君ともう一度

君ともう一度

「ねえ、まだ起きないの？」

　僕が声をかけた相手はベッドの上ですやすやと眠っている。陶器みたいに白くてすべすべとした肌、桜色のぷっくりとした唇、長いまつげ、濡羽色のつややかな髪。

　まるでお人形さんのようにきれいなこの少女は、僕の彼女だ。もう、二年も眠ったまま。

　彼女は、きっと私が毎日話しかけていれば起きてくれる。

　僕が信じているのはこれだけ。

「俺、昨日の夜クッキーをやこうと思ったんだけどバターが足りなくてさ。夜中なのにコンビニまで走っていったんだよ」

　今日もこうしてどうでもいいような話を、続ける。もちろん、返事はない。会話ではなく、独り言になってしまっているが、いつかはきっと会話になるはずだから。


　コンコン。

　病室のドアをノックする音がして、白衣を着た男性が二人入ってきた。

「先生、こんにちは」

　片方の男性は彼女のかかりつけ医だ。しかし、もう片方の男性は見たことがない人だ。

「ああ、来ていたんですね。ちょうどよかった。今日はすごい人を連れてきたんです」

「こんにちは。僕は大学で研究をしている事が多いから、あまり病院には来ないのですが今日はどうしても彼女さんに試してもらいたいことがありまして」

　そう言って、二人は何やらカラフルなコードがたくさん伸びている機械を取り出した。

「これを使えば、またお話できるかもしれないんです」

「本当ですか？！」

　がたん、とつい椅子を蹴飛ばして立ち上がる。

「神経をこう、色々つなぎ合わせてですね、電気信号を外部出力するんです。きっとうまくいくと思いますよ」

　そうして二人は準備を始めた。




　三十分ほど経った。

「おまたせしました。さあ、話しかけてください」

「まなみ。僕だよ」

「りょうた。ずっと、こえ、きこえていたよ。ありがとう」

　また会話できる日が来るなんて信じていた。それは思ってもいなかった方法だったけれど、つたない声だったけれどそれでも僕は嬉しくて、眠ったままの彼女を強く抱きしめた。

「愛してる」

「あいしてる。わたしも」