徒然ペンギン

天野蒼空

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2024年3月

これ、そんなに値段するの……?

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 引越しとなれば色々とものを揃えなくてはいけません。なので出費はかさむものです。人生で7回も引越ししていますから、それくらい当然分かっています。更に今回の引越しは普通の引越しじゃなく、新生活のためのもの。よりお金がかかるのは十二分に分かっています。

 いえ、分かっていたつもりになっていたのかも知れません。

 土曜日の朝、私は柚子くんと一緒にとある電気屋に来ていた。最近テーマソングが新しくなったけど早口のところがいまいち聞き取れない、あの店です。
(完全に余談だけど、あの歌、電気屋の歌じゃなくて駅の歌になってるって思うんだよね……)

 最初のお目当てはガスコンロ。というのも、新居は前の家と違い、ビルドインタイプのガスコンロがなく、据え置き型を自分で設置しなきゃいけないタイプだったから。設置場所のサイズ的にかなり候補は絞られていたのですが、一応実物みてから買いたかったのです。

 ついでにモニターとか、防犯カメラとか、パソコンとかを色々見て回っている時にふと思い出しました。

「そういえばルーターの子機欲しいねって話してたよね」

 配信部屋が2階にある都合上、回線の諸々を置いてあるのは2回の部屋。すると1階のWiFiが非常に不安定になってしまうのです。

 更に柚子くんのゲーム機が置いてあるのは1階のリビング。電波が不安定だとオンラインゲームが出来ないという不都合が起きていたのでした。

「そうそう。いいのあったら買おうと思うんだけど、いい?」

「わかった!」

 いえ、私はわかっていなかったのです。柚子くんがイメージしているものと私のイメージしているものが同じでないと。そして、想像している予算も倍近くちがう事に。

 売り場について、私はその値段を2度見しました。それから、「買うのってそれなの?」とつい聞いてしまいました。

 積み上げられた箱に描かれているのは、黒い箱。積み上げられた箱の上に乗せられた見本品は、ハードカバーの本より一回り大きいサイズ。

 値札には「WiFiルーター」という文字がゴシック体で書かれています。それから値段も。

「これでもいいんだけど、ちょっと見ようか」

 柚子くんはスタスタと先に進みますが、並んでいるのはどれも同じような黒い箱。ついてる値段はどれも諭吉さん1人から2人程度。

 待って待って。こんなに高いの?

 ていうか、こんなに高かったっけ?

 いや、そもそも買うのこれだっけ??

 私が知っているのは、手のひらくらいの大きさで、コンセントに差し込んで使うやつです。でもどう考えても目の前のそれは、コンセント以外にも色々なケーブルが必要です。

「どれがいいとかある?」

「ええ。わかんないよ」

 3つ目の棚でようやく見つけました。私が買うと思っていたものを。

「これはなんか違うの?」

 柚子くんに聞いてみますが、

「それね。ちょっと違う。それだとWiFiしか使えないからね」

 WiFiが使えたらいいのでは……?

「有線、1階で使う?」

「プレステは有線で繋いだ方が安定するからそうするかな」

 そういう感じなんだ……。

 いえ、確かにゲームをガチでするなら有線が1番いいのはわかっています。配信だってそうですから。

「WiFiかと思ってた」

 なんとなくモヤモヤとしたものが溜まっていきます。

「配線は三本させるやつがいいよね」

「そんなに使うっけ?」

「プレステ5と、4と。Switchもあるでしょ」

 そんなに全部常に刺しておくものか?

 とは思いましたが、別に刺せるポート数で値段が変わっているわけではなさそうなので黙っておきました。

「ていうかこれ、俺が決めていいの?」

「私分からないから決めなよ」

「おうちのものなのに俺一人で決めるのもなぁって」

 そりゃそうですが。でも違いがわからないんですよね。

 速度のそんな小さな差、何か変わるの?

 そんなに大事?

 結局、2階から1階に有線を下ろさなきゃ行けないから、家中配線だらけみたいな感じになっちゃうし。

 ただ、それは私の感じ方であって、柚子くんはこの機械にそれだけの金を払う価値を分かっているから買おうとしているのは分かります。

「私に選ばせたらさっきの中継器?になるよ」

「うーん、それは困るかも。でも、安くないからさ」

 私の事をのぞきこんでくる柚子くん。

 これはこっちの思っていることが見えてるのかもしません。もやもやを自分の中で溜めておくのも、後々を考えると良くないので口にすることにしました。

「いやさ、価値がわからんちんしてるから、決められんのよ。柚子くんにとっては必要かもしれないけど、私にとってはそこまでのグレードだと思ってなかったから。
 だからなんでそんなに高いの買うのかなってなってる。
 ちょっとズレてるけど、ダイヤモンドと石ころみてどっちも石でしょ?石が欲しいんじゃないの?って思ってるみたいな感じ」

 少し分かりにくいよな、と思いましたが、柚子くんは察してくれたように「ああね」と相槌をうちました。

「だから私はどれがいいとか決められないし、分からない。でもさ、私にとってはそういう価値観だけど、柚子にとってはそうじゃないのは分かるから、買っていいと思うよ」

 今回はこうだったけれど、逆の立場になることも有り得ますからね。

「分かった。ならこれにするね」

 柚子くんは私の頭をぽんぽんと撫でると、悩んでいた方の少しだけ安い方を手に取って会計レジへ向かっていきました。
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