徒然ペンギン

天野蒼空

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2024年2月

柚子くんの運転

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 彼氏の運転する車の助手席に乗るって、ある種憧れみたいなのありませんか?

 私はもちろんあります。なので柚子くんが免許を取ってから何度も乗せてもらいました。

 そして今日も乗せてもらっています。

 現在時刻、朝の7時。

 普段は激混みの幹線道路も、まだスカスカな時間。乗用車も多いですが、同じくらいトラックやバス、会社名がデカデカとプリントされている車が走っています。

 昨日は柚子くんが荷物を積んで新居に来たのですが、一度では積みきれなかったので、残りの荷物を運んでいるのです。ちなみに積まれているのは大量の本と、値段を聞いたら卒倒したくなるスピーカー。

「今日は空いていてよかったよね」

 運転しながら柚子くんが言います。ナビに表示されている時間は通常の三分の二程度。混雑がないだけでこんなにもすぐ行けるのか、と驚いてしまいます。

 いや、距離は近く無いですが。普段が時間かかりすぎで、相対的にそう思うだけなのでしょうけど。

「午後から雪の予報だからね。みんなお篭もりデイなんじゃないの?」

 まだ雨も降っていないですが、外はとにかく寒い。昨日までの温かさが嘘みたいです。

「ああ、ねぇ。業者の人大変だ」

「茶は出しとく」

「頼んだ。そういうのは蒼空の方ができるから」

 本日の予定はこんな感じ。

①柚子くんと私が新居に向かう
②柚子くんが車を返しに実家に戻る
③私が荷物の受け取りをする
④柚子くんが電車で新居にもどってくる

 かなり忙しいスケジュールですね。いや、引越しは忙しいものなのですが。

 今日の予定を頭の中で思い浮かべながら、私はコンビニで買ったチョコレートティーラテを飲みます。柚子くんの実家を出る前に買ったので、既に冷めてましたけど。まあ、美味しいので良しとします。

 ついでにじゃがりこをつまみます。

「ほい、あーん」

 私の口だけじゃなくて、柚子くんの口にも。

 運転している横顔ってなんでこんなにかっこいいんですかね。あまりちょっかいは掛けられないので、ガン見するだけにしますが。

「なんかついてる?」

「いや、そういう訳じゃないけど」

「ずっと見てるじゃん」

「知らん」

 見てはいたいんだけど、見てるのを認識されるのは照れるんですよね。だって照れると変な顔になるじゃないですか。

「バレバレよ」

「バレテナイヨ」

「視線って熱いんだよ。知ってる?」

「シラナイヨ」

 道路に少しずつ車が増えてくると、スピードも緩やかに落ちていきます。

「そろそろ混雑かなぁ」

 時間も時間なのかもしれないですし。

「いや、坂道じゃない?」

「小仏トンネルみたいな?」

「いつもその例えじゃん」

 柚子くんは笑うけど、小仏トンネルの渋滞理由って割と有名だからわかりやすいと思うんですよね。

 そう思いながら前を向くと、青い看板が。

「もしかして、あれ。ほら、あれよ。配信みたいな」

 目が悪く、動体視力もあまり良くないので、動いているときに見る看板の文字、特にズラズラと書かれているものは読みづらいんですよね。そして、これの名前をいつも忘れてしまう。速度オーバーすると赤く光って、家に金払えってお手紙が届くやつ。

「おーびーえす……じゃなくて」

 鎖骨くらいまで来てる気がするのですが、微妙に思い出せない。

「オービス、じゃなかった?」

「それだ」

「でも多分関係ないよ」

 するりと言われてしまうので、私は首を傾げます。

「なんで?」

「あれって、余程のオーバーじゃないと光らないから。流れに沿ってたら大丈夫なんじゃなかったかな」

「でも怖いじゃん」

 私は運転する時法定速度きっちり遵守の、左車線から移動したくない人なので。ちなみに柚子くんはするすると追い抜き使って運転します。合流とか苦手な私からすると、なんであんなに上手くできるの?となりますが。

「そこまでかな」

「切符切られたくないし」

 ふぁあ。

 ついあくびが出てしまいました。いけない、助手席で寝るのは流石にアウト。

「眠いの?」

「まあね」

「疲れた?」

「それは柚子のほうでしょ。ずっと運転してるから」

「俺は運転好きだからいいの」

 それでいいのか。

 モニョモニョしていたら、また柚子が笑っていた。

「彼女隣に乗せて運転する乗ってよくない?」

「彼氏の運転してくれる車の助手席に乗るのは最高ですが?」

 これぞうぃんうぃん、と言うやつなのかもしれない。
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