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第2章
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朝食後、俺たちは北へと進む。
アポさんがしばらく上空を飛んで周囲の地形を確かめ、その情報に基づいて進路を決めた。
アドラドさんが先頭を歩き、その後ろを五郎が元気よくついて行き、俺が後に続く。残りの犬たちは少し離れて俺を囲んで移動。アリシアさんがアポさんを背負い、アポさんは眠りについている。
巫女さんたちは旅なれていた。一定の歩調で、滞りなく進む。通過困難な地形は事前の偵察で避け、最小の労力で道なき山を歩く。迷う事はなく、危険な獣との遭遇もない。だが、問題は俺だった。山歩きにも、巫女さんにもらったはき物にもなれていない俺は、明らかに一行の移動速度を落とす存在だった。最初はさわやかな春の山の気持ちよさに足取り軽く歩いていたのだが、しだいにそれはゆっくりとした歩みになった。後ろから俺を見ているアリシアさんが、アドラドさんに声をかけて休憩をした。おそらく当初の計画に比べてかなり遅れているはずだ。俺は申し訳ないと思ったが、そうしてくれなければ歩けなくなるかもしれない。
そうして何度目かの休憩で、アリシアさんはアポさんをおいて水の補給にいき、アドラドさんは周囲の危険をさぐり、この先の道を確かめるために離れていた。
山歩きをしない俺にはよくわからないが、そこは尾根という場所なのだろうか。草の生えたゆるやかな斜面に挟まれた高い部分で、まばらに生えている松の木の木陰でただぼんやりと休んでいたのだが、そのうちに西南の方から何かが接近する気配を感じた。犬や野槌に出会ったときと同じく、それは音や臭いなどの感覚によるものではなく、何かがこちらに来る事が意識の中でわかる。大きさは人ぐらい。やはり人が歩くぐらいの速度でこちらに向かってくる。理由はわからないが、俺にはそれが認識できる。やがて犬たちも反応するが、人かもしれないので俺はなだめた。
しばらくそちらの方をうかがっていると、アドラドさんとアリシアさんが戻ってきた。
「西南のほうから来る者がいるよ」
アドラドさんはそう言ってから付け加えた。
「すでに気が付いてるようだね」
俺はうなずいた。
「危険はなさそうだと思うのだけれど、どう思う?」
「うーん。わからない。向こうもどうするか決めていなくて、様子を見ながら近づいているのかもしれないね」
俺たちはしばらくそのものが来るのを待ち受けた。
近づくにつれて、それが人であり、そしてセリアンの巫女であると俺にはわかった。
なぜなら一つの体に人と動物の両方が共存しているからだ。そしてその獣の種類も感じられるようになっていた。それは哺乳類であり、食肉目、そしてイヌ科。そこまでわかったところでその人物はここより低い斜面にある目の前の茂みの中まで来ていた。
その時俺にはそれが何の動物か分かった。
「カニクイイヌだ」
「きゃあっ!」
俺は自分で思っていたより大きな声を出していたらしい。
セリアンの巫女さんたちと同じ旅装束をしたその人物は驚いて叫びながら尻餅をつき、茂みから転がり出てしまった。
驚かせるつもりはなかったので、すまなく思いながら近寄って、その人が起き上がるのに手を貸した。
だが、俺の手を取るとその女性は人から獣へと姿を変える。
予想の通りそれはカニクイイヌの姿だった。
そしてそのカニクイイヌの巫女と思われる女性は自身に起こった急な変化のため、さらに驚いて、今度は前のめりに転んでしまった。
重ね重ねに迷惑をかけてしまった事をわびながらも、カニクイイヌの姿の巫女さんに見とれてしまう。
俺は生きたコキンメフクロウにフクロウカフェで触れた体験がある。野生のアナウサギではないが、家畜のカイウサギには何度も触れた、オオアリクイに触れた事はないが、動物園で飼われているのを間近で見た事はある。
だが、カニクイイヌを見た事はなかった。
カニクイイヌは俺のいた世界では、南米に住んでいる。和名にイヌとついていて、イヌ科ではあるのだが、それほど犬に近いわけではなく、コヨーテのようにイヌ属に含まれる種よりも犬から遠く。カニクイイヌ属という別の属だ。カニも食べるがそればかりではなく、他にも色々食べる雑食性の動物だ。
そして可愛い。
くりかえすが、俺はカニクイイヌを実際に見た事はない。日本の動物園にはいなかったのだ。それが今、すぐそばにいる。狐ぐらいの大きさだが、比べると足は短め。顔つきは狐にも犬にも似ている印象を与える。
巫女さんが姿を変えたものだと知っていても可愛さはつのる。
そうやって手を取ったまま見とれていると、後ろからアリシアさんたちがやってきて俺を引き離した。
すわりなおして、あいさつと互いの紹介を行った。
「チカといいます」
そのカニクイイヌの巫女さんはそう名乗った。
アリシアさんとは顔見知りの仲らしい。
アポさんがしばらく上空を飛んで周囲の地形を確かめ、その情報に基づいて進路を決めた。
アドラドさんが先頭を歩き、その後ろを五郎が元気よくついて行き、俺が後に続く。残りの犬たちは少し離れて俺を囲んで移動。アリシアさんがアポさんを背負い、アポさんは眠りについている。
巫女さんたちは旅なれていた。一定の歩調で、滞りなく進む。通過困難な地形は事前の偵察で避け、最小の労力で道なき山を歩く。迷う事はなく、危険な獣との遭遇もない。だが、問題は俺だった。山歩きにも、巫女さんにもらったはき物にもなれていない俺は、明らかに一行の移動速度を落とす存在だった。最初はさわやかな春の山の気持ちよさに足取り軽く歩いていたのだが、しだいにそれはゆっくりとした歩みになった。後ろから俺を見ているアリシアさんが、アドラドさんに声をかけて休憩をした。おそらく当初の計画に比べてかなり遅れているはずだ。俺は申し訳ないと思ったが、そうしてくれなければ歩けなくなるかもしれない。
そうして何度目かの休憩で、アリシアさんはアポさんをおいて水の補給にいき、アドラドさんは周囲の危険をさぐり、この先の道を確かめるために離れていた。
山歩きをしない俺にはよくわからないが、そこは尾根という場所なのだろうか。草の生えたゆるやかな斜面に挟まれた高い部分で、まばらに生えている松の木の木陰でただぼんやりと休んでいたのだが、そのうちに西南の方から何かが接近する気配を感じた。犬や野槌に出会ったときと同じく、それは音や臭いなどの感覚によるものではなく、何かがこちらに来る事が意識の中でわかる。大きさは人ぐらい。やはり人が歩くぐらいの速度でこちらに向かってくる。理由はわからないが、俺にはそれが認識できる。やがて犬たちも反応するが、人かもしれないので俺はなだめた。
しばらくそちらの方をうかがっていると、アドラドさんとアリシアさんが戻ってきた。
「西南のほうから来る者がいるよ」
アドラドさんはそう言ってから付け加えた。
「すでに気が付いてるようだね」
俺はうなずいた。
「危険はなさそうだと思うのだけれど、どう思う?」
「うーん。わからない。向こうもどうするか決めていなくて、様子を見ながら近づいているのかもしれないね」
俺たちはしばらくそのものが来るのを待ち受けた。
近づくにつれて、それが人であり、そしてセリアンの巫女であると俺にはわかった。
なぜなら一つの体に人と動物の両方が共存しているからだ。そしてその獣の種類も感じられるようになっていた。それは哺乳類であり、食肉目、そしてイヌ科。そこまでわかったところでその人物はここより低い斜面にある目の前の茂みの中まで来ていた。
その時俺にはそれが何の動物か分かった。
「カニクイイヌだ」
「きゃあっ!」
俺は自分で思っていたより大きな声を出していたらしい。
セリアンの巫女さんたちと同じ旅装束をしたその人物は驚いて叫びながら尻餅をつき、茂みから転がり出てしまった。
驚かせるつもりはなかったので、すまなく思いながら近寄って、その人が起き上がるのに手を貸した。
だが、俺の手を取るとその女性は人から獣へと姿を変える。
予想の通りそれはカニクイイヌの姿だった。
そしてそのカニクイイヌの巫女と思われる女性は自身に起こった急な変化のため、さらに驚いて、今度は前のめりに転んでしまった。
重ね重ねに迷惑をかけてしまった事をわびながらも、カニクイイヌの姿の巫女さんに見とれてしまう。
俺は生きたコキンメフクロウにフクロウカフェで触れた体験がある。野生のアナウサギではないが、家畜のカイウサギには何度も触れた、オオアリクイに触れた事はないが、動物園で飼われているのを間近で見た事はある。
だが、カニクイイヌを見た事はなかった。
カニクイイヌは俺のいた世界では、南米に住んでいる。和名にイヌとついていて、イヌ科ではあるのだが、それほど犬に近いわけではなく、コヨーテのようにイヌ属に含まれる種よりも犬から遠く。カニクイイヌ属という別の属だ。カニも食べるがそればかりではなく、他にも色々食べる雑食性の動物だ。
そして可愛い。
くりかえすが、俺はカニクイイヌを実際に見た事はない。日本の動物園にはいなかったのだ。それが今、すぐそばにいる。狐ぐらいの大きさだが、比べると足は短め。顔つきは狐にも犬にも似ている印象を与える。
巫女さんが姿を変えたものだと知っていても可愛さはつのる。
そうやって手を取ったまま見とれていると、後ろからアリシアさんたちがやってきて俺を引き離した。
すわりなおして、あいさつと互いの紹介を行った。
「チカといいます」
そのカニクイイヌの巫女さんはそう名乗った。
アリシアさんとは顔見知りの仲らしい。
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