18 / 28
自家製カモミールティー
しおりを挟む
ミホの子供がいなくなってから、半年が経った。
「本当に、どこにいるの?」
ミホはハンカチで涙を拭きながら言った。
彼女は駅前でビラをくばったり、サイトで情報を呼び掛けたりするのに疲れると、こうして私の家にやってくる。
テーブルを挟んで正面に座ったミホは、だいぶやつれているように見えた。
「きっと、見つかるわよ」
私は優しくミホの冷たい手を握りしめてやった。
「でも、全然手がかりも見つからないし……」
「気を強く持って。母親のあなたがミホちゃんの無事を信じなくてどうするの」
私の慰めに、クスンとミホは鼻を鳴らした。
「ありがとう、あなたは本当にいい友達だわ」
その言葉に、私は思わず吹き出しそうになった。人間の記憶なんていい加減なものだ。
ミホは私の婚約者であるリョウジを奪った。そしてその彼と結婚した。それなのに、そんな事を調子よく忘れ、私の事を都合のいい『友達』だと思っている。
「でも、どこかで死んでいたら……ユウちゃんと同じように……」
ユウの名前に私は頭を殴られたような痛みを感じた。
ユウは、わたしの子供の名前だ。リョウジと私との子供。
血のついた道路、花束。ユウは交通事故で死んでしまった。
「そんな悪いことばかり考えてはダメ。ほら、これでも飲んで心を落ち着かせて」
私はカモミールティーの入ったカップをミホに差し出した。
「ありがとう、これ、飲むと心がとても落ち着くの」
「そう、それはよかったわ。自家製なのよ、これ。無農薬の有機栽培。ほら、あそこ、庭の隅にカモミールが植えられているでしょう」
私は視線で白い花を示した。
「なかなか手が掛かるのよ。肥料も正しいものを与えないといけないの」
ゆっくりとミホがお茶をすするのを、ぼんやりと眺めながら私は続けた。
「でも植物って不思議よね。肥料なんて動物の糞や腐った葉っぱでしょう? 果物や野菜も、そんなもので出来ているのよね」
もう一度私は庭のカモミールに目を移した。
花の中心にある黄色と、花びらの白が陽に揺らめいている。風が吹くたびに影が地面に揺れる。
ミホは知らないのだ。あの根本に自分の子供の死体が埋まっていることを。
だって、不公平だもの。私とリョウジの子供は死んだのに、ミホとリョウジの子供は生きているなんて。
ミホの唇がかすかに茶で濡れているのに気づいて私は薄く笑みを浮かべた。
「果物や野菜を食べるのって、遠まわしに肥料を食べているのよね」
これを飲むと落ち着く、とミホは言った。それはそうだろう。何パーセントか探している子供でできたカモミールティーを飲んでいるのだから。
警察だってバカではない。いずれ私のやったことが露見するかもしれない。それならそれで楽しみだ。自分が飲んでいたカモミールの下に子供が埋まっていたのを知ったら、ミホはどんな顔をするのだろう?
知らずに自分の子供を食らう山姥(やまんば)。でなければ、どこかの小説にあった、桜の下に埋まった死体。そんな事が浮かんで、私はもう一度ほほ笑んだ。
「本当に、どこにいるの?」
ミホはハンカチで涙を拭きながら言った。
彼女は駅前でビラをくばったり、サイトで情報を呼び掛けたりするのに疲れると、こうして私の家にやってくる。
テーブルを挟んで正面に座ったミホは、だいぶやつれているように見えた。
「きっと、見つかるわよ」
私は優しくミホの冷たい手を握りしめてやった。
「でも、全然手がかりも見つからないし……」
「気を強く持って。母親のあなたがミホちゃんの無事を信じなくてどうするの」
私の慰めに、クスンとミホは鼻を鳴らした。
「ありがとう、あなたは本当にいい友達だわ」
その言葉に、私は思わず吹き出しそうになった。人間の記憶なんていい加減なものだ。
ミホは私の婚約者であるリョウジを奪った。そしてその彼と結婚した。それなのに、そんな事を調子よく忘れ、私の事を都合のいい『友達』だと思っている。
「でも、どこかで死んでいたら……ユウちゃんと同じように……」
ユウの名前に私は頭を殴られたような痛みを感じた。
ユウは、わたしの子供の名前だ。リョウジと私との子供。
血のついた道路、花束。ユウは交通事故で死んでしまった。
「そんな悪いことばかり考えてはダメ。ほら、これでも飲んで心を落ち着かせて」
私はカモミールティーの入ったカップをミホに差し出した。
「ありがとう、これ、飲むと心がとても落ち着くの」
「そう、それはよかったわ。自家製なのよ、これ。無農薬の有機栽培。ほら、あそこ、庭の隅にカモミールが植えられているでしょう」
私は視線で白い花を示した。
「なかなか手が掛かるのよ。肥料も正しいものを与えないといけないの」
ゆっくりとミホがお茶をすするのを、ぼんやりと眺めながら私は続けた。
「でも植物って不思議よね。肥料なんて動物の糞や腐った葉っぱでしょう? 果物や野菜も、そんなもので出来ているのよね」
もう一度私は庭のカモミールに目を移した。
花の中心にある黄色と、花びらの白が陽に揺らめいている。風が吹くたびに影が地面に揺れる。
ミホは知らないのだ。あの根本に自分の子供の死体が埋まっていることを。
だって、不公平だもの。私とリョウジの子供は死んだのに、ミホとリョウジの子供は生きているなんて。
ミホの唇がかすかに茶で濡れているのに気づいて私は薄く笑みを浮かべた。
「果物や野菜を食べるのって、遠まわしに肥料を食べているのよね」
これを飲むと落ち着く、とミホは言った。それはそうだろう。何パーセントか探している子供でできたカモミールティーを飲んでいるのだから。
警察だってバカではない。いずれ私のやったことが露見するかもしれない。それならそれで楽しみだ。自分が飲んでいたカモミールの下に子供が埋まっていたのを知ったら、ミホはどんな顔をするのだろう?
知らずに自分の子供を食らう山姥(やまんば)。でなければ、どこかの小説にあった、桜の下に埋まった死体。そんな事が浮かんで、私はもう一度ほほ笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
短な恐怖(怖い話 短編集)
邪神 白猫
ホラー
怪談・怖い話・不思議な話のオムニバス。
王道ホラーではない。人の業をテーマにしたホラー。
人の醜さ・弱さ・愚かさ・儚さを問う。
こんなにも憐れで美しいのは──人の本質。
じわじわと痛みの伴う読後感。そんなホラーはいかがですか?
ゾクッと怖い話から、ちょっぴり切ない話まで。
なかには意味怖的なお話も。
※追加次第更新中※
YouTubeにて、怪談・怖い話の朗読公開中📕
https://youtube.com/@yuachanRio
洒落にならない怖い話【短編集】
鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。
意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。
隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる