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コインロッカーの秘密
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修のために救急車を呼んだ後、黒川は管轄の派出所に連絡をした。
「ああ、だから、爆弾の設計図が……名前? 黒川だ。所属は……」
こっちが本当の警官か照会する時間がもどかしく、非常事態を告げる。
話ながら、自分の車に乗り込む。
スマホをフリーハンドに設定して、ダッシュボードに置いてエンジンをかけた。
「いいか、瑛実駅のロッカーだ! ロッカーの上に鍵があると言っていた」
『わ、わかりました。今すぐ報告を……』
本当だったら、爆弾処理班をぞろぞろ呼んで欲しい所だが、何せ図面書かれた落書きのような日時と、現在精神的に不安定になっている者の証言だけだ。黒川が期待するような対応は難しいだろう。
『私は二村と申します。何か進展があったら、また報告しますから』
それではいったん失礼します、と断って、二村は電話を切った。
再び二村から連絡が入ったのは、まだ黒川が瑛実駅にたどり着く前の事だった。
スマートフォンの画面に、若い警官の姿が映る。初めて見る二村は、いかにも実直そうな若者、という感じだった。
『瑛実駅』と看板のかかった小さな駅を背景に、二村は好奇心と、恐怖の入り混じったなんとも奇妙な表情をしていた。
『少し前に瑛実駅に到着しました。警備部から爆発物処理班が……』
二村はスマートホンを動かし、自分の背後を見やすくしてくれた。どうやらご丁寧にリアルタイムで映像を送ってくれるようだ。
ロッカーの周りは、黄色い規制線を張り巡らされていた。
「なに、なんかイベントか?」
「いや、事件っぽいですよ」
外回りの途中の上司と部下らしき二人組の会話が聞こえてきた。
「え、なんかドラマで見るみたいなテープ張ってあるよ、やばくない?」
女子高生はそう言いながらもなんだか楽しんでいるようだった。
他の人達も、物珍しそうに規制線の方を向きながら歩いていく。中には足を止める者もいるが、二村のお仲間が「立ち止まらないでください!」と追い立てている。
(爆弾の規模が分からない以上、もう少し距離を取った方がいいんじゃないか)
そう思ったが、手作りの爆弾ならこんなものかも知れない。
黒川は、道の端に車を停めた。こんな映像が送られてきたら、気になって運転どころではない。
ロッカーの中に何が入っているか、機動隊員の一人が確認することになったようだ。対爆スーツを着た隊員が見えた。
『これから、始まるようですよ』
黒川のスマホの小さな画面に、こちらを覗き込む二村が大写しになる。
景色が右から左に流れ、二村の姿が消えると、画像は古びた灰色のロッカーで止まった。立ち入り禁止の黄色いテープで囲まれている。
いまどき古いタイプのロッカーで、鍵で開閉する物だ。ロッカーの上には、スポーツ新聞や空缶が捨てられていた。
ごつい装備をして、大き目のアタッシュケースを持った隊員が一人、ロッカーに近づいて行く。
隊員は荷物を置くと、持って来た台に乗り、ロッカーの上を探る。そして、何かガムテープのようなものをはがしたようだった。
ヘルメット越しのくぐもった声で、隊員が二村に何かを言った。
音が遠く、黒川にははっきりと聞こえなかったが、二村が教えてくれた。
『ああ、鍵が貼り付けてあったみたいです』
画面の外から聞こえてくる二村の声は、少し緊張しているようだった。
(鍵が貼りけられていた……修の供述通りだ。だとすると、まさか爆弾も本当に?)
それに鍵があるということは、受取り人が来ていないということか? だとしたら、爆弾もそのまま?
隊員は台をおり、ケースから何か機械を取り出した。分厚いタブレット型の端末のようなものをロッカーの扉に当てている。
これで空港の荷物検査のように中を見ているのだろう。
『ば、爆弾なんて。ただのいたずらですよね』
二村の呟きは、どこか祈っているような響きがある。
答える気にもならず、黒川は画面の中で左右にすべる端末に見入った。警官も、口を閉ざず。
電車が通り過ぎていく。
黒川は思わずツバを飲み込んだ。
西村も何も言わなかった。
機動隊員は、しばらく中を探ってから機械を離した。そして二村の方に顔をむけて叫ぶ。
『爆弾は見つかりません!』
スマホ越しに、二村の安堵した溜息が聞こえてきた。
黒川も、いつの間にか止めていた息を吐いた。
『だ、そうですよ』
画面をのぞき込む西村の顔が大写しになる。
二村は安心したようだが、黒川の心臓は再び暴れ出した。
修の様子は、とても冗談や嘘には見えなかった。ロッカーの中に爆弾がないのなら、やはり誰かが持ち去ったのだ。ご丁寧に、空のロッカーに再び鍵をかけて。
じゃあ、爆弾は一体どこへ?
隊員が、ロッカーの小さな扉の取っ手に指をかけた。
事前の検査で爆弾はなく、若い隊員が吹き飛んだりはしないとわかってはいても、妙に緊張してしまう。
小さい扉が開く。
画面がブレ、西村がロッカーの中を覗き込んでいる気配がする。
『なんか、紙が何枚か入っているだけですよ』
隊員の声が聞こえ、黒川はほっと緊張を解いた。
二村は立ち入り禁止のテープをくぐってロッカーへ近づいていく。
揺れるスマホの画面に、番号をふられて規則正しく並んだ鉄扉(てっぴ)が映し出される。
そして二村は隊員が戸を開けたままのロッカーの一つにスマホをむけた。
開いた扉の奥は暗く、よく見えない。そのうちにカメラの補正が働き、隊員のいうように底に何枚か紙が雑に置かれているのが分かった。
二村の片手が伸び、ぱらぱらとめくる。
なにやらほとんどがチラシのようだが、角度が悪くてよく見えない。
『ほとんどただの広告みたいです。あ、誰かの写真がありました』
「お、おい、もっとはっきり見せてくれって」
黒川のリクエストに応え、二村はスマホを紙に向ける。
(これは……)
観光名所や、高層ビルなど、人の集まる所のパンフレットやホームページを印刷したものだった。
(まさか、このどこかに爆弾を仕掛けたとでも?)
そして一枚の写真。そこに映っていたのは……
(ケイ! それと、ケイの友人か)
黒川は大きく息を吸って動揺を抑えた。
(なんだか、嫌な予感がする)
もちろん、修はケイの友人だ。一緒に写っていた写真を持っていても不思議ではない。でも、その写真が他でもない、このロッカーに入っているということは、ケイに対する何らかのメッセージに間違いない。
『あ、他にも写真が……』
西村が片手で苦労しながら写真をめくる。
(これは……)
『とりあえず、後で画像も送りますね』
二村がなかなか気の利く所を見せた。
「そうか、すまない」
『じゃあ、とりあえずいったん切りますね』
まずは、ケイに事の次第を教えて置いた方がいいだろう。
動揺のせいで間違えないように気をつけながら、黒川はスマホを操作した。
幸い、ケイはすぐに捕まった。
『それで、どうなった?』
電話が繋がったとたん、ケイはそう言った。
「ああ、それが……」
黒川は、今までのことを彼に告げた。
修を見つけたこと、そしてロッカーを調べたことを。
『それで、修は無事なんだな』
ケイの口調には、怒りと焦りがごっちゃにまざっていた。
無理もない。ただでさえ友人がいなくなったのは不安で心配だろうに、その友人が爆弾騒ぎにかかわったというのだから。
「ああ。といっても、医者に話を聞いたわけじゃないから、俺の見たところだけだが」
『よかった』
心の底から絞り出すような声だった。
「確かにそれはよかったが、問題は爆弾だ。おそらく誰かが持って行った後だ!」
きっと、共犯者がいるのだろう。といっても修の様子からして、その共犯者がどこに爆弾を仕掛けたのか、修自身も知らないようだが。
『ねえ、修の冗談ていうか、嘘ってことはないの?』
スマホ越しのケイの声は、すがりつくようだった。
「お前がそう思いたいのは分かるがな。残念だが、彼の様子からそれは考えられない」
『ええ? だとしたら、ヤバい事になるじゃんか。爆弾が行方不明ってことなんだから』
「……」
(まさしくその通り……)
『それで、ロッカーの中にはなにも入っていなかったの?』
「それがな、プリントの束が入っていた」
『プリント?』
どんなパンフレットがあったか、黒川は説明した。
『観光地とか、広場とかって賑わう場所の? それって……爆弾を仕掛ける場所を選んでいたとか……』
どうやら、ケイも同じことを考えていたようだ。
「あ、ああ、広告があるって聞いたときは、俺もそう思っていた。けど、他にも意味があるんじゃないかな」
さっき見た、二人の古い写真が頭に浮かぶ。
『他の意味?』
その写真について、一応自分なりの推測はあるが、何というか、言いづらい。
(自分のためにこんな事件が起きたなんてケイが知ったら……)
でも、言わないわけにはいかないだろう。
思い切って口を開く。
「あのな、プリントの他に、お前の写真があった」
ケイが息を呑んだのがスマホ越しに伝わって来る。
大学からの帰りをとらえた物だろう。街並みを背景に、リュックを背負ったケイが映っている。カメラの方を見ていないところを見ると、本人の了承を取って撮ったものではないようだ。
『なんで……なんでそんなもんが』
「そんなおそらく、クイズだと思う。お前に、その束(たば)の中のどこに爆弾を仕掛けたのか当てろっていう」
そうでないと、爆弾を取り出した後、犯人がわざわざロッカーのカギをかけたのは、広告や写真を誰かに盗られることなく、ケイに見せたかったのだろう。
『はあ?』
ケイの返事には怒りと驚きと困惑が混じっていた。
『なんでそんなこと!』
「さあな。だが、この犯人がお前にこだわっているのは確かだ」
ケイは黙り込んでしまった。
考える時間をあげたいのは山々だが、状況が許してくれない。
黒川は腕時計を見た。修と出会ってから、結構な時間が経っている。
もし本当に修が爆弾を仕掛けているなら、いつ爆発するか分からない。
「いいか、プリントにある施設を読み上げるぞ。ピンと来るものがあったら教えてくれ。ひょっとして、お前なら分かるかも知れない。いいか、スカイツリー、ヒカリラグーンショッピングモール――」
『それだ!』
飛びつくようにケイは言った。
「ボク、そこでバイトしたことがある」
『よし、分かった。すぐに人を向かわせる。状況が分かるまでそこを……』
動くな、と言い終わる前に、通話は切れた。
「ああ、クソッ」
黒川は手の平でハンドルを叩いた。
「ああ、だから、爆弾の設計図が……名前? 黒川だ。所属は……」
こっちが本当の警官か照会する時間がもどかしく、非常事態を告げる。
話ながら、自分の車に乗り込む。
スマホをフリーハンドに設定して、ダッシュボードに置いてエンジンをかけた。
「いいか、瑛実駅のロッカーだ! ロッカーの上に鍵があると言っていた」
『わ、わかりました。今すぐ報告を……』
本当だったら、爆弾処理班をぞろぞろ呼んで欲しい所だが、何せ図面書かれた落書きのような日時と、現在精神的に不安定になっている者の証言だけだ。黒川が期待するような対応は難しいだろう。
『私は二村と申します。何か進展があったら、また報告しますから』
それではいったん失礼します、と断って、二村は電話を切った。
再び二村から連絡が入ったのは、まだ黒川が瑛実駅にたどり着く前の事だった。
スマートフォンの画面に、若い警官の姿が映る。初めて見る二村は、いかにも実直そうな若者、という感じだった。
『瑛実駅』と看板のかかった小さな駅を背景に、二村は好奇心と、恐怖の入り混じったなんとも奇妙な表情をしていた。
『少し前に瑛実駅に到着しました。警備部から爆発物処理班が……』
二村はスマートホンを動かし、自分の背後を見やすくしてくれた。どうやらご丁寧にリアルタイムで映像を送ってくれるようだ。
ロッカーの周りは、黄色い規制線を張り巡らされていた。
「なに、なんかイベントか?」
「いや、事件っぽいですよ」
外回りの途中の上司と部下らしき二人組の会話が聞こえてきた。
「え、なんかドラマで見るみたいなテープ張ってあるよ、やばくない?」
女子高生はそう言いながらもなんだか楽しんでいるようだった。
他の人達も、物珍しそうに規制線の方を向きながら歩いていく。中には足を止める者もいるが、二村のお仲間が「立ち止まらないでください!」と追い立てている。
(爆弾の規模が分からない以上、もう少し距離を取った方がいいんじゃないか)
そう思ったが、手作りの爆弾ならこんなものかも知れない。
黒川は、道の端に車を停めた。こんな映像が送られてきたら、気になって運転どころではない。
ロッカーの中に何が入っているか、機動隊員の一人が確認することになったようだ。対爆スーツを着た隊員が見えた。
『これから、始まるようですよ』
黒川のスマホの小さな画面に、こちらを覗き込む二村が大写しになる。
景色が右から左に流れ、二村の姿が消えると、画像は古びた灰色のロッカーで止まった。立ち入り禁止の黄色いテープで囲まれている。
いまどき古いタイプのロッカーで、鍵で開閉する物だ。ロッカーの上には、スポーツ新聞や空缶が捨てられていた。
ごつい装備をして、大き目のアタッシュケースを持った隊員が一人、ロッカーに近づいて行く。
隊員は荷物を置くと、持って来た台に乗り、ロッカーの上を探る。そして、何かガムテープのようなものをはがしたようだった。
ヘルメット越しのくぐもった声で、隊員が二村に何かを言った。
音が遠く、黒川にははっきりと聞こえなかったが、二村が教えてくれた。
『ああ、鍵が貼り付けてあったみたいです』
画面の外から聞こえてくる二村の声は、少し緊張しているようだった。
(鍵が貼りけられていた……修の供述通りだ。だとすると、まさか爆弾も本当に?)
それに鍵があるということは、受取り人が来ていないということか? だとしたら、爆弾もそのまま?
隊員は台をおり、ケースから何か機械を取り出した。分厚いタブレット型の端末のようなものをロッカーの扉に当てている。
これで空港の荷物検査のように中を見ているのだろう。
『ば、爆弾なんて。ただのいたずらですよね』
二村の呟きは、どこか祈っているような響きがある。
答える気にもならず、黒川は画面の中で左右にすべる端末に見入った。警官も、口を閉ざず。
電車が通り過ぎていく。
黒川は思わずツバを飲み込んだ。
西村も何も言わなかった。
機動隊員は、しばらく中を探ってから機械を離した。そして二村の方に顔をむけて叫ぶ。
『爆弾は見つかりません!』
スマホ越しに、二村の安堵した溜息が聞こえてきた。
黒川も、いつの間にか止めていた息を吐いた。
『だ、そうですよ』
画面をのぞき込む西村の顔が大写しになる。
二村は安心したようだが、黒川の心臓は再び暴れ出した。
修の様子は、とても冗談や嘘には見えなかった。ロッカーの中に爆弾がないのなら、やはり誰かが持ち去ったのだ。ご丁寧に、空のロッカーに再び鍵をかけて。
じゃあ、爆弾は一体どこへ?
隊員が、ロッカーの小さな扉の取っ手に指をかけた。
事前の検査で爆弾はなく、若い隊員が吹き飛んだりはしないとわかってはいても、妙に緊張してしまう。
小さい扉が開く。
画面がブレ、西村がロッカーの中を覗き込んでいる気配がする。
『なんか、紙が何枚か入っているだけですよ』
隊員の声が聞こえ、黒川はほっと緊張を解いた。
二村は立ち入り禁止のテープをくぐってロッカーへ近づいていく。
揺れるスマホの画面に、番号をふられて規則正しく並んだ鉄扉(てっぴ)が映し出される。
そして二村は隊員が戸を開けたままのロッカーの一つにスマホをむけた。
開いた扉の奥は暗く、よく見えない。そのうちにカメラの補正が働き、隊員のいうように底に何枚か紙が雑に置かれているのが分かった。
二村の片手が伸び、ぱらぱらとめくる。
なにやらほとんどがチラシのようだが、角度が悪くてよく見えない。
『ほとんどただの広告みたいです。あ、誰かの写真がありました』
「お、おい、もっとはっきり見せてくれって」
黒川のリクエストに応え、二村はスマホを紙に向ける。
(これは……)
観光名所や、高層ビルなど、人の集まる所のパンフレットやホームページを印刷したものだった。
(まさか、このどこかに爆弾を仕掛けたとでも?)
そして一枚の写真。そこに映っていたのは……
(ケイ! それと、ケイの友人か)
黒川は大きく息を吸って動揺を抑えた。
(なんだか、嫌な予感がする)
もちろん、修はケイの友人だ。一緒に写っていた写真を持っていても不思議ではない。でも、その写真が他でもない、このロッカーに入っているということは、ケイに対する何らかのメッセージに間違いない。
『あ、他にも写真が……』
西村が片手で苦労しながら写真をめくる。
(これは……)
『とりあえず、後で画像も送りますね』
二村がなかなか気の利く所を見せた。
「そうか、すまない」
『じゃあ、とりあえずいったん切りますね』
まずは、ケイに事の次第を教えて置いた方がいいだろう。
動揺のせいで間違えないように気をつけながら、黒川はスマホを操作した。
幸い、ケイはすぐに捕まった。
『それで、どうなった?』
電話が繋がったとたん、ケイはそう言った。
「ああ、それが……」
黒川は、今までのことを彼に告げた。
修を見つけたこと、そしてロッカーを調べたことを。
『それで、修は無事なんだな』
ケイの口調には、怒りと焦りがごっちゃにまざっていた。
無理もない。ただでさえ友人がいなくなったのは不安で心配だろうに、その友人が爆弾騒ぎにかかわったというのだから。
「ああ。といっても、医者に話を聞いたわけじゃないから、俺の見たところだけだが」
『よかった』
心の底から絞り出すような声だった。
「確かにそれはよかったが、問題は爆弾だ。おそらく誰かが持って行った後だ!」
きっと、共犯者がいるのだろう。といっても修の様子からして、その共犯者がどこに爆弾を仕掛けたのか、修自身も知らないようだが。
『ねえ、修の冗談ていうか、嘘ってことはないの?』
スマホ越しのケイの声は、すがりつくようだった。
「お前がそう思いたいのは分かるがな。残念だが、彼の様子からそれは考えられない」
『ええ? だとしたら、ヤバい事になるじゃんか。爆弾が行方不明ってことなんだから』
「……」
(まさしくその通り……)
『それで、ロッカーの中にはなにも入っていなかったの?』
「それがな、プリントの束が入っていた」
『プリント?』
どんなパンフレットがあったか、黒川は説明した。
『観光地とか、広場とかって賑わう場所の? それって……爆弾を仕掛ける場所を選んでいたとか……』
どうやら、ケイも同じことを考えていたようだ。
「あ、ああ、広告があるって聞いたときは、俺もそう思っていた。けど、他にも意味があるんじゃないかな」
さっき見た、二人の古い写真が頭に浮かぶ。
『他の意味?』
その写真について、一応自分なりの推測はあるが、何というか、言いづらい。
(自分のためにこんな事件が起きたなんてケイが知ったら……)
でも、言わないわけにはいかないだろう。
思い切って口を開く。
「あのな、プリントの他に、お前の写真があった」
ケイが息を呑んだのがスマホ越しに伝わって来る。
大学からの帰りをとらえた物だろう。街並みを背景に、リュックを背負ったケイが映っている。カメラの方を見ていないところを見ると、本人の了承を取って撮ったものではないようだ。
『なんで……なんでそんなもんが』
「そんなおそらく、クイズだと思う。お前に、その束(たば)の中のどこに爆弾を仕掛けたのか当てろっていう」
そうでないと、爆弾を取り出した後、犯人がわざわざロッカーのカギをかけたのは、広告や写真を誰かに盗られることなく、ケイに見せたかったのだろう。
『はあ?』
ケイの返事には怒りと驚きと困惑が混じっていた。
『なんでそんなこと!』
「さあな。だが、この犯人がお前にこだわっているのは確かだ」
ケイは黙り込んでしまった。
考える時間をあげたいのは山々だが、状況が許してくれない。
黒川は腕時計を見た。修と出会ってから、結構な時間が経っている。
もし本当に修が爆弾を仕掛けているなら、いつ爆発するか分からない。
「いいか、プリントにある施設を読み上げるぞ。ピンと来るものがあったら教えてくれ。ひょっとして、お前なら分かるかも知れない。いいか、スカイツリー、ヒカリラグーンショッピングモール――」
『それだ!』
飛びつくようにケイは言った。
「ボク、そこでバイトしたことがある」
『よし、分かった。すぐに人を向かわせる。状況が分かるまでそこを……』
動くな、と言い終わる前に、通話は切れた。
「ああ、クソッ」
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