二談怪

三塚 章

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落とし物

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 屋台が並び、焼きとうもろこしや、焼きそばのいい匂いが漂っていた。祭りが行われている通りは人で賑わっていて、ゆっくりとしか歩けないくらいだ。
 その人混みから少し外れた道の隅に、ビールを入れるかごと板で作った簡単なイスがある。神輿(みこし)をかつぐ人や、祭りの実行者が休むためのスペースらしい。
はだけたハッピに金のネックレスをしたおじさんと、半そで短パンのおばさんが、缶ビールを飲んでいた。
「あの」
「いや、兄ちゃん座れ! 座れ!」
 僕の言葉をさえぎって、おじさんは初対面の僕にも人懐こく席を勧めた。特別な日ということもあって、昼間からすっかりできあがっているようだ。
おとなしく僕は腰掛ける。
隣のおじさんからは、少し汗とアルコールの匂いがした。
「いいねえ、祭りは賑やかで」
 おじさんはご機嫌だ。
「あの、実は僕、怖い話を集めているんですけど……」
 お決まりの言葉を僕は言った。
「怖い話? あるある、あるよ」
 ビールを一口グビリと飲んで、男は上機嫌でそう言った。
そして不意に僕をじっと見つめた。顔全体の表情は笑顔のままだが、目だけがすっと笑うのをやめる。
なんだか、こちらの何かを見透かそうとしているようで、気味が悪い。
「……なにか?」
 そう聞くと、また目が孤を描いた。
「いやいや、なんでもない。あのな……」

 信じられないかもしれないけど、俺には幽霊を見る力があんだよ。いや、そんな大げさなもんじゃねえか。
魂っていうのかな、人魂っていうのかな、そういうのが、ふわふわと光ってが見えるんだよ。
最初に気づいたのは、ばあちゃんが死んじまった時かなあ。葬式んとき、棺桶の上を綿みたいのがぽかぽか飛んでたんだ。
事故を起こした車の中を覗き込んだときも、運転席の周りを光の玉が飛んでいたよ。
 まあ、別に信じてくれなくてもいいんだけどね。
 それでな、何年か前のことだ。ほら、最近はやりだした、西洋のお祭り。なんていうの? ハロウィン? が大きな通りであったんだよ。
いやいや、全くあれはすごいね。仕事で、会社から取引先に向かうときに、歩行者天国になってる通りを通ったんだけど。骸骨やらゾンビやら漫画のキャラとかね。
 その時に道端にカバンを見つけたんだ。
 薄いレザーでできていて、白っぽい黄色。がま口を大きくして、小さな持ち手を付けたような、古臭いデザインのカバンが、花壇の上に、置かれていてね。
誰かその場にいる者が、一時的ちょっとに置いたのかと思って周りをみたんだけど、持ち主らしき人どころかカバンに気づいている者もいないようなんだ。ミイラ男も血まみれのセクシーナースも無視して通り過ぎていっちまう。
 そのバッグは、スイカでも入ってんのか、ってくらい真ん中が膨らんでいてね。どす黒いシミまでついていたんだ。
 そして何より、ふわふわ……ふわふわ…。光の玉が一つ、その周りを飛び回っていたよ。 バックの中に入りたいというか、逆に手があるなら口をあけて中身を出したいというか、そんな感じで。
 ゾクッときたね。魂がそうやっているって事は、このカバンに入っているのはマトモなモノじゃないんだって。
 そういえば、真ん中のふくらみは人の頭ぐらいだったし、カバンはどす黒く染まっている。考えられるのは一つさ。
 生首だよ。
 ドキドキしたよね。
 警官に知らせないと。そう思ったけど、さすがにそのカバンを持っていくのは気味が悪い。
  幸い、交通整理で警官がその辺をついていたからね。落し物があるって言って来てもらったんだ。
 もちろん、自分の想像は言わなかったよ。本当に生首が入っていて、「なんで中身が分かったんだ」なんて聞かれたら答えようがないからね。
 相手をしてくれたのは若い男の警官だったよ。
 想像力のない奴で、
「まったく。多いんですよね、忘れ物」
とかなんとか言いながら、赤黒いシミにも怯えることもなくカバンの口を開けた。
 で、何が入っていたと思う? 
 黄色いかぼちゃのバケツだよ! あのプラスチックの、黒い三角の目鼻が描かれた、お菓子なんかを入れる奴! 
 それにフタの緩んだ、チューブ入りの血糊(ちのり)! 仮装で使う奴! 
 生首なんかじゃなかった。ただ単に、仮装した奴がうっかり忘れていった小道具さ。
 とにかく、落とし物としてそのカバンは警察で預かってもらうことになった。
 なんだか書類を書かないといけないから来てくれって言われたが、隙を見て適当に逃げだしたよ。めんどくさいからな。
 いやいや、書類を書くのがじゃない。変な事件に巻き込まれるのが面倒なんだ。
 だって、そうだろ? バケツや血糊に魂がまとわりつくはずはない。だとしたら、原因は一つしかないじゃないか。
あのカバン。あれ、多分人の皮でできてるんだよ。
 もしそうなら殺人事件だ。まさか、自分の皮膚剥(は)いでカバンこさえる奴はいないだろう。そうなったら、第一発見者として色々詳しく話したりしないといけなくなるだろ?。

「じゃあ、その人の皮をはいだ犯人は、まだどこかに?」
「いるんだろうね。そういった異常者が捕まったってニュースは聞かないからねえ」
 笑い声をあげたのは、おじさんの隣に座っておばさんだった
「まさか。魂が見えるだなんて、あんた騙されてるんだよ。この人はすぐ冗談を言うんだから」
 おじさんは否定もせずハハッと笑った
「おお、そうだな、冗談かも知れないねえ」
そういうとおじさんは、また笑顔の消えた目で僕のことを見つめた。
「おい、坊ちゃん、気をつけなよ。あんたに死者の霊がついてるぜ」
 冗談なのか本当なのか分からないおじさんの言葉に、僕はニヤリと笑った。
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