レンタゴースト!

三塚 章

文字の大きさ
13 / 13

最終章 あの人の墓前にて

しおりを挟む
 木々に囲まれた墓地は、周りの暑さにかかわらずひんやりしていた。ここに眠っている人々は夏の間結構過ごし安くしているのではなかろうか。
 亜矢は花束と水の入った桶を抱えて目的の墓にむかった。
 レイが消えてから数カ月の間、亜矢は名前を手がかりに事件を調べまくった。そして図書館の古い新聞で見つけた。インターネットでも同じ記事があった。
 レイの本名は、戸島 慶介(とじま けいすけ)というらしい。
 慶介の家族は、両親とそれに妹と四人でそこそこ裕福な暮らしをしていたようだ。あとは、ヒメカの時とほとんど同じだった。
 深夜、慶介の家に二人組の泥棒が入った。運が悪かったのは、その犯人達とたまたま起きていた慶介がはち合わせてしまった事だった。犯人は持っていた鈍器で彼のこめかみを殴って逃げ出して行ったという。
「おお、いたいた! 亜矢!」
 呼び掛けられて振り向くと、レイが片手をあげていた。
「会いたかった! あや~!」
 まるで子供みたいに無邪気に抱きついて来る。
「ちょ、ば、バカ! 苦しいって! あんた今、実体なんだから!」
 レイはおとなしく腕を解くと、幽霊だった時のようにいたずらっぽく微笑んだ。
 なんだか頬が熱くなって、亜矢は自分の頬を手の平でぱたぱた扇いだ。
 そう、レイは死霊ではなく生霊だった。考えて見れば、もっと前に分かってもよさそうな物だった。死ぬに死ねないほど強い恨みで生まれるのが幽霊なら、記憶を無くした幽霊なんてありえない。それこそ、熱い氷や乾いた湿気のように。
「久しぶりね、レイじゃなくて慶介(けいすけ)だっけ」
「レイでいいよ。というかお前にはレイって呼んでほしい」
 頭を殴られたレイは、ずっと意識不明の重体になっていたらしい。
 事件の内容は分かっても、意識を失ったレイがどこに入院しているかまでは調べられなかった。だからレイの方から電話が来た時には本当に嬉しかった。亜矢は何があってもレイを探し出すつもりだったけれど、もし彼が亜矢の家に電話番号を覚えていなかったら再会まで時間がかかったかも知れない。そう思うとゾッとした。
 電話口でレイが説明してくれた所、『あの店から逃げ出す途中で、いったん意識を失って、気がついたら病院のベッドの上だった』らしい。
「もう、体の方は大丈夫なの?」
「おう。目が覚めたばっかりの時は、ずっと寝たきりだったせいで筋肉落ちて起き上がるのも大変だったけどな。今はフルマラソンにだって参加できるぜ。それにしても、デートの待ち合わせ場所が墓場ってどうよ」
「いいじゃないの、分かりやすくて」
 そう言って、亜矢は線香を手向けると家の墓に手を合わせた。ここには、顔も見た事もないご先祖様と一緒に父親も眠っている。
「それにしても、なんでいきなり墓参り?」
 亜矢が祈り終わるのを待って、レイが聞いてきた。
「別に」
 なんだか、急に父親に会いたくなったのだ。ちょっと自慢したくなったのかも知れない。お父さんは金を貸した友達に裏切られたけど、私は信頼できる奴を見つけたよ、と。
「そうだ。ねえ、レイ。ニュース見た?」
 思い出しただけでもおかしくて、言葉の最後に笑いが混じってしまった。
「おお、見た見た。うまい事やったなお前!」
 あれから、亜矢は匿名で『クリオの入っているビルが騒がしい』という通報を入れた。その後の事はニュースやら新聞やらで知ったのだが、クリオの社長室では宮波と男達がバタバタと倒れていたという。皆命に別状はない物の体力をかなり消耗していて、しばらくの間入院が必要だそうだ。なんでもひどく混乱していて、『白い犬の生首が襲って来る』と意味不明の事を呟いているとか。
 テレビでアナウンサーがまじめな顔でこのニュースを伝えるたび、(まさか、私が犬の幽霊を解き放ったせいだとは、この人も知らないだろうな)とか思ってしまい、笑いをこらえるのが大変だった。
 そして何よりマスコミを賑わせたのは、金庫の中に入っていた書類だった。個人情報と起きた犯罪の因果関係がはっきりしたら改めて宮波達は逮捕されるらしい。
「そう言えば、さ。その指輪ってなんなの? それに取り憑いてたって事は、
そうとう思い入れのある物だろうけれど」
「彼女からもらった」
「なっ」
 そりゃ亜矢に会う前のレイにだって人生があったわけだし、恋人がいたっておかしくない。まして幽霊状態の時は記憶喪失になっていたんだし、恋人の事を忘れて亜矢に惹かれるのもありえるだろう。でも、ここまで口説きまくっておいてそれはないじゃないか?
「ウソ、ウソ。妹だよ、妹。誕生日にもらったんだ」
 クスクスと笑ったあとで、レイは顔をグッと近付けてきた。
「妬いた?」
「別に。どうせそんな事だろうと思ったわ」
 ほっとしたのはレイには内緒だ。
「お前が店でこれを買ったって事は、泥棒に盗まれたんだろうな。で、売り払われたんだろう。それで人出に渡って俺の家からお前の近所にまで流れたんだ」
「ずいぶんと長い旅をしてきた物ね」
 亜矢は水の入った桶を持って、墓に背をむけた。二人は並んで緩やかな階段を降りていった。
「さて、どこにいこうか?」
「どこでもいいわよ。おばけやしき以外なら」
 その言葉に、レイはハハハッと明るい笑い声を立てた。
「確かに。もう十分幽霊には驚かされただろうからな」
「そういう事。それにノーラを見たら、もう他の幽霊なんかじゃ驚けそうにないもの」
「じゃあ、ホラー映画でも見にいこうか。それとも、せっかくお互い触れるようになった事だし……」
 亜矢の耳に、レイは唇を近付けて、何事か囁いた。
「な……」
 ぱっと亜矢の頬が熱くなった。ひしゃくで手桶の水をすくった。
「ちょ、バカ、俺今生身なんだぜ。普通に濡れるから!」 
 転びそうな勢いでレイはダダッと階段をかけ降りる。
 その時響いた小さい咳払いに、二人はハッと顔を上げた。
 袈裟の裾をひるがえして、お坊さんが前から歩いてきた。
「お墓でいちゃつくなんて最近の若い者は……」
 二人の足が少しだけ速くなった。 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき
ファンタジー
冒険者ナザルは油使い。 魔力を油に変換し、滑らせたり燃やしたりできるユニークスキル持ちだ。 その特殊な能力ゆえ、冒険者パーティのメインメンバーとはならず、様々な状況のピンチヒッターをやって暮らしている。 実は、ナザルは転生者。 とある企業の中間管理職として、人間関係を良好に保つために組織の潤滑油として暗躍していた。 ひょんなことから死んだ彼は、異世界パルメディアに転生し、油使いナザルとなった。 冒険者の街、アーランには様々な事件が舞い込む。 それに伴って、たくさんの人々がやってくる。 もちろん、それだけの数のトラブルも来るし、いざこざだってある。 ナザルはその能力で事件解決の手伝いをし、生前の潤滑油スキルで人間関係改善のお手伝いをする。 冒険者に、街の皆さん、あるいはギルドの隅にいつもいる、安楽椅子冒険者のハーフエルフ。 ナザルと様々なキャラクターたちが織りなす、楽しいファンタジー日常劇。

処理中です...