少女

天野蒼空

文字の大きさ
1 / 1

少女

しおりを挟む
 むかしむかしあるところに、一人の少女がおりました。少し変わった名前の少女でしたが、その名前は誰もが直ぐに覚えてくれるので、少女の周りにはたくさん友達がいました。少女は優しい両親と親切な友達に囲まれて、明るく元気な子に育っていきました。少女は毎日が幸せでした。

 ある年、少女の一家は引越しをしました。住んでいたところから遠く離れた場所です。悲しいことに山をいくつも超えたその場所では、少女の言葉は異国の言葉。少女はもちまえの明るさで友達を作ろうとしますが、少女の言葉は上手く伝わりません。誰もが少女を馬鹿にしました。少女の少し変わった名前は、馬鹿者に与えられたレッテルのよう。昔は沢山友達がいましたが、今はいません。少女は毎日貶され続けましたが、どうしてなのかわかりません。少女は明るい子ではなくなりました。毎日のように本の世界に入り、一人でいることを好むようになりました。

 少女の成績は悪いとはいえませんでした。テストではほとんどの教科で良い点数を撮っていました。しかし、少女の両親は満足しませんでした。少女に鞭を打ち、「正しい」を「完璧」に教えこもうとしたのです。少女はその鞭が苦痛でした。最初は鞭から逃げ出そうとしました。でも、逃げ出そうとすると鞭はさらに追ってきます。そこから逃げることは不可能でした。

 残念なことに、両親の教育は失敗しました。少女についたのは「出来損ない」のマークでした。「出来損ない」はとても目立つマークでした。更に少女を苦しめたのは、両親が少女は昔と変わらない明るい子だと思っていたことです。

 少女は一人ぼっちでした。一人ぼっちで、両親からも周りの子どもからも貶され続けました。いつの間にか「出来損ない」のマークは大きくなり、少女のことを知らない人も少女のことを「出来損ない」と呼びました。少女のことを「出来損ない」のマークが隠してしまったのです。それはもう、少女が人でない「出来損ない」という生き物のようでした。

 いつの間にか「出来損ない」のマークは真っ黒に汚れていました。そこに新しくついた模様は「疫病神」でした。少女がそこにいるだけで、誰もが不幸になるのです。後ろ指をさして、声を潜めて話すその視線が、少女をボロボロにしていきました。

 自分の名前も「出来損ない」も「疫病神」も少女は嫌いました。自分に向けられる全ての言葉を嫌いました。

「あなたがいるから不幸になる」

 母親はそう叫びました。父親は少女をまるでサンドバッグのように殴り続けました。宛先のない怒りを全てぶつけるかのように。殴られ続けて少女は思いました。自分はそうされるほど悪い存在なのだと。

 いつからでしょうか。少女は「出来損ない」と呼ばれるのが当たり前に感じてくるようになりました。「疫病神」と呼ばれても仕方が無いように思えてきました。鞭で打たれるのも痛くないような気がしてきました。

 もう少女は痛いとも苦しいとも感じません。

 少しだけ思うのはこんなこと。

「飽きちゃったよ、こんなの。ちょっと疲れちゃったな。」
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

青山ねる
2021.05.14 青山ねる

読ませて頂きました。
心が痛む話だなと思いました。

2021.05.14 天野蒼空

コメントありがとうございます。

解除

あなたにおすすめの小説

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

姉の引き立て役の私は

ぴぴみ
恋愛
 アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。 「どうしたら、お姉様のようになれるの?」 「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」  姉は優しい。でもあるとき気づいて─

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。