夜の散歩

天野蒼空

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夜の散歩

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 眠れない夜、散歩に出かけた。

 誰もいない道路に月の光が落ちている。星が頭の上で宝石のように輝いている。黒い布の上にばらまいた宝石。サファイヤ、ルビー、トパーズ、ダイヤモンド。数え切れないほど沢山ある。

「みーお」

 小さい鳴き声がした。白い猫が金色のふたつの目でこちらを見ている。その猫に1歩近づくと、その猫は歩き始めた。

 着いてこい、と言っているのだろうか。
 
 行く先を決めていない散歩だ。何かあるのかもしれないし、私はついて行くことにした。

 青い屋根の家を左に曲がり、幼い頃よく遊んでいた公園を右に曲がると、人通りのない商店街に出た。街灯につけられた『駅前商店街』のプレートは所々ペンキが剥げて、錆ている。ずらりと並んだシャッターの間を、店4軒分進む。シャッターにびっしりと蔦の絡まった、いつ閉店したのか分からない、そもそも何の店だったかすら分からない店の脇の道を通る。

 商店街までは通ったことのある道だが、この先は何があるか分からない。私は白い猫の後ろを慎重についていった。

 家と家の間の細い道をいくつも通り、アパートの駐輪場を突っ切る。段々と街灯と街灯の間隔が広くなり、家よりも畑や田んぼが多くなっていった。

 白い猫は時々立ち止まり、振り返って金色の二つの目で私のことをじっと見つめた。まるで着いてきているか確認しているようだ。

 そして、気がつくと森の中に来ていた。湖を囲うように並んだ木々。湖に月と星が映り込み、そこに小さな宇宙が出来ていた。

「みーお」

 歩いている間は鳴かなかった白い猫が、こちらを振り向いて鳴いた。

「どうしたの?」

「みーお」

 白い猫はぴょんと、私の身長よりも高く飛び上がった。

 器械体操の選手みたいに、くるりと一回転して着地したのは、猫ではなく女の子だった。

 陶器のような白い肌、月の光を浴びて薄く光を帯びた白いワンピース、そこから伸びる二本の素足。真っ直ぐな白い髪は腰の辺りまで伸びている。微笑む顔にはえくぼが浮かび、金色の目が細くなる。

 さわ、さわ、さわ。

 木が歌う。

 その音に合わせて女の子の足がステップを踏む。風に合わせて手が動く。月の光はスポットライトのように降り注ぎ、星の明かりは華やかさを添える。眼差しはここじゃないどこかを見ていた。

 空が白く霞んできた頃、その舞が終わった。

 優雅に一礼した女の子は最初に見せた愛らしい笑顔を浮かべた。

 そしてまた、高く飛んで猫の姿に戻った。

「みーお」

 何事も無かったかのように白い猫は鳴いた。
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