徒然ペンギン

天野蒼空

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2024年2月

引っ越しました

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 朝から雨でした。

 なんなら天気予報は雪でした。

 今日は待ちに待ったお引越しの日だと言うのに。

 でも、そんな所だろうなと思ってたので、特に思うところもありません。強いて言うなら、「引越し作業中ってドア開けっ放しだから寒いんだよなぁ」ってこと。雨が降ってるかよりも、寒いかどうかの方が問題。

 幸いにもザアザアと降っているわけではなかったので、ダンボールの中の荷物は濡れずに済みました。

 光回線の工事やら、先に届く郵送の荷物の受け取りやらがあるので柚子くんは先に新居に。私は引っ越す前の家の撤去作業と、午前中は作業分担をしてました。一応引越し先までは徒歩圏内。なにかあってもすぐ駆けつけられます。

 それに、先に行っていてくれていたら、トラックが着いてすぐに作業が初められます。

 だって、引越し先の家の前の通路はすごく狭いんです。車がすれ違うのはなかなか難しい幅。教習所を思い出してください。あの時の「クランク」の幅くらいです。ちなみに私はクランクよりもS字カーブが嫌いでした。

「お客さん、あいにくの天気ですね」

 机を梱包しながら、いかにも手馴れた引越しのプロ、といった雰囲気を醸し出しているおっちゃんが言います。このおっちゃん、テキパキと指示出しして、狭い通路もするすると棚を通していくのでマジですごい。

「そうですね。でも、雨は慣れているんで」

「引越し、雨のことが多いんですか?」

「いえ、引っ越しでは少ないんですけど」

 なかった訳じゃない。父が転勤族だったのもあり、今日の引越しは人生7回目なので。それくらいすれば雨の日にも当たる。

「私、すごく雨女なんですよね」

「へぇ」

「小学校から大学まで、学校行事で宿泊があるもので雨が降らなかったことないんです。ついでに高校は卒業式も雨で、入学式は雪でした」

 自分で言ってて悲しくなるが、全部事実である。

 なんなら柚子くんと仲良くなった高校時代はかなり酷かった。修学旅行の沖縄は台風で飛行機か飛ぶか飛ばないかのギリギリだったし、校外学習では、1年生も2年生もゲリラ豪雨に巻き込まれている。柚子くんもそもそも行事は雨が多かったって言ってたから……。

「本当に雨んですね」

 ええ、本当に。おっしゃる通り。

 荷物を出し終えたお部屋はいつもよりも広くって。なんだか知らない部屋のようでした。外が暗いことも関係していたのでしょう。いつも電気をつけてましたが、もう部屋の明かりは取り外してしまっていましたから。

 普段の引越しの時はそれがすごく寂しくて嫌いだったんです。でも、今日は寂しくなかったのです。

 だって、新居がすごく楽しみだったから。

 引っ越し屋さんのトラックを見送って、最後にもう一度忘れ物がないか確認して、電気のブレーカーを落としました。ちょっぴり立て付けが悪くて閉めにくい玄関の重たいドアを閉め、最後に鍵をかけました。

 外は雪がチラついてました。吐く息は白く、ふわりふわりと上に昇っていきます。「積もらないといいな」と思いつつ、足早に新居をめざします。

 新居に着くと半分くらいの荷物は運び終わっていました。1階の台所では、柚子くんが荷解きをしながら荷物の場所の指示をしていました。

「ただいま」

「ん、おかえり」

 柚子くんが私の手を握ってくれるのですが。

「手、痛い……」

 末端冷え性な私の手は、手の先から周りの温度を奪うくらいに冷たくなっていました。そこに柚子くんの温かい手です。ちなみに柚子くんの手は「万年カイロ」と私があだ名を付けるほどあたたかいです。

 あたたかすぎて痛かったんです。

「もう、あっためて!」

 そのまま2階の寝室に連れて行かれ、電気ストーブの前に連れていかれ、ダウンの上から柚子くんのコートを着せられ、マフラーでぐるぐる巻にされ放置されました。

「あったまるまで動くの禁止ね」

「開封作業は……」

「1階は寒いの。ドア開けっ放しなの。おーけい?」

 こうなったら聞いてくれる柚子くんじゃない。これは長年の付き合いでわかっています。下手にごねるともっと面倒なことになります。

 諦めて邪魔な石像になってました。だって送る時は私が全部やったし、と言い訳して。せめて邪魔にならないよう部屋の隅っこに行って。

 そこから15分後。

 私も復活したけど、引越し作業もほとんど終わっていました。終了の確認でトラックの中身を見て、書類にサインをし、お礼に缶コーヒーをお渡しし(こんなに寒いのに冷たいコーヒーで申し訳なかった)引っ越し屋さんを見送りました。

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