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二章
この焦りはなんなのかしら
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宿屋にファネットが戻ってくると、男二人は何か怖い顔をしていた。
「驚かないで聞いて欲しいのですが」
そう前置きして、ラティラスは今までの事を話してくれた。
リティシアがさらわれたこと、それにケラス・オルニスが関わっていること。そして、そのパーティーに侵入するのにファネットの協力が必要なこと。ファネットが自分達と離れることは危険だということも。
もちろん姫が行方不明になったことは話に聞いていたし、道化師が一人逃走中だというのも聞いていた。しかし、まさかその道化師がラティラスだったなんて。
それに、不思議と恐怖はなかった。危険だと言われても、いまいち現実味がなかった。
「というわけで、あなたに協力して欲しいのですが。あ、もちろんできればです。嫌だったらお留守番をしていても……」
「いえ、協力させていただきます」
自分で言っておきながら、まさかここまで簡単に承諾されるとは思わなかったのだろう。
ラティラスは少し驚いたようだった。
「い、いや、私が言うのも何ですが、もう少し考えた方がいいのでは……」
「これでもよく考えたんですよ?」
ファネットは微笑んだ。
「その、ケラス・オルニスというのは、この国を混乱させようとしているのでしょう? それは許せません」
「おお、あなたは正義感の強いお方だ! 女性の正義感も男のそれと変わるものではない!」
正義感。その言葉が、ファネットの心に引っ掛かった。
国を荒そうとしているケラス・オルニスの話を聞いたとき、確かに焦りのような、怒りのような物を感じた。しかし、これは正義感だろうか。
別にファネットはロアーディアル王家に恩を感じたことはないし、リティシアの姿を見たこともない。けれど、ケラス・オルニスをそのままにしてはいけないという妙な感覚があった。多分正義感とは違う、焦りにも似たジリジリとした感覚。
それは、たぶん言葉にしてラティラスに言った所で伝わらない。だからただ微笑むだけにする。
それにもちろん、ルイドバードと離れたくないというのもあった。
血なまぐさい殺し合いをしている時の表現にふさわしいか分からないが、剣を振るルイドバードは美しかった。それにちょっとした言葉や振る舞いから誠実で真面目な性格だというのも分かった。彼が何を考え、何をしようとし、その結果どうなるのかを知りたいと思った。
それに、ラティラスのことも気に掛かった。自分を人質に取りながら、刃からかばってくれたこの人は、ひどく傷ついているようだった。上手に隠しているけれど、時折見せる途方に暮れているような、迷子になったような目で分かる。誰かが傍にいてやることが必要に思えた。
「できる限り、君の安全は守る」
ファネットが仲間になるのが嫌というより、危険な目に遭わせてしまうかも知れないことが嫌なのだろう。まだベッドに横たわったままのルイドバードは、渋い顔をしていた。
「パーティーでは、入る時だけ人数合わせをしてくれればいい。ああいったのは出るのは簡単なものだ。私達が中に入ってしまったら、逃げ出せばいい」
「はい」
そこでラティラスがルイドバードの顔を覗きこんだ。
「大丈夫ですか? なんだかまだ顔色が悪くなったようですよ」
「ああ、悪いがまためまいがしてきた」
「あ、で、では私は自分の部屋に戻ります。どうぞゆっくり休んで……」
「まさかレディとむさい男二人組と同じ部屋に押し込めるわけにはいかないですからね」
今まで気を失っていて部屋割りなんて知る事ができなかったルイドバードに、ラティラスが説明をする。
「ファネットさんだけ別室ですよ。ま、ワタシと一緒なのは我慢してください、ルイドバード」
「それでは、失礼いたします」
廊下を出たファネットに、扉の隙間からラティラスの声が聞こえてきた。
「なかなかかわいらしいお嬢さんですね」
残念ながら、それに対する返事は聞き取れなかった。
「驚かないで聞いて欲しいのですが」
そう前置きして、ラティラスは今までの事を話してくれた。
リティシアがさらわれたこと、それにケラス・オルニスが関わっていること。そして、そのパーティーに侵入するのにファネットの協力が必要なこと。ファネットが自分達と離れることは危険だということも。
もちろん姫が行方不明になったことは話に聞いていたし、道化師が一人逃走中だというのも聞いていた。しかし、まさかその道化師がラティラスだったなんて。
それに、不思議と恐怖はなかった。危険だと言われても、いまいち現実味がなかった。
「というわけで、あなたに協力して欲しいのですが。あ、もちろんできればです。嫌だったらお留守番をしていても……」
「いえ、協力させていただきます」
自分で言っておきながら、まさかここまで簡単に承諾されるとは思わなかったのだろう。
ラティラスは少し驚いたようだった。
「い、いや、私が言うのも何ですが、もう少し考えた方がいいのでは……」
「これでもよく考えたんですよ?」
ファネットは微笑んだ。
「その、ケラス・オルニスというのは、この国を混乱させようとしているのでしょう? それは許せません」
「おお、あなたは正義感の強いお方だ! 女性の正義感も男のそれと変わるものではない!」
正義感。その言葉が、ファネットの心に引っ掛かった。
国を荒そうとしているケラス・オルニスの話を聞いたとき、確かに焦りのような、怒りのような物を感じた。しかし、これは正義感だろうか。
別にファネットはロアーディアル王家に恩を感じたことはないし、リティシアの姿を見たこともない。けれど、ケラス・オルニスをそのままにしてはいけないという妙な感覚があった。多分正義感とは違う、焦りにも似たジリジリとした感覚。
それは、たぶん言葉にしてラティラスに言った所で伝わらない。だからただ微笑むだけにする。
それにもちろん、ルイドバードと離れたくないというのもあった。
血なまぐさい殺し合いをしている時の表現にふさわしいか分からないが、剣を振るルイドバードは美しかった。それにちょっとした言葉や振る舞いから誠実で真面目な性格だというのも分かった。彼が何を考え、何をしようとし、その結果どうなるのかを知りたいと思った。
それに、ラティラスのことも気に掛かった。自分を人質に取りながら、刃からかばってくれたこの人は、ひどく傷ついているようだった。上手に隠しているけれど、時折見せる途方に暮れているような、迷子になったような目で分かる。誰かが傍にいてやることが必要に思えた。
「できる限り、君の安全は守る」
ファネットが仲間になるのが嫌というより、危険な目に遭わせてしまうかも知れないことが嫌なのだろう。まだベッドに横たわったままのルイドバードは、渋い顔をしていた。
「パーティーでは、入る時だけ人数合わせをしてくれればいい。ああいったのは出るのは簡単なものだ。私達が中に入ってしまったら、逃げ出せばいい」
「はい」
そこでラティラスがルイドバードの顔を覗きこんだ。
「大丈夫ですか? なんだかまだ顔色が悪くなったようですよ」
「ああ、悪いがまためまいがしてきた」
「あ、で、では私は自分の部屋に戻ります。どうぞゆっくり休んで……」
「まさかレディとむさい男二人組と同じ部屋に押し込めるわけにはいかないですからね」
今まで気を失っていて部屋割りなんて知る事ができなかったルイドバードに、ラティラスが説明をする。
「ファネットさんだけ別室ですよ。ま、ワタシと一緒なのは我慢してください、ルイドバード」
「それでは、失礼いたします」
廊下を出たファネットに、扉の隙間からラティラスの声が聞こえてきた。
「なかなかかわいらしいお嬢さんですね」
残念ながら、それに対する返事は聞き取れなかった。
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