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第1章

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 三人とも頭を下げたままなので気まずい思いがして、どう話しかけたらいいか考えているうちに、小柄な女性が頭をあげて俺に話しかけてくる。
 眼鏡をかけ、金色の虹彩が印象的だった。

「まずは名乗りと謝罪をさせてください」
「それはいいけど、ひざまずくのはやめてほしい。話を聞きづらいから」
 少しそっけない言い方かなとも思ったが、どうやら俺はこの人たちに拉致されたらしいので、そのぐらいはかまわないだろうと思いなおした。

 三人はひざまずくのをやめ、すわりなおした。俺もその場にすわって話を聞く。
 その三人はオオアリクイの人がアリシア、アナウサギの人がアドラド、コキンメフクロウの人がアポとそれぞれ名乗った。そして三人ともセリアン教団に属する巫女なのだそうだ。

 そこまで聞いて俺はいくつかの質問をしたくなった。
 まずは今いる世界の確認だ。
「ここはどこなのですか。わたしのいた世界とは別の世界のようだけど」
「その通りです、ここはあなた様のいた世界とも、夢で見た世界とも異なる異世界です」
 アポさんはそう言う。

 (そうなのか!)
俺は色々ととまどった。夢の続きを見ているのかという疑いはあったが、それにしては夢とは違うはっきりとした現実感があった。とにかく異世界なのだという事は受け入れて、次の質問をした。

「セリアン教団とは?」
 セリアン教団というのはこの世界にあるいくつもの教団の一つで、動物をつかさどる神をあがたてまつるる人たち。巫女の役割というのは動物と人の仲立ちをして、互いのより幸福な関係を築くために働く事で、それぞれが決まった動物種を担当しているという話だった。
 そして前世で俺の後ろに突然オオアリクイが現れたのも、井戸に引きずり込まれ、ここまで連れてこられたのも、この人たちが持つ神から与えられた巫女の能力によるものというわけらしい。
 つまり今俺がいるのは、そんな特異な能力の持ち主がいる不思議世界という事になる。

「オオアリクイの姿で現れたのはその力を使ったからですか?」
「実際にやってみるね」
 そう言ったのはアドラドと名乗ったアナウサギの巫女。
 首までの短い金髪に桃色の虹彩、表情はすごく愛嬌がある。

 かぶっていたフードを外し、頭をむき出しにした。ウサギの耳がぴんと立っている。
 アリシアさんという名のオオアリクイの巫女が説明を始める。
 三人の中では一番背が高く、灰色のふさの混じった髪を胸のあたりまで伸ばし、虹彩は赤褐色、落ち着いた話し方だが、どこか力強さを感じる。
「私たちセリアンの巫女は修行によって一から七までの階梯かいていを昇っていきます」
「かいてい?」
「階段やはしごの事です。この場合は学びの段階という意味で使っています」
 なるほどと俺はうなずいたが、何となく心に引っかかるものがあった。だが今は、アリシアさんの話に集中する事にした。

 第一階梯ではほとんど人の姿で、このように耳だけ獣だったり、角やしっぽが生えていたりします。そして巫女見習の者はこの階梯に昇る事で、正式な巫女として認められます。それ以上の階梯に昇った巫女も、普段は第一階梯の姿をしている事が多いですね」
 そう言ってアドラドさんの方を見る。

 アドラドさんはうさ耳姿で手を振っている。すると突然、毛が生えて顔全体をおおった。にっこり笑った口からは。伸びた前歯が可愛らしくのぞいている。
「修行を積んで第二階梯に進むと、第一階梯より外形は動物の特徴が強くなります」
 頭蓋骨はヒトのものよりウサギの形に近くなり、上唇うわくちびるは縦に裂け、鼻の孔と合わせてY字型になり、左右にひげが伸びた、それは生物学用語で洞毛どうもうというヒトには存在しない毛なのだが、それがアドラドさんに生えている。
 頭部はウサギの形に近くなったが、両目が正面を向いているなどまだヒトらしさもある。全身に毛が生えているが頭部以外の体形はヒトとそれほど変わらない。

「巫女だったら誰でもここまではこれるよ」
 そう言ってアドラドさんは服を脱ぎ始めた。脱ぎ終わると体はさらに変化する。
 第三階梯に昇るらしい。
 そして脱いだ衣服は、どこかに消えてなくなってしまった。
 あれ、と俺は驚いたが、アドラドさんが話し始めたので、質問は後回しにした。

「さっきは耳と右手だけで顔も見せず失礼しました。改めてこの姿でご挨拶します」
 アドラドさんはふざけた口調でぺこりと頭を下げた。
 手足の指がヒトのものからウサギの形になり、指先からとがった爪が伸びている。そして頭部はさらにウサギに近くなり、両目は横を向いている。しかし、ヒトの脳をいれられるような大きさと形を保っていて、完全にウサギの形というわけではない。
「長く教団にいた巫女ならここまでは余裕、余裕だね」
 そう言いながらアドラドさんは足をあげて俺に見せる。
 (おお、ウサギの様に後足の指が四本だ)
 アドラドさんはくるりと一回転して、その姿を見せてくれた。小さなしっぽが可愛い。

「では次」
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