 「今日はピーマンの肉詰めよ。葵、好きだったでしょう?」

 「え? 嗚呼、確かに嫌いじゃないな」

 「ふふ、素直じゃないんだから」

 5分位しか父と話していないと思っていたのに、思ったより時間が過ぎていたみたいだ。

 それにしても、母が料理をすると毎回感心する。僕の料理とは大違いだ。僕は何時も適当に済ませるけど、母はきっちりと分量を計って健康を第一に考えている。僕からすれば、そんなに神経を使って料理をするほうが健康に害があるんじゃないかと思ってしまう。適当に生きている僕が言えたことではないかもしれないが。

 「さ、食べましょう」

 「「いただきます」」

 「……いただきます」

 久々に食べる母の料理は美味しかった。味付けも優しくて、一番はやっぱり彩りが良い。流石、看護師だ。

 ただ、黙々と箸を進めてみてもどうしても明日のことで頭が一杯になってしまう。

 酒木が選んでくれた服は、本当に僕に似合うのだろうか。

 明日、百瀬とどんな話をしたらいいのか。

 明日、僕は本当に百瀬に告白できるのか。

 もし振られたら、僕はこれからどうやって百瀬に接すればいいのか。

 悩みの種は尽きそうもない。

 「葵? そんなに思い詰めた顔してどうしたの」

 「え? 嗚呼、何でもないよ」

 本当に、両親には関係ないことだ。これは僕自身の問題なのだから。

 「ご飯美味しくなかった?」
 
 「いや、美味しかったよ……ちょっと考え事してて」

 「父さんと母さんには話しづらい事なのか?」

 今日に限って、やたら二人共話しかけてくる。それが悪いわけじゃないが、今日はそっとしておいてほしかった。

 「うん……僕自身の問題だからね」

 「……わかったわ。じゃあ、今日はご飯食べたらもう上に上がっちゃいなさい」
 
 「そうだな。その方がいい」

 何時もは何かと理由を聞き出すくせに、今日は何も言われない事に不信感を抱きながらも、僕はそうさせてもらうことにした。

 「ご馳走さまでした」

 「お粗末さまでした。ゆっくり休みなさいね」

 「明日からまた暫く家に帰れないと思う。夕飯は3人分作らなくていいからな」

 「わかったよ……じゃあ、おやすみ」

 おやすみという声を聞きながら、僕はリビングを後にした。

 階段を上りながら明日の事を考える。一段一段上るたびに、百瀬への想いと恐怖が増していく。部屋に着いたときには、もう限界だった。

 ベッドに倒れ込み、携帯を開いて電話帳を見る。一番最初に目に入った名前は、『酒木颯人』だった。

 今の時刻は20時過ぎ。

 こんな時間に電話なんかしたら、迷惑だろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

処理中です...