青い世界

天野蒼空

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青い世界

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 ここはどこなのだろうか何十年、何百年も前からいたような気もするが、たった今来たばかりのような気もする。懐かしさの中に、違和感がある。

 深い深い青色。紺と群青の間の色。一面が同じ色だ。僕は目をこすり、この青をよく見る。ぼやけていた視界が次第にはっきりとして来る。だんだん深い深い青色が明るくなる。遠い遠い北の海のような瑠璃色。遠くにほ何かの陰がみえた。高く四角い陰。

 なせだろう。

 僕ほそこに行ってみたいと思った。そこに懐かしさを感じた。

 四角い陰はたくさんある。ごちゃごちゃと立ち並んでいる。そこはとても遠いようで、案外近そうだ。

 僕は前へ進んだ。

 その時、僕は初めて足があることを知った。いや、違う。知ったんじゃない。思い出したんだ。

「僕には足がある。進めるから進むんだ」

 誰かの声がした。誰だろう。中を見回してから思い出した。これは僕の声だってこと。


 どのくらい歩いたのか、僕にはもう見当もつかなかった。青い世界は青いままだった。四角い陰は近くなる気配もない。

 僕は、考えることを辞めていた僕の頭を使って考えていた。一体ここはどこなのだろうか、と。

 答えたは出てこなかった。何か思い出せそうだったのだか、僕の頭の中には霧がかかったままだ。

──ザワザワザワ

 何かを揺れ動かすような音。空気が右から左へ流れていく。

 風、だ。


 その時、僕の頭の中から霧が消えていった。次々に蘇る記憶。懐かしい街のざわめき。あの人の声。あの時のぬくもり。

そして────止まってしまった時。

 あの日。僕がみたものは、幻なんかじゃなかった。

 いつも通りの帰り道。前を歩くあの娘。まぶしい空。照り返しの強いアスファルト。空からふってきたまぶしい物体。その物体の放つ青より青い青。消えていく音。腕時計の微かな音もやがて止まった。僕が最後に見たのは気味が悪いほど青くなった、青だけの世界。


 そして────


──カッチ、コッチ、カッチ、コッチ

 音がする。時計の音だ。

 また、時が回り始めた。
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