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第2章
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アポさんはしばらく落ちた野槌の上空で円を描いて飛んでいたが、こちらに戻ってくるとアリシアさんを降ろして言った。
「あの魔獣は崖の下で、木に突き刺さって身動きできない様子ですね。清めの儀式を行いましょう」
清めの儀式というのは教団が行う儀式のうち、世界の乱れを正すいくつかの儀式の総称で、この場合は「世界漏孔補綴」という神術で野槌を元の世界に戻し、世界の孔をふさぐのがその内容だそうだ。
「なので、アドラドと二人で崖の下に行ってきます」
「二人がかりの儀式なのですね」
俺はなにげなくそう言ったのだが、アポさんは少しあわてた様子でまばたきした。
「いえ、私は世界漏孔補綴の術を使えないのです。今後孔をふさぐ機会が多くなるはずなので、見習いです」
三人の中でその術が使えるのは、アドラドさんとアリシアさんの二人なのだそうだ。70以上の孔が開いたという話なので、人手が多い方がいいわけだ。
それにしても、もとの世界に送り返す前に少し調べられないものだろうか。できれば解剖したい。もちろん道具もないし、あの大きさの体を解剖できる技量が俺にあるわけでもないが、少し惜しい気がする。いいや、今はそんな場合ではないだろうと、俺は自分の気持ちを振り切った。
「じゃあちょっと行ってくるね」
そう言い残してアドラドさんは、アポさんにつかまって崖の下へと降りていく。
それを見送っていた俺はふと、「アナウサギのアナフサギ」というだじゃれを思いついた。
もちろん口に出して言ったりはしない。
だが恥ずかしくなった俺は、そばにいるアリシアさんから顔をそらして犬たちの方を見た。
犬たちは一か所に集まってすわり、おとなしく俺たちを見ている。敵意は感じられなかった。何か遠慮するようにこちらをうかがっている。
その可愛らしさにたまりかねた俺は
「おいで」
と呼びかけてしまった。
すると一番大きな犬が立ち上がって、ゆっくりとこちらに向かってきた。他の犬もその後に続く。
近づいてきた犬はそっと顔を寄せてくる。
俺はなじみのない犬と仲良くなるための手順をすっ飛ばして、その場にすわり犬に触れた。
そうしても大丈夫だという確信があった。内心からわき出て来る感情が、そう俺に告げていた。思った通りその犬は俺の顔をなめ、親愛の情を示してくれた。
他の犬たちも俺のそばによってくる。二頭の犬が争うように俺に鼻を突き出してくる。別の一頭はそばに立って尻尾を振り喜びの感情を示している。さらに別の一頭はぐるぐると俺の周囲を駆け回る。そして最後の一頭は気が付くと俺のふところに入り込んで甘えていた。俺の心はとろとろに溶けて地面に流れ出しそうだ。
そんな俺にアリシアさんが冷静な声で語りかける。
「その犬たちは、夢の世界で恵さんと関わりがあったのでしょう」
そうなのか。だが、この犬たちは夢も含めて俺の記憶にはない。転生前のまだ思い出していない記憶の中にはあるのだろうか。
「おそらくは、あの魔獣から恵さんを力づくででも引き離そうとして、襲撃の様な形になってしまったのではないでしょうか。見慣れぬ世界に来てしまって、混乱し余裕のない心情での行動だったのでしょう」
そう聞いて俺は犬たちをなで、ねぎらいの声をかける。
俺が月明りの下で、犬たちと交流をしている間に、アポさんとアドラドさんが戻ってきた。
清めの儀式はとどこおりなく終わったそうだ。俺は野槌と名付けたあの動物がもとの世界で安らかにすごせるよう、心の中で祈った。そしてとても気がかりになっている事を質問した。
「この犬たちも元の世界に返さなければいけませんか? できれば連れていきたいのだけれど」
あまり期待を持たずに質問したのだが、意外な返事が返ってきた。
「いいですよ」
「え、いいの?」
と俺は驚いた。。
「世界の孔をふさがなければならないのは、その場所では世界の理が乱れるからです。それを利用した魔法と呼ばれる術を使う魔法師という者どもがいます。あるいは先ほど実例を見たように、孔と一体化した魔獣と呼ばれる動物が生まれる事もあります。そのような存在を野放しにしてはいけない。それはわれらセリアン教団に限らず、すべての教団に共通の使命です」
アリシアさんは厳然と俺に告げ、それから口調を和らげて続けた。
「しかしきちんと制御され、悪用されないように管理されるのなら話は別です。この犬たちは恵さんを頭とあおいでいるようですから。手元に置いて正しく道を歩めるようにすればいいでしょう」
他の二人もうなずいてくれた。
「あの魔獣は崖の下で、木に突き刺さって身動きできない様子ですね。清めの儀式を行いましょう」
清めの儀式というのは教団が行う儀式のうち、世界の乱れを正すいくつかの儀式の総称で、この場合は「世界漏孔補綴」という神術で野槌を元の世界に戻し、世界の孔をふさぐのがその内容だそうだ。
「なので、アドラドと二人で崖の下に行ってきます」
「二人がかりの儀式なのですね」
俺はなにげなくそう言ったのだが、アポさんは少しあわてた様子でまばたきした。
「いえ、私は世界漏孔補綴の術を使えないのです。今後孔をふさぐ機会が多くなるはずなので、見習いです」
三人の中でその術が使えるのは、アドラドさんとアリシアさんの二人なのだそうだ。70以上の孔が開いたという話なので、人手が多い方がいいわけだ。
それにしても、もとの世界に送り返す前に少し調べられないものだろうか。できれば解剖したい。もちろん道具もないし、あの大きさの体を解剖できる技量が俺にあるわけでもないが、少し惜しい気がする。いいや、今はそんな場合ではないだろうと、俺は自分の気持ちを振り切った。
「じゃあちょっと行ってくるね」
そう言い残してアドラドさんは、アポさんにつかまって崖の下へと降りていく。
それを見送っていた俺はふと、「アナウサギのアナフサギ」というだじゃれを思いついた。
もちろん口に出して言ったりはしない。
だが恥ずかしくなった俺は、そばにいるアリシアさんから顔をそらして犬たちの方を見た。
犬たちは一か所に集まってすわり、おとなしく俺たちを見ている。敵意は感じられなかった。何か遠慮するようにこちらをうかがっている。
その可愛らしさにたまりかねた俺は
「おいで」
と呼びかけてしまった。
すると一番大きな犬が立ち上がって、ゆっくりとこちらに向かってきた。他の犬もその後に続く。
近づいてきた犬はそっと顔を寄せてくる。
俺はなじみのない犬と仲良くなるための手順をすっ飛ばして、その場にすわり犬に触れた。
そうしても大丈夫だという確信があった。内心からわき出て来る感情が、そう俺に告げていた。思った通りその犬は俺の顔をなめ、親愛の情を示してくれた。
他の犬たちも俺のそばによってくる。二頭の犬が争うように俺に鼻を突き出してくる。別の一頭はそばに立って尻尾を振り喜びの感情を示している。さらに別の一頭はぐるぐると俺の周囲を駆け回る。そして最後の一頭は気が付くと俺のふところに入り込んで甘えていた。俺の心はとろとろに溶けて地面に流れ出しそうだ。
そんな俺にアリシアさんが冷静な声で語りかける。
「その犬たちは、夢の世界で恵さんと関わりがあったのでしょう」
そうなのか。だが、この犬たちは夢も含めて俺の記憶にはない。転生前のまだ思い出していない記憶の中にはあるのだろうか。
「おそらくは、あの魔獣から恵さんを力づくででも引き離そうとして、襲撃の様な形になってしまったのではないでしょうか。見慣れぬ世界に来てしまって、混乱し余裕のない心情での行動だったのでしょう」
そう聞いて俺は犬たちをなで、ねぎらいの声をかける。
俺が月明りの下で、犬たちと交流をしている間に、アポさんとアドラドさんが戻ってきた。
清めの儀式はとどこおりなく終わったそうだ。俺は野槌と名付けたあの動物がもとの世界で安らかにすごせるよう、心の中で祈った。そしてとても気がかりになっている事を質問した。
「この犬たちも元の世界に返さなければいけませんか? できれば連れていきたいのだけれど」
あまり期待を持たずに質問したのだが、意外な返事が返ってきた。
「いいですよ」
「え、いいの?」
と俺は驚いた。。
「世界の孔をふさがなければならないのは、その場所では世界の理が乱れるからです。それを利用した魔法と呼ばれる術を使う魔法師という者どもがいます。あるいは先ほど実例を見たように、孔と一体化した魔獣と呼ばれる動物が生まれる事もあります。そのような存在を野放しにしてはいけない。それはわれらセリアン教団に限らず、すべての教団に共通の使命です」
アリシアさんは厳然と俺に告げ、それから口調を和らげて続けた。
「しかしきちんと制御され、悪用されないように管理されるのなら話は別です。この犬たちは恵さんを頭とあおいでいるようですから。手元に置いて正しく道を歩めるようにすればいいでしょう」
他の二人もうなずいてくれた。
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