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第2章
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深い眠りから目を覚ますと、すでに朝日で明るくなっていた。
俺は生まれ変わった新しい人生の様なすがすがしい気分で起き上がった。
ふと気が付くと、夜の間見張りに立っていてくれたアポさんがこちらを見つめている。
「おはようございます。恵さん」
「おはようございます。アポさん。何かありましたか?」
そう言って俺は目をこすった。
恵さんという言い方に何となく違和感があった。少し疑問を含んでいるような? だが、アポさんが俺をそう呼ぶのは初めてなので、そのせいなのかと思いなおした。
「いいえ、心配するような事は何もありませんでしたよ」
あたりを見まわすと、アドラドさんが火をたいていた。。六頭の犬たちはすわってこちらを見ている。アリシアさんが水の入った鍋を持って現れた。どうやら俺が一番最後まで目を覚まさなかったようだ。
少々恥ずかしい思いで、俺は立ち上がる。
「おはようございます」
とみんなにあいさつして回った。
アリシアさんは鍋に乾燥させた米の飯らしきものと刻んだ野草をいれて火にかける。
犬たちが集まってきた。楽しい一日の始まりだ。
犬たちには干し肉を与え、俺たちは鍋を囲んで粥で朝食をとる。
ちゃんと俺のぶんの椀と匙まで用意されていたのには恐縮した。それだけ入念に俺を迎える準備をしていたのだった。
朝食をとりながら、俺はアドラドさんに聞いた。
「アドラドさんはアナウサギの巫女ですよね」」
「そうだよ」
「カイウサギの巫女ではないのですか?」
カイウサギは野生のアナウサギが家畜化されたものだ。俺はセリアン教団の巫女がそれぞれ決まった動物種を担当していると聞いて、もう少し詳しく知りたいと思い、まずは野生種と家畜の場合がどうなっているか知りたくて、そんな質問をした。
「カイウサギの巫女ではないよ。それは恩師の担当だからね」
「なるほど。野生種と家畜は別の巫女が担当するのですね」
「うーん。そこはちょっと単純ではないね」
アドラドさんの説明によると、それぞれ巫女が担当する動物種を捧命種と呼ぶのだそうだ。
「動物と人の関係がよりよくなるための仲立ちをする。そのために人生を捧げるのがセリアン教団の巫女の役割」
アドラドさんは真剣に話す。
「そしてそれぞれ一つの動物種を一人の巫女が担当する。それがその巫女にとっての捧命種。基本的に一つの種を担当するのは一人の巫女。だけど、それでは動物種の数に対して、巫女の数が足りない」
それはそうだ。甲虫だけでも三十五万人以上、動物全体で百数十万人以上が必要になるだろう。
「だから、捧命種以外でも近縁の種も担当になる場合が多い。だけどそれ以外の種は『預かり』と呼んでいる。捧命種は死ぬまで変わらないけど、預かりはその後に別の巫女が担当する事もあるよ」
「そして巫女にとっては捧命種は特別な種、一つの捧命種はただ一人の巫女が担当する」
アドラドさんは繰り返す。だが、二つだけ例外があるのだそうだ。
「一つは師と弟子の場合。弟子が師の捧命種を継ぐと師は引退するんだけど、捧命種はそのままで、一つの種に二人の巫女がいる状態になるのさ」
引退後は、教団での役職を退くが巫女見習の教育は引き続いて行う人、助言者として教団に貢献する人、教団を離れて俗世で活動する人、隠遁してもっぱら動物と過ごす人、住まいを定めず放浪して行方が知れない人など様々だそうだ。
「もう一つの場合は、野生種と家畜の場合」
「家畜とそのもとになった野生種は生物学的には一つの種だけど、セリアン教団では例外的にそれぞれ一人ずつ巫女が担当するのを認めているんだよ。一人で兼ねる人もいるけど、恩師と私はそれぞれカイウサギとアナウサギを担当すると決めたのさ」
セリアンの巫女さんについての新しい知識を得た俺は興味津々の様子だったのだろう。アドラドさんは愉快そうに言った。
「色々聞きたい事はあるだろうけど、すぐに出発しなければいけないから、一つだけ教えるね」
そう言ってアドラドさんが両の手のひらを上に向けると、手品の様にアナウサギがそこに現れた。
そのアナウサギは俺を恐れる様子もなく、ぺこりとお辞儀のような仕草をした。
(おおお!)
あまりの可愛さに、俺はその場に倒れて死にそうになる。
「この子は私の『分け身』。正式名称は分能思通個体だけど、まあその名前を使う巫女はごくわずかで、みんな分け身と呼んでるね」
アナウサギはアドラドさんの手から降りると、遠く離れずに周囲をちょこちょこと歩き回る。食事の終わった犬たちはアナウサギを見たが、おとなしくその場にいる。
「捧命種の中から選んで、心身を一部共有する個体が分け身で、知性やその巫女の能力をある程度持っているんだよ。言葉がわかるし、心が通い合うのでいちいち口で語りかける必要もない、片方が食事をしていればもう片方は何を食べなくても生きていける。私たちはそういう関係なのさ」
携界収容に使う空間は複数持てるが、セリアンの巫女は一つ特別な空間、懐担空間を持っていて、そこで分け身を抱ける。その中で分け身は快適に過ごしつつ、巫女を通じて外界の様子を知る事も出来るのだそうだ。
「巫女さんはみんな分け身を持っているんですか」
「一人一体は必ず持っているよ。上限はないから数十万の分け身を持っている人もいるね。私は二体いるけど、一体は恩師に預けてるよ」
「アポさんやアリシアさんも連れてきているんですか?」
「私は三体連れています」
と、アポさん。
「二体いますが、今は他の巫女に預かってもらっています。なにしろここは環境がかなり異なりますから」
と、アリシアさん。
アドラドさんは再びアナウサギを手に乗せると、懐担空間へ移した。
「さて、そろそろ出発だね」
俺は生まれ変わった新しい人生の様なすがすがしい気分で起き上がった。
ふと気が付くと、夜の間見張りに立っていてくれたアポさんがこちらを見つめている。
「おはようございます。恵さん」
「おはようございます。アポさん。何かありましたか?」
そう言って俺は目をこすった。
恵さんという言い方に何となく違和感があった。少し疑問を含んでいるような? だが、アポさんが俺をそう呼ぶのは初めてなので、そのせいなのかと思いなおした。
「いいえ、心配するような事は何もありませんでしたよ」
あたりを見まわすと、アドラドさんが火をたいていた。。六頭の犬たちはすわってこちらを見ている。アリシアさんが水の入った鍋を持って現れた。どうやら俺が一番最後まで目を覚まさなかったようだ。
少々恥ずかしい思いで、俺は立ち上がる。
「おはようございます」
とみんなにあいさつして回った。
アリシアさんは鍋に乾燥させた米の飯らしきものと刻んだ野草をいれて火にかける。
犬たちが集まってきた。楽しい一日の始まりだ。
犬たちには干し肉を与え、俺たちは鍋を囲んで粥で朝食をとる。
ちゃんと俺のぶんの椀と匙まで用意されていたのには恐縮した。それだけ入念に俺を迎える準備をしていたのだった。
朝食をとりながら、俺はアドラドさんに聞いた。
「アドラドさんはアナウサギの巫女ですよね」」
「そうだよ」
「カイウサギの巫女ではないのですか?」
カイウサギは野生のアナウサギが家畜化されたものだ。俺はセリアン教団の巫女がそれぞれ決まった動物種を担当していると聞いて、もう少し詳しく知りたいと思い、まずは野生種と家畜の場合がどうなっているか知りたくて、そんな質問をした。
「カイウサギの巫女ではないよ。それは恩師の担当だからね」
「なるほど。野生種と家畜は別の巫女が担当するのですね」
「うーん。そこはちょっと単純ではないね」
アドラドさんの説明によると、それぞれ巫女が担当する動物種を捧命種と呼ぶのだそうだ。
「動物と人の関係がよりよくなるための仲立ちをする。そのために人生を捧げるのがセリアン教団の巫女の役割」
アドラドさんは真剣に話す。
「そしてそれぞれ一つの動物種を一人の巫女が担当する。それがその巫女にとっての捧命種。基本的に一つの種を担当するのは一人の巫女。だけど、それでは動物種の数に対して、巫女の数が足りない」
それはそうだ。甲虫だけでも三十五万人以上、動物全体で百数十万人以上が必要になるだろう。
「だから、捧命種以外でも近縁の種も担当になる場合が多い。だけどそれ以外の種は『預かり』と呼んでいる。捧命種は死ぬまで変わらないけど、預かりはその後に別の巫女が担当する事もあるよ」
「そして巫女にとっては捧命種は特別な種、一つの捧命種はただ一人の巫女が担当する」
アドラドさんは繰り返す。だが、二つだけ例外があるのだそうだ。
「一つは師と弟子の場合。弟子が師の捧命種を継ぐと師は引退するんだけど、捧命種はそのままで、一つの種に二人の巫女がいる状態になるのさ」
引退後は、教団での役職を退くが巫女見習の教育は引き続いて行う人、助言者として教団に貢献する人、教団を離れて俗世で活動する人、隠遁してもっぱら動物と過ごす人、住まいを定めず放浪して行方が知れない人など様々だそうだ。
「もう一つの場合は、野生種と家畜の場合」
「家畜とそのもとになった野生種は生物学的には一つの種だけど、セリアン教団では例外的にそれぞれ一人ずつ巫女が担当するのを認めているんだよ。一人で兼ねる人もいるけど、恩師と私はそれぞれカイウサギとアナウサギを担当すると決めたのさ」
セリアンの巫女さんについての新しい知識を得た俺は興味津々の様子だったのだろう。アドラドさんは愉快そうに言った。
「色々聞きたい事はあるだろうけど、すぐに出発しなければいけないから、一つだけ教えるね」
そう言ってアドラドさんが両の手のひらを上に向けると、手品の様にアナウサギがそこに現れた。
そのアナウサギは俺を恐れる様子もなく、ぺこりとお辞儀のような仕草をした。
(おおお!)
あまりの可愛さに、俺はその場に倒れて死にそうになる。
「この子は私の『分け身』。正式名称は分能思通個体だけど、まあその名前を使う巫女はごくわずかで、みんな分け身と呼んでるね」
アナウサギはアドラドさんの手から降りると、遠く離れずに周囲をちょこちょこと歩き回る。食事の終わった犬たちはアナウサギを見たが、おとなしくその場にいる。
「捧命種の中から選んで、心身を一部共有する個体が分け身で、知性やその巫女の能力をある程度持っているんだよ。言葉がわかるし、心が通い合うのでいちいち口で語りかける必要もない、片方が食事をしていればもう片方は何を食べなくても生きていける。私たちはそういう関係なのさ」
携界収容に使う空間は複数持てるが、セリアンの巫女は一つ特別な空間、懐担空間を持っていて、そこで分け身を抱ける。その中で分け身は快適に過ごしつつ、巫女を通じて外界の様子を知る事も出来るのだそうだ。
「巫女さんはみんな分け身を持っているんですか」
「一人一体は必ず持っているよ。上限はないから数十万の分け身を持っている人もいるね。私は二体いるけど、一体は恩師に預けてるよ」
「アポさんやアリシアさんも連れてきているんですか?」
「私は三体連れています」
と、アポさん。
「二体いますが、今は他の巫女に預かってもらっています。なにしろここは環境がかなり異なりますから」
と、アリシアさん。
アドラドさんは再びアナウサギを手に乗せると、懐担空間へ移した。
「さて、そろそろ出発だね」
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